住職が突然死亡した場合の対応

Q 当寺の住職が突然亡くなりました。住職は宗教法人の代表役員も務めていましたが、後任の住職はまだ決まっていません。葬儀や法要、墓地の管理など寺院としての日常業務を継続する必要がある一方、宗教法人の代表者が不在となったことから、銀行口座の管理や契約、寺院財産の管理等に支障が生じないか心配です。住職が突然死亡した場合、寺院としてはどのような手続を行い、どのような点に注意すべきでしょうか。

住職が突然死亡した場合の対応

1 住職と代表役員の区別

  住職が突然死亡した場合にまず理解しておく必要があるのは、「住職」と「宗教法人の代表役員」は法律上同一の地位ではないということです。

  住職は寺院において宗教活動を主宰する「宗教上の地位」であり、その資格、選任、任免等については、各宗派の宗制・宗規や寺院規則等によって定められています。これに対して、代表役員は宗教法人法において設置することが求められている「法律上の機関」です。

  宗教法人法第18条第1項は、宗教法人には3人以上の責任役員を置き、そのうち1人を代表役員とするものと定めています。また、代表役員は宗教法人を代表し、その事務を総理する立場にあります(同第3項)。

  したがって、住職が死亡した場合には、「宗教上の住職の地位に欠員が生じた」という問題と、「宗教法人法上の代表役員に欠員が生じた」という問題を分けて考える必要があります。

  もっとも、実際の寺院規則においては「住職にある者をもって代表役員とする」など、住職の地位と代表役員の地位を連動させている例が多くみられます(いわゆる充て職)。そのため、住職死亡後の具体的な手続を判断するためには、まず最初に当該寺院の寺院規則を確認することが必要となります。

2 寺院規則等の確認

  住職が亡くなったからといって、その配偶者や子、あるいは副住職などの弟子が当然に次の住職となるわけではありません。住職という地位は相続によって当然に承継されるものではなく、その選任については寺院規則や所属宗派の宗制・宗規等に従う必要があります。

  また、代表役員についても、その資格や選任方法は各寺院の規則によって定められています。被包括宗教法人の場合には、寺院内部の手続だけでなく、包括宗教法人である宗派による住職の任命、承認、辞令その他の手続が必要となる場合があります。

  したがって、住職が死亡した場合には、まず、

① 寺院規則

② 所属宗派の宗制・宗規、住職任免規程等

③ 現在の責任役員(及び総代)とその任期

④ 過去の住職及び代表役員の選任に関する議事録や辞令

などを確認することが重要です。

  特に注意すべきなのは、後任住職を選任する手続と、宗教法人の後任代表役員を定める手続が必ずしも同じではないという点です。寺院規則と宗派規則の双方を確認した上で、それぞれの地位について必要な手続を整理する必要があります。

3 代表役員代務者

  住職兼代表役員が突然死亡した場合、後任者が直ちに決まるとは限りません。そのような場合に重要となるのが宗教法人法上の「代務者」の制度です。

  宗教法人法第20条第1項は、代表役員又は責任役員が死亡その他の事由によって欠けた場合において、速やかにその後任者を選ぶことができないときは、寺院規則で定めるところにより代務者を置かなければならないとしています。

  したがって、代表役員であった住職が死亡し、後任の代表役員を速やかに選任できない場合には、寺院規則の定めを確認した上で、代表役員代務者を置く必要があります。

  ここにおいては「責任役員の中で最も年長の者が、とりあえず代表者として寺院を運営すればよい」などと安易に考えるべきではありません。宗教法人名義で契約を締結し、預金を管理し、各種届出を行うためには、誰が法人を代表する権限を有しているのかを明確にしておく必要があります。

 後任住職の選定に時間を要する場合であっても、宗教法人としての日常業務は継続させなければなりません。そのためにも、後任者が決まるまでの間についても代務者制度を利用して適法な代表体制を確保しておくことが重要です。

