お寺の代表役員の解任とは?

Q 弊寺の住職は代表役員を兼ねておりますが、最近、住職が外部のコンサルタントを名乗る者と結託して、寺院の財産を責任役員会や総代会にも無断で勝手に売却など処分している疑いが出てきました。帳簿書類なども住職がどこかに持ち去ってしまい、責任役員会が開示を求めても一切応じてもらえません。寺としてはこのまま代表役員の横暴を見過ごすわけにはいきません。寺にてこのような代表役員を一方的に解任することはできますか。

1  代表役員の「選任」手続

 宗教法人法は、宗教法人には3人以上の責任役員をおき、そのうちの1人を代表役員にすることを規定しています(第18条1項)。そして、責任役員の中から代表役員を選任する方法については、寺院規則に特別な定めがあればそれに従うことになりますが、そのような規則がない場合には、責任役員同士の話し合いによる互選によって代表役員を定めるものとしています(同条2項)。

このように選任された代表役員は当該宗教法人を代表してその事務を総理し決定する権限を有することから(同条第3項、4項)、代表役員には住職の立場にある者が就くのが一般的です。

  

2 代表役員の「解任」手続

 上述のように、代表役員の「選任」手続については宗教法人法に具体的な定めがある一方で、代表役員の「解任」については、一方的に解任できるかどうかはもちろんのこと、その具体的な解任手続、解任権を行使すべき者など、何ひとつ法律には規定がありません(なお、代表役員を含む責任役員の「任期」については寺院規則の必要的記載事項となっています(宗教法人法第12条1項5号)。)。

 解任手続等について規則に記載がある場合には、基本的にはその記載に従って手続を進めていけば良いのですが、多くの宗教法人においては解任手続についての条項を規則にことさら明記していないということもあり、本件のように実際にトラブルになった際に、どのような手続で誰が解任するのか、そもそも代表役員の承諾なく一方的に解任させることができるのかといった点で争いになることが少なくなりません。

 かような状況においては、規則に解任手続等の規定がない場合、そもそも宗教法人にて、代表役員の意に反して強制的にその地位を解任して剥奪することができるのかどうかが問題になります。

 これについては、ある団体の機関を構成するものの選任と解任は同一の機関の権限に帰属するのが通例であることから、宗教法人においても、規則にことさら解任手続の規定がなされていない場合であっても、代表役員の選任権限を有する機関が同じように解任権限をも併せて有すると考えることになります。

 具体的には、当該宗教法人の規則において、上述の宗教法人法第18条の規定と同様に、責任役員の互選によって代表役員を選任するとの規定になっている場合においては、代表役員の選任機関は責任役員会となりますから、責任役員会において代表役員の解任権を有することになります。この場合、責任役員会は他の事務と同様、責任役員の議決権はそれぞれ1人1票であることを前提に、定数の過半数で解任の是非を決定することになります(宗教法人法第19条)。

 他方、宗教法人によっては、代表役員については信徒総会にて選任する等、宗教法人法第18条の規定とは異なり、責任役員会ではない機関に選任権限が与えられているケースもあります。この場合においては、選任機関と解任機関の一致という観点に照らし、責任役員会には代表役員の解任権はなく、その権限は信徒総会等規則規定の選任機関に帰属することになります。ここにおいては、信徒総会等が、他の事務と同様に多数決等規則に定める方法にて解任の是非につき決定することになります。

3 本件ケースにおける対応

 本件において、代表役員の解任手続を適法に進めるにあたっては、代表役員の解任権限が誰に帰属しているのか等につき、寺院規則の内容や過去の運用等を精査する必要があります。万が一、解任権限を有しない機関にて解任決議がなされた場合には当該解任決議は無効となるところ、これを徒過したまま新たな責任役員を選任して事務を進めることは無効に無効を重ねることとなり宗教法人としての事務の安定性を大きく損なう危険性があります。

 責任役員の解任手続については、その解任権者が誰なのかの特定はもちろんのこと、後継の代表役員の選別や包括宗教団体への事前連絡その他の段取りも含め専門家に相談されることを強くお勧めいたします。

 代表役員の解任を巡るトラブルの具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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