Q 当寺では、これまで宗教法人格を取得せずに寺院として宗教活動を行ってきましたが、今後の寺院運営や財産管理を考え、宗教法人格を取得したいと考えています。寺院は、どのような場合に宗教法人になることができるのでしょうか。また、宗教活動を始めればすぐに宗教法人を設立することができるのでしょうか。

目次
1 宗教法人格は「宗教活動をするための許可」ではない
宗教活動を行うためには必ずしも宗教法人格を取得しなければならないというわけではありません。
憲法第20条では信教の自由が保障されていますので、宗教法人格を持たない個人や団体であっても宗教活動を行うこと自体は可能です。
宗教法人制度は、既に存在する宗教団体に法律上の法人格を与え、礼拝施設その他の財産を法人名義で所有・管理したり、その目的達成のための業務や事業を継続的に行ったりすることを可能にするための制度です。
したがって、これから寺院を始めたいので宗教法人を設立するという順序ではなく、まず宗教団体としての実体が存在しており、その後に法人格を取得していくという順序になります。
2 宗教法人になれる「宗教団体」とは
宗教法人法第2条は、「宗教団体」について、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、信者を教化育成することを主たる目的とする団体であることを求めています。
そのうえで、寺院の場合には、礼拝の施設を備える寺院その他これに類する団体であることが必要です。
したがって、寺院が宗教法人格を取得するためには、少なくとも、
① 宗教上の教義があり、その教義を広める活動が行われていること
② 法要、祭礼その他の宗教上の儀式行事が継続的に行われていること
③ 信者が存在し、その教化育成が行われていること
④ 寺院としての礼拝施設を備えていること
といった実態が必要となります。
なお、文化庁が令和5年11月に発行した「宗教法人のための運営ガイドブック」では、礼拝施設について、「公開性を有する礼拝の施設」が必要であるとの考え方が示されています。
3 形式だけ整えても宗教法人にはなれない
宗教法人法第2条の要件を形式的に整えただけでは、宗教法人格を取得できるわけではありません。
文化庁は、宗教法人になるためには、その前提として宗教法人法上の宗教団体が既に存在し、現に活動していなければならないとしています。また、形式的には宗教団体の要件が整っているように見えても、実際に団体としての実体がなく、独自の活動実績がない場合には、宗教法人になることはできないと説明しています。
所轄庁の審査においても、単に規則や信者名簿を作成したというだけではなく、実際にこれまでどのような宗教活動を行ってきたのかが確認されます。
そのため、例えば、
・寺院の沿革や宗教活動を開始した経緯
・教義や宗教上の目的
・年間の法要、祭礼その他の宗教行事の実績
・宗教活動の写真、案内状、会報等
・信者の存在や活動状況
・礼拝施設の状況
・団体の意思決定方法や役員構成
・財産や会計の管理状況
などが、宗教団体としての実体を確認するための資料となります。
4 「3年間活動すれば宗教法人になれる」のか
宗教法人の設立について、「3年以上の宗教活動の実績が必要である」と説明されることがあります。
しかし、宗教法人法自体に「3年間活動しなければ宗教法人になれない」という規定があるわけではありません。
一方、所轄庁は、申請する団体が実際に宗教団体としての実体を有しているかを審査する必要があります。このため、審査実務上、一定期間の活動実績を示す資料の提出を求める取扱いが行われています。例えば、一部の都道府県では、宗教団体としての活動状況について、過去3年程度の実績を確認することを審査基準等で明示しています。
したがって、「3年間活動すれば当然に宗教法人になれる」というわけでも、「法律上、必ず3年間待たなければならない」というわけでもありません。
重要なのは、申請時点において、宗教法人法上の宗教団体としての実体と継続的な活動実績を客観的に示すことができるかどうかということです。
実際の取扱いは所轄庁によって異なる部分もあるため、宗教法人格の取得を検討する段階で、早めに所轄庁へ事前相談を行うことが重要です。
5 規則を作成し、所轄庁の認証を受ける
宗教団体としての実体を備えていれば、それだけで自動的に宗教法人になるわけではありません。
宗教法人を設立しようとする場合には、宗教法人法第12条に基づき、その法人の根本的なルールとなる「規則」を作成しなければなりません。
規則には、法人の目的、名称、事務所の所在地、代表役員及び責任役員等の機関、財産管理、予算・決算・会計、規則変更、公告方法等について定める必要があります。
