お寺における労働者の安全衛生

Q 寺社の運営において、労働者の安全や健康に配慮する義務はあるのでしょうか。

A 使用者は、労働者に対して安全配慮義務を負うことから、労働者の安全、健康に対して一定の配慮を行う必要があります。また、労働者の健康などを確保するため、労働安全衛生法があり、使用者は一定の場合にこの法律の定める措置を実施しなければいけません。

1.使用者の安全配慮義務

 労働契約法5条では、「使用者は、労働契約に従い、労働者がその安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と使用者に対して、労働者への安全配慮義務を課しています。安全配慮義務を怠り、労働者の安全や健康を害するような事態(過労死、メンタルヘルスの不調など)が生じてしまった場合、使用者は、労働者からかかる義務違反を理由に損害賠償請求を受けるリスクが生じます。

 そのため使用者は労務管理において、労働者の安全や健康の確保に努め、職場環境の改善に常に配慮していく必要があります。ここでは、寺社運営にも関わりのある労働者の健康管理や労働時間管理に関するポイントを説明していきます。

 

2.労働者の健康管理

 労働者の安全衛生について具体的な措置を定める法律として、労働安全衛生法があります。この法律は、「労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を推進することを目的とする」法律です(労働安全衛生法1条)。

 使用者(同法の中では、厳密には事業者と定義されます。)は、労働者に対して採用時及び採用後原則年1回健康診断を受けさせる義務があります(労働安全衛生法66条1項、同規則43条)。そして、健康診断の結果、その所見に異常がある場合には、会社は医師から意見を聴取する必要があります(労働安全衛生法66条の4)。その上で、当該労働者の実情に応じた、就業場所変更、作業転換等の措置を取ることが求められるのです(労働安全衛生法66条の5)。

 昨今では、労働者のメンタルヘルスにも関心が払われています。これについて、使用者は、常時使用する労働者に対して1年以内毎に一回、定期に心理的な負担を把握するための検査を行わなければならない(労働安全衛生法66条の10、同規則52条の9)ともされています。

 

3.労働時間の把握

 使用者は、労働安全衛生法66条の8の3で、労働者の労働時間の状況について把握し、同規則52条の7の3第2項でこれを3年間保存しなければならないとされています。厚生労働省労働基準局の通達によると、かかる規定は、労働者の健康確保措置を適切に実施するためのものである以上、管理監督者やみなし労働時間を取っている場合でも同様になりますので、注意が必要です(通達第2、答11)。

 労働時間の把握としては、当然客観的な記録として管理できるものが望ましいといえます。通達では、この点、「事業者が労働時間の状況を把握する方法としては、原則として、タイムカード、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録、事業者(事業者から労働時間の状況を管理する権限を委譲された者を含む。)の現認等の客観的な記録により、労働者の労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握しなければならない。」と定めています(通達第2、答9)。やむを得ない場合には、自己申告による場合を認めていますが(通達第2、答12)、自己申告による場合は、その申告が適正なものとなるよう、通達に定める必要な措置を取らなければならないとされています(通達第2、答12)。

 そして、使用者が労働者の労働時間の状況について、毎月一回以上、「休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間」を算定し、当該時間が1か月あたり80時間を超えた労働者に対しては、「当該超えた時間に関する情報」を通知し、労働者による面接指導を促す必要があります(労働安全衛生法規則52条の2、第1項~第3項)。

 

4.小括

 上記のとおり、使用者は労働者の安全や健康の管理について、法律上の義務を負い、様々な措置を講じていく必要があります。また、職場の生産性向上や、労働者のモチベーションアップ、人手不足の解消などを目指すためには、単に法律上の義務を履行するにとどまらない工夫ある職場環境の管理が必要です。

 

 弊所では、弁護士が専門的見地に基づき、職場の特性なども踏まえた具体的なアドバイスを行うことが可能です。ぜひお気軽にご相談ください。

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