お寺における基本的な労働条件

Q 寺社の運営においても、労働契約を締結する必要があることは分かりました。その上で、労働条件を決めていく際に留意すべき事項があれば教えてください。

A 労働条件を決定する際には、労働基準法をはじめとする労働法規を最低限遵守した上で、労働環境に即した内容の条件を決定していく必要があります。

1.労働条件の決定

 労働条件については、労働基準法はもちろんのこと、最低賃金法など関連する労働法規を遵守する形で労働条件を決めていく必要があります。その上で、服務規律など、各職場で求めていきたい事項などを契約内容に盛り込むようにするのが良いでしょう。ウェブサイトで検索すると労働契約書などは所定のひな形を入手することが簡単に出来るようになりましたが、労働条件の基本的なもの(賃金、労働時間、休日等)についての規制を把握することは重要なため、本項で概観していきたいと思います。

 

2.賃金

 賃金は、労働者にとって重要な条件の一つであり、労働法規の中でも多くの規定が見受けられます。労働基準法24条では、賃金について①通貨払い、②直接払い、③全額払い、④定期払いの4原則を定めています。①は、賃金について現物支給を禁じるものです(法令の定め、労働協約がある場合を除きます。)。②は、賃金を労働者に対して直接支払うよう定めるものです。この原則が問題になる場面はあまり多くないと思われますが、例えば年少者を使用する場合に、年少者ではなく親権者に払ってしまうような場面が想定されます。③は、使用者が給与を任意に天引きするようなことを禁止しています。もっとも、所得税など法令に定めがある場合や、労働者の過半数代表者と書面により労使協定を締結した場合には、賃金の一部控除が許されています。④は、賃金を必ず毎月一回以上、定期の期日に支払うことを求めるものです。

 また、既に述べたとおり、賃金額についても最低賃金法の定めがあり、これに達しない賃金は最低賃金額と同様の額で合意したものとされます。そのため、労働契約を締結しようとする時点で、自身の属する地域の最低賃金額がいくらになっているのかは都度確認する必要があります。

 

3.労働時間

 労働時間管理は、労働者の心身の健康を確保するため、適切に管理する必要があり、労働契約の締結においても重要な要素であるといえます。労働時間は、原則として、1日8時間以下、1週間40時間以下にしなければならず(労働基準法32条)、これを超える残業については、労働基準法36条に定める協定を締結することで初めて可能になります。そのため、単に労働契約を締結しただけで、当然に残業を適法に命じることが出来るわけではないため注意が必要です。加えて、残業については、「働き方改革」の観点から上限規制が導入されており、原則として月45時間以内でかつ年360時間以内としなければなりません(労働基準法36条4項)。

 また、使用者は、労働者について、6時間を超えて働かせるような場合、その労働時間が8時間以内であれば最低45分、8時間を超えるのであれば最低1時間の休憩を、原則として一斉に与える必要があります(労働基準法34条1項、2項)。

 なお、この際、休憩時間と称しながらも、電話番をしなければいけないなど、業務から完全に離脱していないような場合、休憩時間ではなく、労働時間としてカウントされかねませんので、休憩時間の利用方法についても留意すべきでしょう。

 

4.休日、休暇

 休日は、労働契約上の労働義務を負わない日を指し、毎週少なくとも1回の休日を与える必要があります(労働基準法35条1項)。ただし、4週間を通じて4日以上の休日を与える場合には、その限りではありません(労働基準法35条2項)。労働基準法上の規定は、あくまで、「少なくとも1回」としているため、週に1回以上休日を与えていれば、それが何曜日であっても構わないということになります。

 なお、一般的に企業は週休2日制を採用しているところが多いかと思われますが、法律上必要な休日(法定休日)は、あくまで1日だけであり、残り1日は法律上の最低基準を超えて与えられている休日(法定外休日)となります。この場合、休日労働などを算定する場合には、法定外休日は考慮しないなどの違いがあります。

 また、休暇として重要なものに年次有給休暇があげられます。これは、雇入れの日から起算して6か月間継続し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、10日間付与され(労働基準法39条1項)、その後勤続年数に応じて増加していきます(労働基準法39条2項)。いわゆる有給と呼ばれるものですが、これについては、「働き方改革」の中で、使用者は10日以上の有給休暇を付与される労働者については、そのうち5日間は必ず有給休暇を取得させる必要があります(労働基準法39条7項)。この有給取得義務を無視してしまうと、場合によっては30万円以下の罰金が科せられるリスクがあるため(労働基準法120条)、使用者は、労働者の休暇の管理についても一層関心を払う必要があるといえます。

 

5.小括

 上記のとおり、基本的な労働条件を概観するだけでも、労働法規の規制を多く受け、労務管理を徹底する必要があることがお分かりいただけると思います。このような細かい内容まで把握した上で、適切な労働条件を定め、労務管理を自力で実行することは必ずしも容易ではありません。

 

 少しでも悩みが生じた場合や不明な点があれば、迷わず専門家に相談されることをお勧めいたします。

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