寺院の後継者がいない場合の対応

Q 当寺では住職が高齢となってきましたが、子どもは僧侶ではなく、寺院を継ぐ弟子もいません。現在のところ住職は寺務を行うことができていますが、このまま後継者が決まらないまま住職が退任又は死亡した場合、寺院の運営を続けることができるのか不安があります。寺族以外の僧侶に住職を継いでもらうことや、他の寺院の住職に兼務してもらうことはできるのでしょうか。また、どうしても後継者が見つからない場合には、他の寺院との合併や寺院の解散まで検討する必要があるのでしょうか。

1 後継者不足への早期対応

  寺院に後継者がいないからといって、そのことだけで直ちに宗教法人が解散したり、寺院としての活動を継続できなくなったりするわけではありません。

しかし、住職の高齢化等が進み、後任者が決まらないまま代表役員や責任役員に欠員が生じると、宗教法人として必要な意思決定を行うこと自体が難しくなるおそれがあります。

  文化庁も、後継者の不在、檀家・氏子等の信者の減少、法人運営上の課題等を放置すると、宗教法人としての運営・活動の継続が困難となるとして、宗教法人としての意思決定ができなくなる前に所轄庁や包括宗教法人へ相談するよう呼び掛けています。

  後継者問題は住職が死亡してから初めて対応に着手するような問題ではありません。

現住職が元気で責任役員会その他の法人機関が正常に機能している段階から、後任住職を確保できるのか、他寺院との連携や合併を検討すべきなのか、最終的に解散まで視野に入れる必要があるのかを順序立てて検討しておくことが非常に重要です。

2 住職の地位と相続

  寺院の後継者を考える際にまず確認しておくべきなのは、住職の地位は土地や預貯金などの財産のように相続によって当然に承継されるものではないということです。

  寺院では住職の子息や親族が代々住職を務めているケースも多く、住職の子が当然に寺院を継ぐものと考えられがちです。

しかし、住職は宗教上の地位であり、その資格、選任、任免等については、当該寺院の規則や所属宗派の宗制・宗規、住職任免規程等に従って判断されます。

  また、住職と宗教法人の代表役員も法律上は同じ地位ではありません。寺院規則において「住職にある者をもって代表役員とする」など両者を連動させている場合は多くありますが(いわゆる充て職)、後任住職の選任手続については、寺院規則及び宗派規則に従って確認する必要があります。

  したがって、「住職に子供がいない」ということと「寺院に後継者を置くことができない」ということは同じではありません。寺族に適任者がいない場合であっても、規則上の資格を満たす他の僧侶を後任住職として迎えることが可能な場合があります。

3 外部からの後継住職の確保

  寺族や弟子の中に後継者がいない場合には、まず所属宗派や包括宗教法人に相談し、寺族以外から後任住職を確保することができないかを検討することになります。

  宗派によって住職となるための教師資格、僧階、年齢、推薦手続、任命手続等が異なっていることがあります。そのため、単に「知り合いの僧侶に寺を継いでもらう」という当事者間の合意だけで住職を決めることができるとは限りません。寺院規則と宗派の宗制・宗規等を確認し、必要な資格と手続を満たす候補者を探す必要があります。

  また、後任候補者を迎える場合には、住職就任の手続だけでなく、代表役員への就任、責任役員の構成、寺院財産の管理、庫裏の使用、役員報酬又は給与、墓地・納骨堂の管理、寺族との関係等についても事前に整理しておくことが望まれます。

  特に、現住職や寺族が個人名義で所有している土地建物を寺院が使用している場合や、寺院財産と住職個人財産の区別が明確でない場合には、後継者を迎えた後に財産関係を巡って紛争となることがあります。後継者選定と同時に、寺院の財産関係についても整理しておくことが重要です。

4 兼務や代務による対応

  直ちに恒久的な後継者を確保することが難しい場合には、所属宗派の制度上、他寺院の住職等に当該寺院の住職を兼務してもらったり、住職の代務者を置いたりする方法が認められていることがあります。

  このような制度を利用することで、後継者を探す間も法要、檀信徒対応、墓地管理その他の宗教活動を継続しながら、時間をかけて将来の運営体制を検討することが可能となります。ただし、兼務や住職代務に関する制度の内容は宗派ごとに異なるため、所属宗派の宗制・宗規等を確認する必要があります。

