寺院が本堂などをイベントで第三者に貸す場合の注意

Q 当寺では、地域との交流や寺院施設の有効活用のため、本堂や客殿、境内などを、コンサート、講演会、ヨガ教室、撮影会その他のイベントのために貸し出すことを検討しています。寺院の本堂等を第三者に有料で貸し出すことは法律上問題ないのでしょうか。また、宗教法人法、税務、事故や建物の損傷等との関係で、どのような点に注意する必要があるでしょうか。

寺院が本堂などをイベントで第三者に貸す場合の注意

1 寺院施設を第三者に貸し出すことは可能か

 寺院の本堂、客殿、境内その他の施設を、第三者が開催するコンサート、講演会、展示会、研修会等のために利用させること自体は宗教法人法によって一律に禁止されているわけではありません。地域交流や文化活動の一環として、寺院施設をイベント会場として活用することも十分に考えられます。

 もっとも、本堂等は本来、礼拝、法要、読経その他の宗教活動を行うための施設であり、寺院財産も宗教法人の目的のために管理されるべきものです。その意味において、寺院は一般の貸会議室やイベントホールとは大きく異なっています。「使用していない時間があるから貸せばよい」というだけではなく、貸出しの目的、内容、頻度、料金、貸出先等が寺院の目的や宗教施設としての性格と整合しているかをしっかりと検討する必要があります。

2 宗教法人法上の位置付けと内部手続

 宗教法人法第6条は、宗教法人が公益事業を行うことを認めるとともに、その目的に反しない限り、公益事業以外の「事業」を行うことも認めています。そして、公益事業以外の事業から収益を生じた場合には、その収益を当該宗教法人等のために使用しなければならないとしています。

 もっとも、本堂を一度地域イベントに利用させたからといって、直ちに宗教法人法第6条の「事業」を開始したことになるわけではありません。寺院が自ら行う文化活動の一環なのか、第三者への単発的な施設提供なのか、それとも反復継続して有料で施設を貸し出す独立した事業なのかによって評価は異なります。

 施設貸出しを反復継続して一つの事業として行う場合には、宗教法人法第12条第1項第7号との関係で、寺院規則にその事業の種類及び管理運営等に関する事項が定められているかを確認する必要があります。現在の寺院規則に予定されていない事業を新たに継続的に開始したいというのであれば、寺院規則の変更及び所轄庁の認証の要否を検討する必要があります。

 また、宗教法人法第18条第5項は、代表役員及び責任役員に対して、法令・規則等に従って業務及び事業を適切に運営し、法人の財産を他の目的に使用又は濫用しないよう求めています。継続的な施設の貸出しを行う場合や、これに伴い相当額の使用料を受領する場合においては、寺院規則に従って責任役員等による意思決定を行い、その経緯を議事録に残しておくことが望ましいでしょう。被包括宗教法人の場合には、宗派の宗制・宗規等も合わせて確認する必要があります。

3 寺院本来の宗教活動との調整

 寺院施設を第三者へ貸し出す場合でも、当然のことながら本来の宗教活動に支障を生じさせないことが大前提となります。

 本堂を貸し出したため法要ができない、檀信徒が通常どおり参拝できないといった状態が恒常化することは決して適切とは言えません。また、イベントの内容についても、宗教施設としての尊厳や寺院の社会的信用との関係を慎重に考慮する必要があります。

 例えば、文化講演会、伝統芸能、音楽会等であれば寺院の文化的・地域的役割と調和しやすいでしょう。他方、著しく騒がしい催事、寺院の宗教的環境を損なう内容、寺院の名称や信用を不当に利用するようなイベントについては、貸出しを断ることも検討すべきです。

 個々の申込みごとに場当たり的に判断するのではなく、寺院として、宗教活動に支障がないこと、寺院の尊厳・信用を害しないこと、違法又は公序良俗に反する内容でないことなど、一定の貸出基準をあらかじめ設けておくことが有効です。

4 有料貸出しと税務

 本堂や客殿等を有料で第三者に貸し出す場合には、法人税法上の「収益事業」に該当するか否かを検討する必要があります。

宗教法人はすべての所得が非課税となるわけではなく、法人税法上の収益事業から生じた所得については法人税等が課税されます。国税庁も、宗教法人を含む公益法人等について、34種類の収益事業を継続して事業場を設けて行う場合に課税対象となることを示しています。

 施設貸出しとの関係では、「席貸業」や「不動産貸付業」等への該当が問題となります。国税庁の法人税基本通達では、興行のために集会場等を貸す事業や、展覧会等のための席貸しについても、一定の場合には席貸業に含まれるとされています。

 したがって、寺院施設の有料貸出しをすべて一律に「席貸業」と考えるのではなく、具体的な貸出方法、利用目的、継続性等を踏まえ、席貸業、不動産貸付業その他の収益事業に該当するかを慎重に判断する必要があります。

 収益事業に該当する場合には、宗教活動に係る会計と区分して経理する必要があります。また、有料で施設を利用させる取引については消費税上の課税取引となる可能性がありますので、継続的な有料貸出しを始める場合には、事前に税理士等へ相談しておくことが望ましいでしょう。

5 固定資産税への影響

 寺院施設を営利的に利用する場合には、固定資産税との関係にも注意する必要があります。

 地方税法第348条第2項第3号は、宗教法人が「専らその本来の用に供する」宗教法人法第3条所定の境内建物及び境内地について、固定資産税を非課税としています。

 したがって重要なのは、登記上「境内地」または「境内建物」であるかだけではなく、これらが実際にどのような用途で使用されているかという点です。自治体においても、宗教法人の不動産については具体的な利用実態に基づいて非課税の要件該当性を判断するとの運用が示されています。

