寺社の収益事業

Q 弊寺としては、先般、長いこと寺が貸していた土地が返還されたため、この土地を使って新たにマンションを建てて賃料収入を得たいと思っています。寺がマンション経営をすることについて何か問題はありますか?

1寺社と税法上の特例

 株式会社など一般的な法人が事業活動を行う場合には法人税など様々な税金が課税されることになります。

 その一方で、寺社を含む宗教法人については本来の活動である宗教活動については基本的に「非課税」とされており、税制上多くの優遇措置を受けています。

 宗教法人が「宗教の教義を社会一般に広めること」、「宗教としての儀式行為を執行すること」、「信者の宗教的な教育育成」との3つの目的に従って宗教活動や公益事業をしている限り、法人税などは課税されないというのが基本的な原則になります。

 しかし、寺社が課税されないのは「宗教活動」と「非収益事業(公益事業)」ついてのみであり、収益事業から生じる所得については営利法人と同様に法人税等の課税対象となりますので、その判別も含めて注意が必要です。ただ、収益事業で課税される場合であっても、その税率は一般的な法人に比して低い税率が適用されるなど、ここでも優遇措置はとられています。

2寺社の収益事業

 寺社の活動としては「宗教活動」、「公益事業」、そして「収益事業」の3種類があります。そのうち、「宗教活動」と「公益事業」には法人税は課せられませんので、寺社の活動において法人税が賦課されるのは「収益事業」のみととなります。

 それでは寺社がその活動をするうえで課税される「収益事業」とは具体的にどのようなものでしょうか。

 具体的な収益事業の内容については、法人税法第2条13号が「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるもの」と定義されています。さらにこれを受けた同施行令第5条では、物品販売業、不動産販売業、金銭貸付業、不動産貸付業、倉庫業、旅館業、駐車場業など合計34種類の事業が「収益事業」に該当するものとしてリストアップされています。

 なお、これら収益事業に該当する場合にはこれにより得た所得に応じて法人税などが課税されますが、寺社など宗教法人の場合は一般的な法人と比べて低い法人税率等が適用されており、優遇的な取り扱いとなっています。

3収益事業の具体的なケース

 寺社の収益事業として一般的によく問題として掲げられるものとしては以下のようなものがあります。

①おみくじ、線香、ロウソク等の物販

 お守りやおみくじ、お札などを檀信徒に販売するケースにおいて、販売価格が仕入れ原価との比較から通常の物品販売業の利潤を大きく超えている場合(お守りを10円で仕入れて1000円で売るなど)には、宗教活動の一環(実質的な喜捨金)としてなされたものとして「物品販売業」には該当せず、法人税等の課税はされません(法人税基本通達15-1-10参照)。

 他方で、絵葉書やボールペンについては通常の物品販売業者における利潤と同程度の利益率で販売している場合は、寺社の名を冠した表記がされているか否かに関わらず、「物品販売業」に該当するものとして課税対象になります。ただし、主として仏前にお供えするための線香やロウソク、お花などの販売については、たとえ通常の物品販売業者における利潤と同程度の利益率であったとしても「物品販売業」には該当しないものとして取り扱われます。

②墓地の貸付け、ペット霊園

 寺社が檀信徒に墓地を貸し付ける行為は、永代使用料を徴収しているか否かにかかわらず、収益事業としての「不動産貸付業」には該当しません(法人税法施行令第5条1項第5号ニ、法人税基本通達15-1-18参照)。

 なお、ここにいう「墓地」とは墓地、埋葬等に関する法律における「墓地」と同義であり、同法の適用がないペット霊園についてはこの限りではありません。ペット霊園については別途の収益事業である「請負業」、「倉庫業」、「物品販売業」に該当するものとされていますので注意が必要です(最判平20・9・12判時2022号11頁)。寺社によるペット霊園事業については、その実施方法にもよりますが基本的には収益事業に該当するものとして法人税が課税されることを前提に経営しなければならない点に十分注意してください。

