お寺における労働契約の終了

Q 労働契約を締結している労働者について、契約の解消を考えている者がいます。どのような手続きを行えばいいでしょうか。また、その際の留意点があれば教えてください。

A 労働契約の解消の場面としては、①解雇、②辞職、③合意退職のパターンが主に考えられます。特に、労働者を解雇するような場合や、労働者の合意退職ないし辞職を促すために退職勧奨を行おうとする場合、事後に労働者と紛争になるリスクがあることから対応には留意が必要です。

1.解雇

 解雇と一口にいっても、その内容は、解雇類型によって、⑴普通解雇、⑵懲戒解雇、⑶整理解雇に分けることができます。いずれの類型においても共通していえることは、使用者の一方的な意思表示によって、労働契約を終了させるところにあります。

 ⑴普通解雇とは、労働契約書や就業規則に定める一定の事由(勤怠不良等)に該当する場合に、使用者から労働契約を解約するものを指します。⑵懲戒解雇とは、使用者の定める懲戒事由に該当する場合に行われる制裁としての性格を有する解雇を指します。⑶整理解雇とは、企業が経営上の理由から人員削減を行うために実施する解雇を指します。

 いずれの解雇においても、原則として、労働者に対して30日前に解雇予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払うことが求められます(労働基準法20条)。懲戒解雇をする場合であっても、当然に解雇予告や解雇予告手当が不要とは解されていないため、注意が必要です。

 加えて、解雇には労働契約法16条で、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めがあるため、合理性及び相当性が認められなければ、解雇は無効になってしまいます(解雇権濫用法理)。どのような場合に解雇が無効と判断されるかは、具体的事例によるところが大きく、一般論として述べるのは難しいところですが、解雇は、労働者にとって生活の糧を失うという意味で不利益が大きいことから、解雇事由の審査は厳格に行われるのが通常といえるでしょう。

 なお、懲戒解雇は、懲戒処分としての性格を有し、これを受ける労働者の不利益に鑑み、普通解雇の場合よりも厳しく審査されるのが一般的です。整理解雇の場合も、解雇理由が労働者由来のものではないことから、「整理解雇の必要性」、「解雇回避努力の有無」、「人員選定の合理性」、「手続きの相当性」の4要素を詳細に審査されることから、普通解雇よりもハードルは高いものになります。

 

2.辞職

 辞職は、解雇とは反対に、労働者から行う労働契約の一方的な解約の意思表示を指します。辞職の意思表示は2週間の予告期間を置けば有効なものとなります(民法627条1項)。辞職の場合、使用者に意思表示が到達した時点で効力が生じ、その後は撤回することが出来ません。

 なお、就業規則などでは、労働者の退職の申し出について、2週間以上の期間を定めて事前に申告するよう求める規定が散見されます。これは、あくまで引継ぎなどを考慮した会社の希望を表明した任意的なものと解されるため、仮に当該期間(例えば4週間前)より後に労働者から辞職の申し出があったとしても、上記期間外であることを理由に拒否することは出来ませんので、注意が必要です。

 

3.合意退職

 合意退職は、労働者と使用者との間で任意に労働契約を終了させることを指します。辞職の場合とは異なり、労働者は使用者が合意退職について、承諾の意思表示を示すまでの間、これを撤回することが出来ます。

 合意退職の場合、任意で合意が成立する限り、要式や時期などに規制はありませんが、事後的な紛争を避けるためには、書面で合意退職の旨を確認する必要があるといえます。

 

4.退職勧奨

 なお、使用者から労働者に対して、辞職や合意退職を自主的に促す場合があります。このような退職勧奨については、基本的に違法性を伴うものではありませんが、その態様が自発的な退職意思を形成するために社会通念上相当認められる限度を超えて、当該労働者に対して心理的な威迫を加えたり、その名誉感情を不当に害する言辞を用いたりする場合には、不法行為になると判断されることから、対応には慎重を要するといえるでしょう。

 

5.小括

 上記のとおり、労働契約の終了には様々な場合があり、その対応に応じて検討する事項が多岐に渡ります。労働契約の終了は、労働者とトラブルになることも多く、その対応を誤った場合のリスクは小さくありません。

 

 労働契約の終了に際しては、その対応について一度弁護士に相談されることをお勧めいたします。

03-3519-3880 メールでのご相談はこちら