  また、宗派上の「住職代務者」等と、宗教法人法第20条にいう「代表役員代務者」とは別の制度である点にも注意が必要です。前者は宗教上の住職の職務を代行する制度であるのに対し、後者は宗教法人の代表役員が欠けた場合等に法人としての職務を代行する制度です。

  したがって、住職の兼務者や代務者を置いたからといって、当然に宗教法人法上の代表権まで与えられるとは限りません。誰が住職として宗教活動を担当し、誰が代表役員又はその代務者として法人を代表するのかをそれぞれ確認する必要があります。

5 他の寺院との合併

  後継者を確保することが難しく、寺院単独での運営を将来にわたって継続することが困難である一方、寺院の宗教活動や財産を他の宗教法人に承継させたい場合には、他の寺院との合併を検討する方法があります。

  宗教法人法第32条は宗教法人の合併を認めており、合併の方法には、一方の宗教法人を存続させて他方を吸収する「吸収合併」と、当事者となる宗教法人がいずれも解散し、新たな宗教法人を設立する「新設合併」があります。

  合併が成立した場合、宗教法人法第42条により、合併後存続する宗教法人又は合併によって設立された宗教法人は、合併により解散した宗教法人の権利義務を包括的に承継することになります。このため、寺院を単に閉鎖するのではなく、宗教活動や法人財産を別の宗教法人へ法的に承継させる方法として合併制度を利用することができます。

  もっとも、合併には、各宗教法人の規則に基づく意思決定、合併契約、檀信徒その他の利害関係人への公告、債権者保護手続、所轄庁による認証、登記等の複雑な手続が必要となります。また、墓地・納骨堂その他の許認可等については、合併に伴ってどのような手続が必要となるかを個別に行政庁へ事前確認することも必要です。

  したがって、合併を検討する場合においては、後継者が完全に不在となり法人として意思決定ができなくなる前の段階で、相手方となる寺院との間で協議を開始することが重要です。

合併の具体的な手続については、別稿「お寺の合併」において詳しく説明しています。

6 任意解散という選択肢

  外部から後継者を迎えることも、他の寺院との合併によって宗教活動を承継することも困難であり、将来的に寺院としての活動を終了せざるを得ない場合には、宗教法人を任意に解散することも選択肢となります。

  宗教法人法第43条第1項は、宗教法人が任意に解散することができる旨を定めています。

任意解散を行う場合には、同法第44条以下に従い、規則に定められた手続による法人内部の意思決定、檀信徒その他の利害関係人に対する公告、所轄庁による認証等を経る必要があります。

  解散した宗教法人は直ちに消滅するわけではなく、その後は清算手続に入り、債権の回収、債務の弁済、残余財産の処分等を行うことになります。残余財産は住職やその相続人が自由に取得できるものではなく、宗教法人法第50条に従い、まず寺院規則の定めにより処分され、規則に定めがない場合には他の宗教団体又は公益事業のために処分することができ、それでも処分されない財産は最終的に国庫に帰属することになります。

  寺院が墓地や納骨堂を経営している場合には、檀信徒や墓地使用者との関係、埋蔵・収蔵されている遺骨の取扱い、将来の管理体制等についても整理しなければなりません。そのため、後継者がいないという理由だけで突然寺院を閉鎖することはできず、相当な準備期間を設けて処理する必要があります。

  任意解散の具体的な手続については、別稿「寺社の解散」において詳しく説明しています。

7 寺院財産と檀信徒への対応

  後継者問題を検討する際には、「誰を次の住職にするか」だけでなく、寺院が負っている法律関係全体を確認しておく必要があります。

  寺院には、本堂、庫裏、境内地、預貯金、寺宝等の財産だけでなく、借地・賃貸借関係、職員との雇用契約、取引先との契約、墓地・納骨堂の使用関係、永代供養に関する約束など、多数の法律関係が存在します。

  後任住職を迎える場合であっても、合併又は解散を行う場合であっても、これらの法律関係を事前に洗い出し、何をそのまま継続し、何を変更し、何を終了させるのかを整理する必要があります。特に墓地や永代供養に関する問題は、長期間にわたり多数の檀信徒等に影響を及ぼすことになるため、その判断には慎重な対応が必要です。

