お寺における懲戒処分

Q 従業員が勤務中に規則に違反する行為を確認しました。懲戒手続きの種類や留意点について教えてください。

A 従業員の懲戒については、懲戒事由や懲戒処分に付するまでの手続きを明確に定めておく必要があります。その上で、労働契約法15条に照らして、当該懲戒処分が客観的、合理的理由を備えており、当該懲戒処分に付することが社会通念上相当であるといえなければなりません。

1.懲戒処分とは

 懲戒処分とは、一般的に企業で定める規則等に反したことによる秩序違反行為に対する制裁処分を指します。懲戒処分を適切に定めることで、企業は労働者に対するより一層の統制が可能となりますが、労働者にとっては不利益を課すことになりますので、懲戒処分は、懲戒事由や処分内容などをあらかじめ明確に定めておくことや、不利益処分を課す前に、その理由を告げ、言い分を聴取するなどの手続的適正に配慮しなければいけません。

 

2.懲戒処分の種類

 懲戒処分は、懲戒事由の内容応じて制裁の程度が異なり、企業によってどこまで定めるかも違いますが、概ね以下のものが想定されます。

 ①戒告…従業員に対して違反行為の訓戒を行い、態度の改善を求めます。

 ②減給…支給賃金を減額します。なお、労働基準法により、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金の支払期における賃金の総額の10分の1を超えてならない」とあり、無制限に減給が実施できるわけではないので、注意が必要です。

 ③出勤停止…一定期間就労を禁止します。かかる期間については無給であり、勤続年数には参入しないのが通常です。実務上1週間~2週間程度が多いように思われます。

 ④諭旨解雇…辞職等を勧告し、一定期間内にこれに応じない場合懲戒解雇とするものです。懲戒解雇は労働者の経歴にも不利益が大きいため、その前段階の懲戒処分といえます。

 ⑤懲戒解雇…労働者との労働契約を通常即時に終了させるものです。(労働基準法上の即時解雇と当然に同じものではないため、解雇予告等の規制(労働基準法21条)は依然として残る場合があります。)

 

3.懲戒事由

 懲戒事由は、一般的に企業であれば懲戒に付すであろう事由(経歴詐称、業務命令違反、犯罪行為等)や企業ごとに遵守してほしい決まり事を定め、それに反する場合を秩序違反行為として列挙することになります。

 懲戒事由として明記していない事由については、使用者が当然に懲戒できるものではないため、懲戒事由の記載は慎重に検討すべきです。もっとも、通常であれば、「その他、上記に準じる事由が認められる場合」などの包括的な条項を定めることで対応できる場合も多いといえます。

 

4.懲戒処分の要件

 懲戒処分においては、まず労働者が規定した懲戒事由に抵触したと認められることが必要です。なお、懲戒事由制定以前の行為について遡及適用したり、同一事由について二重処罰を行うことは許されません。

 そして、仮に懲戒事由に抵触するとしても、労働契約法15条では、「使用者が労働者を懲戒することが出来る場合において、当該懲戒が、当該懲戒にかかる労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と定めがあるため、懲戒事由の合理性、懲戒処分の均衡(相当性)に留意する必要があります。

 上記の要件(懲戒事由該当性、合理性、相当性)を満たす場合でも、就業規則上所定の手続を経ていない場合や、労働者本人に対して意見聴取を設けないなど手続的な配慮を欠いた場合には、当該手続きの欠如をおよそ無視できるような場合を除き、懲戒処分は無効と評価されかねないため、この点も留意すべきです。

 

5.小括

 上記のとおり、懲戒処分にあたっては、まずどのような事由を懲戒事由と定めるのかから始まり、実際に懲戒に付す場合でも、どの処分を相当とすべきか、労働者の意見聴取手続きをどこまで履践すべきかなど、考慮要素が多分に含まれています。

 

 労働者にとっても不利益が生じる以上、かかる点について不足があれば紛争に発展するリスクも想定されることから、懲戒処分については、弁護士など専門家の助言を得ながら対応を進めていくことをおすすめいたします。

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