 なお、宗派によっては、後任住職が決まるまでの間、住職代務者や兼務住職等を置く手続が定められている場合があります。このような宗教上の住職代務の制度と、宗教法人法第20条の代表役員代務者とは別の制度です。葬儀・法要等の宗教上の職務を誰が担うかについては宗派の宗制・宗規等を確認する一方で、宗教法人の代表権については寺院規則及び宗教法人法に従って整理するなど、両者を分けて対応する必要があります。

4 登記と所轄庁への届出

  宗教法人については、代表権を有する者の氏名、住所及び資格が登記事項とされています。そのため、代表役員の変更が生じた場合には、その変更について登記手続を行う必要があります。

  また、後任の代表役員を直ちに選任することができず、代表役員代務者を置いた場合には、代務者についても所定の登記を行う必要があります。

  代表役員等の変更登記については変更が生じた後2週間以内に行う必要があります。また、登記完了後には、所轄庁に対して代表役員の変更又は代表役員代務者の就任等について必要な届出を行います。

  住職の死亡直後は、葬儀や寺院内部の引継ぎなどの業務に追われるため、このような法人上の手続が後回しになりがちです。しかし、宗教法人は住職個人とは別個の法人格を有していますので、宗教上の後継手続とは別に、法人として必要な役員変更、登記、届出等を確実かつ速やかに行う必要があります。

5 寺院運営の継続

  住職が死亡したとしても、当然のことながら宗教法人そのものが消滅するわけではありません。宗教法人は従前どおりに存続し、その権利義務も原則としてそのまま継続することになります。

  そのため、寺院においては、葬儀や法要、墓地・納骨堂の管理、職員への給与の支払、公共料金や取引先への支払、境内建物の管理、檀信徒への対応などの日常業務についても引き続き継続していかなければなりません。

 また、宗教法人名義で締結されていた契約が、代表役員である住職の死亡によって当然に終了するわけでもありません。契約主体は住職個人ではなく宗教法人であるため、法人として従前の法律関係を引き継いで対応する必要があります。

  もっとも、誰が宗教法人を代表するのかが確定していない状態で、新たな重要契約を締結したり、不動産を処分したり、多額の借入れを行ったりすることは避けるべきです。まずは後任代表役員又は代表役員代務者を適法に定め、宗教法人としての意思決定及び代表体制を整えることが優先されます。

6 通帳・印鑑等の管理

  住職が突然死亡した場合には、役員変更手続と並行して、宗教法人の財産及び重要書類の管理状況を早急に確認する必要があります。

  具体的には、宗教法人名義の預金通帳、銀行届出印、法人実印、印鑑カード、寺院規則及び認証書、責任役員会議事録、財産目録、会計帳簿、不動産関係書類、墓地・納骨堂関係書類、重要な契約書、インターネットバンキングその他の管理情報等の所在を確認する必要があります。

  住職本人だけが通帳や印鑑の保管場所を知っていた、インターネットバンキングのパスワード情報を管理していた、重要な契約関係を把握していたという寺院も少なくありません。このような場合には、住職の死亡を契機として寺院の日常業務が停止する危険があります。

 

7 寺院財産と相続財産

  住職死亡時には、宗教法人の財産と亡くなった住職個人の相続財産とを明確に区別することも重要です。

  宗教法人名義の預貯金、不動産、寺宝その他の財産は宗教法人の所有財産です。したがって、住職が死亡したからといって、その配偶者や子その他の相続人が当然にこれらを相続することはありません。

  反対に、住職個人名義の預金、不動産その他の個人財産が、住職の死亡によって当然に宗教法人の財産となるものでもありません。住職個人の財産については原則として民法上の相続手続によって処理されることになります。

  もっとも、実際の寺院では、寺院の収入と住職個人の収入が同一口座で管理されていたり、寺院が使用する土地や建物の一部が住職個人名義となっていたり、寺院の資金で購入した物品が個人名義となっていたりすることがあります。

  このような場合には、「どこまでが寺院財産で、どこからが住職個人の相続財産なのか」をめぐり、宗教法人と相続人との間で紛争が生じる可能性があります。住職死亡後には、名義だけでなく、取得経緯、購入資金、管理状況等も確認した上で、法人財産と個人財産を整理する必要があります。

