寺社の解散命令とは?解散命令がなされるケースと手続きを解説

Q 寺社に対する解散命令とは一体どのようなものなのでしょうか。また、解散命令はどのような場合において、誰が、どのような手続にてなすのでしょうか。

1 宗教法人法第81条「解散命令」について

 宗教法人法は、宗教団体が自らの掲げる公益目的を達成することを保護するために、一定の条件を備えた場合において、その宗教団体に法人格を付与することを認めています。

 それゆえ、その法人格が濫用され、宗教法人としての行為活動が社会一般や公益を害するものであって法によってその宗教団体に法人格を付与すべき実質的意義がない場合や、宗教団体としての要件を欠く場合においては、そもそも法に基づいて宗教法人格を付与して保護すべきではありません。

 そこで、このような場合においては、公正な裁判所の関与のもとで宗教法人の解散を命じることで、その宗教団体から法人格を一方的に剥奪できるものとしました(宗教法人法第81条)。

2 解散命令がなされるケース

 裁判所による解散命令は以下の5つの場合においてのみなされます(法第81条1項)。

   ① 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした場合

   ② 宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をした場合または1年以上にわたってその目的のための行為をしない場合

   ③ 当該宗教法人が礼拝の施設を備えることを要件とされている場合において、礼拝の施設が滅失し、やむを得ない事由がないのにその滅失後2年以上にわたってその施設を備えない場合

   ④ 1年以上にわたって代表役員及びその代務者を欠いている場合

   ⑤ 設立にかかる認証交付から1年を経過している場合に、その宗教団体が宗教法人法第2条に規定する宗教団体ではないことが判明した場合

 上記①については、宗教法人が犯罪行為などの違法行為を行っていたケースがこれに該当します。

宗教団体構成員の大部分あるいは中心メンバーが宗教法人の組織的行為としてその犯行に関与するなど、重大な犯罪の実行行為と宗教法人の組織や活動との間に社会通念上切り離すことのできない密接な関係がある場合がこれに当たります。ここにおいては「実質的にみて宗教団体の組織的行為と認められるか否か」がその判断基準となります。

 これに該当して解散命令が出されたケースとしては、2023年現在においては、地下鉄サリン事件などを起こした平成7年の「オウム真理教」と、和歌山県に本部を置き霊視商法詐欺事件を起こした平成11年の「明覚寺」のわずか2件のみです。

3 解散命令の手続

 解散命令は非訟事件手続法に則り、管轄地の地方裁判所が命ずることでなされます(法第81条7項)。

 手続としては概ね以下の流れにて実施されます。

   ① 所轄庁、利害関係人、検察官から裁判所に対する解散命令の請求

   ② 宗教法人に対する反論等の機会付与

   ③ 請求人、宗教法人の意見陳述、審問

   ④ 裁判所の職権による事実探知と証拠調べ

   ⑤ 審理の結果、解散が相当と認められれば解散命令、不相当と判断されれば請求棄却を裁判所が決定

  これらの手続は訴訟手続ではなく非訟事件として取り扱われますので、すべて非公開にて行われます。

  なお、宗教法人の解散後において、元信者などが解散した宗教法人が掲げていた教義などを信奉して新たに任意団体として宗教活動を行うことについては宗教法人法は禁止していません。

  平成7年の宗教法人法の改正に伴い、解散命令(同法第81条)との関わりにおいて、所轄庁に宗教法人に対する報告の徴収、質問の権限が付与されており(同法第78条の2)、所轄庁に対しては同権限を行使することにより慎重に解散命令の対象となるべき事情の有無を事前に調査確認することが期待されています。

4 解散命令の実態

 裁判所による解散命令の決定は稀になされおりますが、宗教法人としての活動実績がないなどといった理由に基づき、不活動宗教法人対策としてなされるケースがほとんどです。

 公益目的ないし宗教団体の目的を逸脱する場合、すなわち法第81条1項1号「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」場合による解散は、上記のとおり平成7年のオウム真理教(サリン事件)と平成11年の明覚寺(霊視商法詐欺事件)のわずか2件のみです。

 今後においては、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する法第81条1項1号に基づく解散命令の是非が焦点となってくるところですが、この判断においては「実質的にみて宗教団体の組織的行為として認められるか否か」が最大の争点となります。

 これに際しては、過去の判例としてオウム真理教事件及び明覚寺事件にかかる裁判記録が大変重要な参考資料となるところ、2022年11月、最高裁がこれら貴重な先行事件の記録を誤って廃棄してしまったことが判明しました。宗教法人法に基づく解散を命じた希少な記録が永遠に失われてしまったことを受けて、裁判記録の適切な保存保管の声が高まっているところです。

 寺社の解散命令への対応については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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