お寺における労働契約の締結

Q 寺社の管理、運営の場合に際して、人を雇う場合に労働契約は必要となりますか。

A お寺の管理、運営には、多くの人々の関与が想定されますが、寺社の指揮監督に服し、その対価として賃金を受け取る労働者については、労働契約の締結が必要になります。また、常時使用する労働者の数が10名以上の場合、就業規則も作成する必要があります。

1.労働契約の締結

 一般企業において、一般にサラリーマンは、企業と労働契約を結び、賃金を受け取りながら働いています。寺社においても、企業と同様、人を雇い入れて指揮監督をし、その労働に対する対価として賃金を支払っている実態があるのであれば、主として、労働契約法や労働基準法の定める内容に従って労働契約を適切に交わさなければなりません。また、大規模な寺社であれば、多くの人を雇い入れる場合もあると考えられますが、常時10人以上の人員を使用するような場合は、就業規則を定める必要性が出てくるため注意が必要でしょう。

 もっとも、寺社の中では、例えば、給与などをもらわずに修行に励んだり、奉仕を行う場合や、単発で寺社の清掃や修繕を行う場合など、多様なかかわり方が想定されるため、そのすべてについて労働契約の規律を及ぼすべきかについては、別個の考慮が必要となることには、留意すべきです。

 

2.労働契約書の内容

 労働契約を締結する場合、労働契約の条件に関する事後的なトラブルを防止するため、労働契約は書面で取り交わす必要があると言えます。労働契約法や労働基準法でも賃金や労働時間といった基本的な労働条件を明示することや(労働基準法15条)、その内容について、できる限り書面により確認するよう規定されています(労働契約法4条2項)。

 労働契約書に盛り込むべき基本的な内容は、以下のとおりです。

 ①契約年月日、契約期間

 ②就業場所

 ③職務内容

 ④労働時間(始業、終業、休憩時間)

 ⑤休日、休暇

 ⑥賃金(残業代等を含む)、諸手当

 ⑦退職

 ⑧福利厚生に関する事項

 ⑨その他服務規程等

 

3.就業規則の内容 

 上記でも述べたとおり、常時使用する労働者の数が10人以上となる場合、使用者は就業規則を作成する義務があります(労働基準法89条)。なお、労働契約と就業規則の内容に相違がある場合、就業規則より不利な条件は就業規則が優先し、就業規則より有利な条件は、当該労働条件が優先されます。

 就業規則では、必ず定める必要性のある絶対的必要記載事項(労働時間、休日、賃金等)、当該制度がある場合に定める必要性がある相対的必要記載事項(退職手当、臨時の賃金、安全衛生等)、記載するかどうかも含めて自由な任意記載事項に分かれています。

 

4.小括

 労働契約書や就業規則の内容については、労働基準法や労働契約法などの関係法令に配慮したものを作成する必要があり、これらに関する不備は紛争のきっかけになりかねません。労働条件を整備していくにあたっては、一度弁護士に詳細を相談されることをお勧めいたします。

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