  また、寺院の土地建物その他の法人財産を、後継者がいないことを理由に現住職や寺族へ移転することが当然に認められるものではありません。宗教法人の財産処分については、寺院規則、宗教法人法第23条その他の関係法令に従った手続が必要となる場合があります。

8 宗教法人格の売却は解決策にならない

  後継者がいない寺院に対し、「宗教法人を買いたい」、「代表役員を交代させれば法人格を高額で譲渡できる」などと持ちかけられる場合があります。

しかし、後継者不足の解決方法として、宗教法人格を経済的価値のある商品として第三者へ売却することを考えるべきではありません。

  宗教法人には株式会社の株式のように法人そのものの支配権を自由に売買できる仕組みはなく、代表役員その他の役員も各宗教法人の規則等に従って適法に選任されなければなりません。

  また、文化庁は、元来の宗教活動を継続・承継する意思のない第三者が宗教法人の代表役員の地位等を取得するような取引について、脱税やマネー・ローンダリング等の違法行為に悪用され、宗教法人格の不正利用につながるおそれがあるとして注意を促しています。

  後継者を確保できない場合には、適切な宗教者への承継、他の宗教法人との合併、任意解散等の法定の手続を検討すべきであり、宗教法人格の売買によって問題を処理しようとすることは避けるべきです。

この点については、別稿「不活動宗教法人の売買」において詳しく説明しています。

9 不活動のまま放置しないこと

  後継者が決まらないからといって、何も対応せず寺院をそのまま放置することは適切ではありません。宗教活動を停止したまま法人格だけが残ると、いわゆる不活動宗教法人となり、寺院財産の管理や法人運営が困難になるだけでなく、第三者による宗教法人格の不正利用につながる危険もあります。

  宗教法人法第81条第1項第2号は、宗教団体の目的のための行為を1年以上行わないことを裁判所による解散命令事由の一つとしています。また、同項第4号は、1年以上にわたって代表役員及びその代務者を欠いていることも同様に解散命令事由としています。

  もちろん、単に「後継者が決まっていない」というだけで直ちにこれらの規定に該当するものではありません。

しかし、住職の退任又は死亡後も後任者や代務者を置かず、宗教活動も行わない状態を長期間放置すれば、宗教法人の存続自体に関わる問題へ発展する可能性があります。

  特に、現住職が高齢であるにもかかわらず、責任役員も高齢化し、役員の補充も難しくなっている場合には注意が必要です。法人として正常に意思決定できるうちに、将来の方向性をしっかりと決めておくことが重要です。

10 本件ケースにおける対応

  本件では、現住職が高齢となっている一方、寺族や弟子の中に後継者がいない状況です。この場合、現時点で直ちに寺院を解散する必要があるわけではありません。まずは寺院規則及び所属宗派の宗制・宗規等を確認し、寺族以外の僧侶を含めて後任住職を確保することができないかを最優先で検討することになります。

  具体的には、まず所属宗派又は包括宗教法人へ相談し、後任候補者の紹介、他寺院の住職による兼務、住職代務その他利用可能な制度がないかを確認するのが適切です。その上で、恒久的な後継者を確保できるのであれば、住職及び代表役員の承継手続を進めることになります。

  他方、単独の寺院として将来にわたって運営を続けることが困難である場合には、他の宗教法人との合併を検討します。合併相手も存在せず、宗教活動を継続する現実的な見込みがない場合には、最終的には任意解散及び清算も選択肢となります。

  このように、寺院の後継者がいない場合の対応には、

① 外部からの後継住職の確保

② 兼務・代務等による当面の運営

③ 他の宗教法人との合併

④ 任意解散

という複数の選択肢があります。どの方法を採るべきかについては、寺院規則、宗派の制度、檀信徒の状況、寺院財産、墓地・納骨堂の有無、債権債務その他の事情によってケースバイケースです。

  最も避けるべきなのは、何も決めないまま現住職が退任又は死亡し、宗教法人として意思決定することができない状態となってしまうことです。後継者不足が明らかになった段階で、早めに将来の運営方針を検討し始めることが重要です。

 寺院の後継者問題、住職・代表役員の承継、他寺院との合併、宗教法人の解散、不活動宗教法人の整理その他寺院運営に関する法律問題については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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