Q 当寺の墓地に納骨されている遺骨について、墓地使用者から「墓じまいをすることになったので遺骨を返してほしい」との申出がありました。また、別の檀信徒からは、「親の遺骨の一部を分骨して、別の寺院の墓にも納めたい」と相談されています。寺院として、このような遺骨の返還や分骨の求めには応じなければならないのでしょうか。また、遺骨を引き渡す際にはどのような手続や資料を確認する必要があるでしょうか。

目次
1 「遺骨の返還」と「分骨」は区別して考える
寺院が檀信徒から遺骨について相談を受けた場合には、まず第一にその方が何を希望しているのかを確認する必要があります。
例えば、現在の墓所から遺骨をすべて取り出し、別の寺院墓地や霊園、納骨堂へ移すのであれば、通常は「改葬」の手続となります。一方、現在の墓所にも遺骨の一部を残したまま、一部だけを別の墓地や納骨堂にも納める場合には「分骨」の手続となります。
また、「遺骨を返してほしい」という申出であっても、墓じまいをして別の墓地へ移す場合と、いったん自宅で保管する場合などでは、必要となる墓地、埋葬等に関する法律上の手続が異なることがあります。
そのため、寺院としては、単に遺骨を渡す、渡さないという判断をするのではなく、
① 誰が求めているのか
② 遺骨の「全部」なのか、「一部」だけなのか
③ 遺骨をどこへ移す予定なのか
④ 墓地使用契約を終了するのか
といった点を確認することが重要となります。
2 誰からの請求であっても遺骨を渡してよいわけではない
遺骨は通常の相続財産と同じように法定相続人全員が共有するものと単純に考えることはできません。遺骨の帰属については、慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属するとした判例があるところです(最高裁平成元年7月18日判決)。
したがって、例えば亡くなった方の息子であるというだけでは、当然に寺院へ遺骨の引渡しを請求できるとは限らないのです。寺院としては、現在の墓地使用者は誰か、祭祀を承継している者は誰か、請求者がどのような立場で遺骨の引渡し又は分骨を求めているのかをしっかりと確認する必要があります。
墓地使用者が死亡している場合には、先に墓地使用権の承継手続が必要となる場合もあります。この点については、別記事「墓地使用者が死亡した場合の承継手続」で解説したとおり、通常の法定相続とは区別して祭祀承継者を確認する必要があります。
また、複数の親族から「遺骨をこちらに渡してほしい」、「相手方には絶対に渡さないでほしい」と相反する申出がある場合には、寺院が一方の判断だけに従って遺骨を引き渡すべきではありません。このような場合の対応については、別記事「親族からの遺骨引渡し要求」で詳しく解説しています。
3 すべての遺骨を別の墓地等へ移す場合は「改葬」となる
現在の墓地又は納骨堂に納められている遺骨を、別の墓地や納骨堂へ移す行為は、墓地、埋葬等に関する法律上の「改葬」に当たります。同法第2条第3項は、埋蔵又は収蔵した焼骨を他の墳墓又は納骨堂へ移すことを改葬と定義しています。
改葬を行うためには、同法第5条により、現在遺骨が存在する墓地等の所在地の市町村長から改葬許可を受ける必要があります。
改葬の手続においては、現在遺骨を納めている墓地又は納骨堂の管理者が作成した、遺骨が埋蔵又は収蔵されている事実を証明する書面が必要となります。そのうえで、現在の墓地所在地の自治体に申請し、改葬許可証の交付を受けるという流れになります。
なお、改葬を申請する者が墓地使用者又は焼骨収蔵委託者本人ではない場合には、原則として墓地使用者等の改葬についての承諾書又はこれに対抗することのできる裁判に関する書面等が必要とされています(同法施行規則第2条第2項2号)
したがって、寺院に「遺骨を全部返してほしい」と申出があった場合には、請求者の身分・権限を確認するとともに、改葬先や改葬許可手続を確認した上で引渡しを行うことが基本となります。
4 墓じまいと遺骨の返還は同じ手続ではない
墓じまいの場合、カロートから遺骨を取り出すだけで寺院との墓地使用関係がすべて終了するわけではありません。
墓地使用契約は、寺院が一定の墓地区画を墓所として使用することを認める民事上の契約です。 遺骨を改葬することと、墓地使用契約を終了させて墓所を寺院へ返還することとは、法律上は別の問題です。
そのため、墓じまいの場合には、
① 改葬許可を取得して遺骨を取り出す
② 墓石等を撤去する
③ 契約や墓地使用規則に従って墓所を原状回復する
④ 墓地使用契約を終了させて区画を寺院へ返還する
という一連の手続によって整理する必要があります。
寺院としては、改葬届や墓地返還届等の書式を用意し、遺骨の引渡しと墓地使用契約の終了を一体的に管理できるようにしておくことが望ましいでしょう。