また、宗派等の包括宗教団体に所属する寺院の場合には、包括宗教団体との関係や、宗派の規程上必要となる手続についても確認しなければなりません。
そして、規則の認証申請を行う少なくとも1か月前に、信者その他の利害関係人に対し、規則案の要旨を示して宗教法人を設立しようとする旨を公告しなければなりません(同条第3項)。
これらの準備が完了した後に所轄庁に規則の認証を申請することになります。
宗教法人法第14条により、所轄庁は、
① 申請団体が宗教法人法上の「宗教団体」であること
② 規則が宗教法人法その他の法令に適合していること
③ 設立手続が上記宗教法人法第12条に従って行われていること
を審査し、これらの要件を満たしていると認めた場合に限り、規則を認証します。
6 認証を受けただけでは宗教法人は成立しない
所轄庁から規則の認証を受けただけでは、まだ宗教法人は成立していません。
宗教法人法第15条は、宗教法人は、主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによって成立すると定めています。
したがって、
宗教団体としての活動
↓
規則の作成
↓
信者その他の利害関係人への公告
↓
所轄庁への規則認証申請
↓
規則の認証
↓
設立登記
という一連の手続を経て、初めて宗教団体が宗教法人格を取得することになります。
7 宗教法人格の取得が容易ではない理由
宗教法人格の取得は、株式会社などの一般的な法人の設立と比べ、容易な手続ではありません。
その大きな理由は、必要な書類を作成して申請すれば足りるのではなく、申請に先立って、宗教法人法上の「宗教団体」としての実体が既に存在し、現に継続的な宗教活動を行っていることを客観的な資料によって示す必要があるためです。
文化庁も、「宗教団体」は何もないところから一朝一夕に生まれるものではなく、形式的に要件が整っているように見えても、実際に団体としての実体がなく、独自の活動実績がない場合には宗教法人にはなれないと説明しています。
また、所轄庁の審査では、宗教行事や信者、礼拝施設といった宗教活動の実態だけでなく、団体としての組織、意思決定、会計、財産管理などについても確認されます。例えば、滋賀県では、過去3年間程度の宗教活動の実績に加え、規約に従った組織運営、収支計算、財産の独立性などを確認することが審査基準に明示されています。愛知県でも、規約に沿った過去3年程度の活動実績を示す書類の提出を求めています。
さらに、宗教法人法第14条は、申請団体が宗教団体であること等の要件を満たしているか否かを提出書類から確認できない場合においては、所轄庁において認証することができない旨の決定をするものと定めています。したがって、単に形式的な申請書類を整えるだけでは足りず、これまでの宗教活動や団体運営の実績を客観的に説明できる状態にしておくことが重要です。
もっとも、宗教法人の設立認証は、所轄庁が自由な裁量によって法人格を与えるかどうかを決める制度ではありません。あくまで宗教法人法が定める要件を満たしているかを審査する制度です。その意味で、宗教法人格取得の難しさとは、宗教団体としての実体と継続性を十分な資料によって示す必要があるという点にあります。
8 本件ケースにおける対応
本件のように、既に寺院として一定期間にわたり宗教活動を行っている場合には、まず、現在の活動実態が宗教法人法第2条の「宗教団体」に該当するかを確認することになります。
その際には、教義、宗教行事、信者、礼拝施設といった宗教活動の実態だけでなく、団体としての組織運営、意思決定、財産管理及び会計処理が継続的に行われてきたことを示せるよう、これまでの資料を分かりやすく整理しておくことが極めて重要です。
そのうえで、所轄庁に事前相談を行い、どの程度の活動実績や資料が必要となるのかを確認しながら、規則案の作成や認証申請の準備を進めることになります。
宗教法人の設立は、一般の会社の設立のように、必要な書類を作成して登記をすれば当然に法人格を取得できるという制度ではありません。宗教団体としての実体が存在することが大前提となるため、将来的に宗教法人格の取得を考えている寺院では、早い段階から宗教活動や団体運営の記録を適切に残しておくことが重要です。
宗教法人の設立、規則の作成、所轄庁との事前協議、規則認証申請その他の宗教法人に関する各種手続については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、宗教法人格の取得を検討されている寺院・宗教団体の方はお気軽にご相談ください。