 そのため、本堂等を臨時的にイベントに利用させる場合と、建物の全部又は一部をレンタル用スペース等として継続的に貸出す場合とでは事情が大きく異なります。貸出しを恒常的な事業として行うのであれば、固定資産税の非課税措置に影響しないかについて、事前に所在地の自治体や税理士等に確認相談しておくことが安全です。

6 利用規約・使用契約書を整備する

 寺院施設を第三者へ貸し出す場合には、知人や檀信徒からの依頼であっても口頭だけで済ませず、利用規約又は使用契約書を作成しておくことが重要です。

 少なくとも、

① 使用する施設の範囲

② 使用する日時

③ 利用の目的

④ 使用料とその支払い方法

⑤ 禁止事項

⑥ 施設・設備等を損傷した場合の責任

⑦ 事故発生時の責任分担

⑧ キャンセル・中止の場合の取扱い

⑨ 原状回復の範囲

⑩ 第三者への転貸禁止

等についてはしっかりと定めておくべきでしょう。

 寺院特有の事項としては、本尊、仏像、仏具、寺宝等には触れないこと、立入禁止区域に入らないこと、無断撮影や無断での商業利用を行わないこと、寺院の法要や参拝を妨げないことなども明確にしておくことが考えられます。

 また、申込みの際には「講演会」、「撮影会」といった名称だけで判断するのではなく、主催者、具体的な内容、予定参加人数、物販・飲食・撮影・火気使用等の有無まで確認し、寺院が承諾した内容と異なる利用を禁止する条項を設けておくことが重要です。

7 火災・文化財等の安全にも注意する

 寺院、特に木造の本堂等をイベントに使用させる場合には、火災や文化財の損傷について通常の会議室以上に慎重な管理が求められます。ろうそく、調理器具、ストーブその他の火気については、原則禁止又は事前許可制とすることが考えられます。

 また、国・地方公共団体の指定文化財を含む建造物等については、大型機材の搬入、舞台設営等による損傷にも注意が必要です。利用可能区域を限定する、機材搬入を事前承認制にするなどの対応が考えられます。

 

8 イベント中の事故と寺院の責任

 イベント中に参加者が境内で転倒したり、設備が落下して負傷したりする事故が発生することも考えられます。

 寺院が責任を負うか否かは、事故原因によって異なります。例えば、イベント主催者が設置した配線や機材の不適切な管理によって事故が発生したのであれば、基本的には主催者側の責任が問題となります。

 その一方で、本堂の階段が破損していた、床板に重大な危険があったなど、寺院が所有・管理する土地や建物等の設置又は保存に問題があり、それによって事故が発生した場合には、民法第717条の土地工作物責任等に基づき寺院側の損害賠償責任が問題となる可能性があります。

 したがって、「外部主催のイベントだから寺院には責任がない」と安易に考えることはできません。貸出し前に施設の安全性を確認するとともに、イベント主催者にも参加者の安全管理を求める必要があります。規模の大きなイベントでは、主催者にイベント保険や賠償責任保険への加入を求めることも検討すべきでしょう。

 なお、利用規約に「寺院は事故について一切責任を負わない」と記載しておけば、寺院側の原因による事故についても当然に責任を免れるというものではありません。

9 寺院名や写真の広告利用

 イベント主催者が「○○寺で開催」、「歴史ある○○寺の本堂で特別イベント」などとして、寺院名、本堂の写真等を広告やSNSに利用する場合があります。

 しかし、寺院が単に会場を貸しているだけであるにもかかわらず、広告の表示方法によっては寺院自身がイベントを主催、後援又は推奨しているかのように誤認して受け取られる可能性がある場合があり、内容によっては寺院の信用にも影響しかねません。

 そのため、寺院名や本堂等の写真を広告、ホームページ、SNS等に使用する場合には、事前に寺院の承諾を必要とし、必要に応じて広告内容も寺院側で確認できるよう利用規約等に定めておくことが望ましいでしょう。

10 本件ケースにおける対応

 本件のように、本堂や客殿等をコンサート、講演会、地域イベント等に利用させること自体は、直ちに法律上問題となるものではありません。適切に運用すれば、寺院と地域社会との接点を広げる非常に有意義な取組みとなり得ます。

 もっとも、継続的に施設を貸し出すのであれば、まず寺院規則及び宗派の関係規程を確認し、宗教法人法上の事業として規則変更等が必要かを検討するとともに、寺院内部において適切な意思決定を行う必要があります。

 また、有料貸出しについては、具体的な利用内容や継続性等に応じて、法人税法上の席貸業、不動産貸付業等の収益事業に該当するかを確認し、必要な区分経理・税務処理を行う必要があります。貸出しが恒常化する場合には、固定資産税の非課税措置への影響についても確認すべきでしょう。

 実際の貸出しに際しては、イベントの具体的内容を事前に確認し、利用目的、使用料、禁止事項、火気、文化財保護、事故、損傷、原状回復、広告利用等を定めた利用規約又は使用契約書を整備することが重要です。

 寺院施設を地域社会に開放することと、寺院本来の宗教活動、宗教施設としての尊厳、寺院財産及び社会的信用を守ることとを両立させるためには、寺院としてあらかじめ一定の貸出基準を設け、個々の利用申込みを適切に審査することが最も重要となります。

 寺院施設の第三者への貸出し、イベント利用規約・使用契約書の作成、収益事業該当性、固定資産税、事故・文化財損傷への対応その他寺院財産の管理に関する法律問題については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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