8 後任住職を巡る対立

  住職の死亡を契機として、後任住職を誰にするかを巡り、寺族、弟子、責任役員、総代、檀信徒等の間で意見が対立することがあります。

 例えば、「住職の長男が当然に寺を継ぐべきだ」、「長年寺院で修行してきた弟子が継ぐべきだ」、「宗派から別の僧侶を迎えるべきだ」など、それぞれ異なる意見が主張されることがあります。

 しかし、前述したとおり、住職の地位は相続によって当然に承継されるものではありません。誰が後任住職となるかについては、寺院規則、宗派の宗制・宗規、住職任免規程その他の関係規程に従って判断する必要があります。

  また、後任住職の地位が代表役員の資格と連動している寺院においては、住職を巡る争いがそのまま宗教法人の代表権を巡る争いに発展することがあります。

  このような状況で一部の関係者だけが責任役員会議事録等を作成し、代表役員変更登記を行ったり、預金や寺院財産を管理したりすると、後日、役員の地位、決議の有効性、代表権の有無等を巡って重大な紛争となる可能性があります。

  後継者について意見の対立がある場合には、一方的に手続を進めるのではなく、寺院規則、宗派規則、従前の議事録その他の関係資料を確認し、適法な手続を慎重に進めることが重要です。

9 生前の準備

  住職の突然の死亡を完全に予測することはできません。しかし、死亡後に寺院運営が混乱するかどうかは、生前の準備によって大きく変わります。

  寺院としては、日頃から、宗教法人規則及び認証書を適切に保管し、責任役員の任期切れがないかを確認するとともに、寺院財産と住職個人財産を明確に分けて管理しておくことが重要です。

  また、預金通帳、印鑑、契約書その他の重要書類の保管場所を明確にし、寺院の主要な契約関係や金融機関との取引状況について、住職以外の関係者も一定程度把握できる体制を整えておくことが望まれます。

  さらに、住職が高齢となっている場合には、後継住職の候補者や住職選任手続、宗派との調整方法等についても、可能な範囲で事前に確認しておく必要があります。

  住職の死亡後になって、「責任役員が何年も前から任期切れだった」、「寺院規則の原本が見つからない」、「寺院の預金と住職個人の預金が混在している」、「印鑑や通帳の所在が分からない」といった事態が判明すると、後継手続そのものが著しく困難になります。

 したがって、寺院においても、一般企業の事業承継と同様に、代表者が突然不在となる場合を想定した事前の体制整備を行っておくことが重要なのです。

10 本件ケースにおける対応

  本件では、住職兼代表役員が突然死亡し、後任住職がまだ決まっていません。

  まず、寺院規則及び所属宗派の宗制・宗規等を確認し、後任住職及び後任代表役員をどのような手続によって選任するのかを確認する必要があります。

  後任代表役員を速やかに選任することができない場合には、寺院規則に従って代表役員代務者を置き、宗教法人としての代表体制を確保する必要があります。その上で、必要な登記及び所轄庁への届出を行います。

  これと並行して、寺院名義の預金、印鑑、契約書、会計帳簿その他の重要資料を確認・保全し、寺院の日常業務を継続できる体制を整えることが必要です。また、寺院財産と住職個人の相続財産が混在している場合には、それぞれの財産関係を整理しなければなりません。

  住職の死亡時には、宗教上の住職承継、宗教法人法上の代表役員の変更、寺院財産の管理、住職個人の相続という複数の問題が同時に発生します。そのため、「次の住職を決めれば終わり」と考えるのではなく、それぞれの法律関係を切り分けた上で順序立てて対応することが重要です。

  なお、後継者となる僧侶がおらず、今後誰が寺院を承継するのかという問題については、別稿「寺院の後継者がいない場合の対応」の記事において詳しく説明していますので併せてご参照ください。

 住職の死亡後の代表役員変更、代表役員代務者の選任、後任住職を巡る紛争、寺院財産と相続財産の整理その他寺院の承継に関する法律問題については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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