Q 寺社を運営する場合でも、内部で働く人たちについて労務管理を行う必要性はありますか。
A 寺社の内部では、様々な人員を配置し、運営を行っていきます。これらに関する労務関係を適切に管理することは、寺社を運営していく上で必要不可欠です。また、労務問題は、一度リスクが顕在化してしまうと運営に大きな負担となりがちなため、事前の予防の観点からも、労務管理の重要性を指摘できます。
1.労務管理とは
そもそも、労務管理とは何でしょうか。労務管理と一口に言っても、様々な意味を含むといえますが、基本的には、労働者のために労働環境、職場環境を適切に整備、管理することを指します。近年では、「働き方改革」に挙げられるように、労働者の権利意識も向上し、労働環境の整備は、企業のコンプライアンス(法令順守)にとってもますます重要になっています。
また、労働者にとっていい環境を整えることは、ひいては使用者側にとっても生産性を高めることにつながります。その意味では、労務管理を適切に実施することは、ひいては使用者にとってもメリットがあるのです。
2.労働法とは
それでは、労務管理を実施するにあたり、どのような点に留意していく必要があるのでしょうか。契約関係は、原則として、当事者の合意を中心に成り立つものですが、労働者と使用者の関係については、その力関係に鑑み、法律による規制が多く適用されます。したがって、労務管理を実施するにあたっては、労働関係法規を意識することは不可欠であるといえます。
労働関係法規のことを「労働法」と単に呼ぶこともありますが、実際には「労働法」という法律があるわけではありません。「労働法」とは、労働関係を規律する法律分野を指す言葉であり、実際には、労働基準法、労働契約法、最低賃金法など、雇用契約は様々な法律の適用を受けるのです。
3.労務管理のリスク
使用者の中には、労務管理を必ずしも重視してこなかった対応も散見されます。これは、労務管理それ自体が使用者の利益を創出することに直結しないことが理由と考えられます。
しかしながら、労務管理を怠ることのリスクが顕在化してしまうと、経営上大きな負担になってしまうことが考えられます。例えば、従業員の労働時間の管理を怠ったままにしていると、あるときに残業代請求を受ける可能性があります。残業代請求は労働基準法に定める時効期間(労働基準法115条)まで請求が可能ですので、現在ですと、3年分の残業代を一気に請求される可能性があります。このような未払残業代は、時として数百万円にもなってしまう場合もあるばかりか、当該従業員以外の従業員からも請求を受けるリスクが波及することも考えられ、使用者が想定している以上の損害を受ける事態も起こりうるのです。
4.小括
上記のとおり、労務管理は、近年一層重視されており、労務管理が不十分な場合のリスクも想定すれば、寺社を運営する上でも無視することが出来ないものになっているといえます。他方で、労働法規は改正も頻繁に行われることから、自力で全てに対応しようとするにも限界があるため、無理せず専門家の助力を得ることも重要です。
労働分野について、弊所は適切にアドバイスを行うことが可能ですので、いつでもお気軽にご相談下さい。