③宿坊等の宿泊事業

 僧侶や信者など参詣人のために作られた宿泊施設である宿坊については、収益事業としての「旅館業」に該当するかが問題になります。

 これについては、寺社が旅館業法による旅館業の許可を受けているか否かにかかわらず、宿坊等の宿泊施設を有し檀信徒にこれを利用させてその対価を得ていれば「旅館業」に該当することになります(法人税基本通達15-1-39参照)。

 しかし、寺院の宗教活動の遂行に関連して利用される簡易な宿泊施設については、檀信徒から受ける宿泊料の額がすべての利用者につき1泊1000円以下である場合(食事を提供するものについては2食付きで1500円以下)には、低廉な宿泊施設として「旅館業」には該当しないものとされています(法人税基本通達15-1-42参照)。

④駐車場の経営

 寺社がその所有する境内地の一部を檀信徒以外の誰もが利用できる有料のコインパーキングとして提供した場合のほか、時間貸し以外にも月極で相当長期間にわたって特定の人に有料の駐車場として提供した場合にも、収益事業としての「駐車場業」に該当します。

 その対価の名目が「駐車場代」ではなく、例えば「お礼」、「管理費」、「地代」など他の名目にしていたとしてもその実質が駐車場の対価である場合にはやはり「駐車場業」に該当することになります。

⑤本堂の席貸し

 寺社が、本堂や本殿に葬儀場を設けて葬式などを実施することは正に寺社としての「宗教活動」そのものにあたり、これにつき寺社がお布施などの対価を得ていたとしても収益事業として課税されることはありません。

 これに対し、寺社が檀信徒以外の第三者に対して本堂や本殿を研修セミナーや勉強会の場または檀信徒以外の者に葬祭の場として貸し出しその対価を得ている場合、国や地方公共団体の用に供するためなどの一定の場合以外を除いては、収益事業としての「席貸業」に該当することになります。

⑥住宅用地の賃貸

 寺社が所有する土地について住居を建てるための土地として第三者に貸し付け、その対価として地代を得る行為については、「不動産貸付業」に該当するのが原則です。

 しかし、その地代の金額がその土地の固定資産税額及び都市計画税額の合計額の3倍以下である場合、その貸付は「低廉貸付」であるとして収益事業としての「不動産貸付業」には該当しません(法人税法施行規則第4条参照)。

 なお、寺社がその所有するマンションを第三者に貸し付け、その対価として賃料を得る行為については、収益事業としての「不動産貸付業」に該当することになります。

⑦石材業者からの心づけ

 寺社が付き合いのある石材業者に対して、墓石を建てようとしている檀信徒を紹介し、その対価として心づけやバックマージンを取得している場合、その行為は収益事業である「周旋業」または「仲介業」に該当することになります。

 その対価の名目が「紹介料」ではなく、例えば「お礼」、「心づけ」、「お布施」など他の名目にしていたとしてもその実質が檀信徒紹介の対価である場合にはやはり「周旋業」、「仲介業」に該当することに変わりはありません。

⑧幼稚園等の経営

 寺社がその境内地内等で幼稚園や保育園を経営している場合、その経営自体は収益事業には該当するものではありません。

 しかし、幼稚園や保育園において、ノートや鉛筆などの文房具、制服や制帽などを販売した場合、その行為は「物品販売業」に該当することになります。

 

4本件ケースにおける対応

 本件においては、上述のとおり、寺社がその所有する土地にマンションを建築して第三者に貸し付け、その対価として賃料を得るとのマンション経営をすることは収益事業としての「不動産貸付業」に該当することになり、法人税等の税金が賦課されるおそれがあります。

 寺社のどのような行為が34種類の「収益事業」のどれに該当するのか、そしてこれにつきどのような税金が賦課されるのかを適切に判断することは非常に重要な問題です。

 弊所は寺社など宗教法人の税務にも精通した税理士とも提携しており、これら収益事業にかかる税金のケースについても適切なチームを組んでワンストップサービスをご提案いたします。

 寺社の収益事業にかかる税金ケースの具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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