反対に、遺骨の一部だけを分骨する場合には、通常、従来の墓所も引き続き使用されることになりますので、それだけで墓地使用契約が終了するわけではありません。
5 分骨の場合には改葬許可とは異なる手続となる
既に寺院墓地等に納められている焼骨の一部を取り分け、別の墓地又は納骨堂へ納める場合には、通常の改葬とは異なり、「分骨」の手続を行うことになります。
墓地、埋葬等に関する法律施行規則第5条は、墓地等の管理者に対し、他の墓地等へ分骨を埋蔵又は収蔵しようとする者から請求があった場合には、その焼骨が現在埋蔵又は収蔵されている事実を証する書類を交付することを求めています。そして、新たに分骨を受け入れる墓地等の管理者に対してその証明書を提出することになります。
したがって、他の墓地や納骨堂へ納めるための分骨については、通常、市町村長から改葬許可証を取得する必要はありません。現在の墓地等の管理者から焼骨の埋蔵又は収蔵の事実を証する書面、いわゆる「分骨証明書」の交付を受け、これを新たに分骨を受け入れる墓地等の管理者に提出することになります。自治体の墓地実務においても、改葬については改葬許可証、分骨については分骨証明書という形で区別されています。
寺院としては、分骨を依頼した者の権限を確認した上で、故人の氏名、現在の墓所、分骨を行った日等を記録し、必要な証明書を交付する運用を整えておくことが重要です。
6 分骨の申出だから当然に応じてよいわけではない
墓埋法上、分骨のための証明手続が定められているからといって、寺院が親族の誰から請求されても直ちに遺骨を取り分けてよいということではありません。
例えば、現在の墓地使用者又は祭祀承継者が明確であるにもかかわらず、その者に無断で別の親族が「自分にも遺骨を分けてほしい」と申し出てきた場合には、寺院が独自の判断で分骨を行うことは避けるべきです。
分骨は、一度行えば元の状態に戻すことが困難な行為です。寺院が権限のない者の申出に応じて遺骨を引き渡した場合には、後に祭祀承継者との間で紛争に巻き込まれる可能性があります。
そのため、寺院としては、墓地使用者、祭祀承継者その他遺骨を管理する権限を有する者からの申出であることを確認し、又はその者の承諾を確認した上で対応することが重要です。
親族間で分骨の可否について争いがある場合には、寺院はその争いを独自に解決しようとせず、当事者間で権利関係を確定するまで引渡しを留保するといった慎重な対応も検討すべきでしょう。
7 寺院は遺骨を紛争の手段にしないこと
遺骨の返還や墓じまいの問題が発生している場合においては、寺院と墓地使用者との間で管理料、墓石撤去費用、離檀その他の問題が併存している場合がよくあります。
この場合、それぞれの問題について法的根拠を区別して処理することが重要です。例えば、未払管理料が存在するのであれば墓地使用契約に基づく金銭債権として請求し、墓石の撤去義務があるのであれば墓地使用契約や墓地使用規則に従って原状回復を求めることになります。
一方、遺骨については、誰がその管理・祭祀を行う権限を有するのか、改葬・分骨について必要な手続が整っているかという観点から判断すべきです。
したがって、墓地使用者との間に別の紛争があったとしても、そのことのみを理由として遺骨を事実上の担保のように扱うのではなく、各法律関係を分けて対応することが重要です。
8 本件ケースにおける対応
本件のうち、墓じまいのために遺骨「全部」の返還を求めている墓地使用者については、まず本人が現在の墓地使用者又は祭祀承継者であることを確認し、遺骨の移転先を確認します。別の墓地又は納骨堂へ移すのであれば改葬に当たりますので、現在の墓地所在地の市町村長による改葬許可手続を進めてもらい、寺院として必要な埋蔵事実等の証明を行います。
また、墓じまいとして墓所自体も返還するのであれば、遺骨の改葬とは別に、墓地使用契約及び墓地使用規則に従って墓石の撤去、原状回復、墓地返還等の手続を行います。
一方、親の遺骨の「一部」を別の寺院墓地へ納めたいという申出については、墓地使用者・祭祀承継者等の権限を確認し、問題がなければ、墓地、埋葬等に関する法律施行規則第5条に基づき、現在当該遺骨を埋蔵している事実を証する書面を交付することになります。
親族間に争いがある場合には、一方の親族の申出だけで遺骨全部を引き渡したり分骨を行ったりすることは避け、祭祀承継者等が確定するまで対応を留保することが安全です。
寺院としては、遺骨返還・改葬・分骨について申請書、必要書類、確認事項、証明書、引渡記録等の手続をあらかじめ整備し、住職やその時対応した者によって取扱いが変わらないよう統一的に運用しておくことが望まれます。
檀信徒からの遺骨返還・分骨の申出、改葬・墓じまい、祭祀承継者をめぐる親族間紛争、墓地使用契約・墓地使用規則の整備その他寺院墓地の管理運営に関する法律問題については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。





