Q 当寺では、檀信徒名簿や過去帳、墓地使用者に関する情報等を管理しています。檀信徒の親族や他の檀信徒などから「住所を教えてほしい」、「過去帳を見せてほしい」と求められることがあります。また、寺院規則や責任役員名簿、責任役員会議事録について閲覧を求められることもあります。このような場合、寺院としては、誰に対して、どこまで情報を開示してもいいものでしょうか。

目次
1 寺院が保有する情報は自由に開示できるものではない
寺院には、檀信徒名簿、過去帳、墓地使用者名簿、葬儀・法要に関する記録など、さまざまな個人情報が蓄積されています。
これらについて、「同じ檀家同士だから」、「親族だと言っているから」といった理由だけで、安易に檀信徒等の氏名、住所、電話番号その他の情報を第三者に提供することは適切ではありません。特に檀信徒名簿については、寺院に連絡先を提供した本人が、他の檀信徒や第三者へ自分の住所・電話番号等が開示されることまで当然に承諾しているものとは言えません。
第三者から問い合わせを受けた場合には、その者と本人との関係性、情報を必要とする具体的理由、本人の意思等を確認した上で、開示すべきか否かについて慎重に対応する必要があります。
2 宗教活動と個人情報保護法
「寺院における個人情報の保管・管理」の記事で説明したとおり、個人情報保護法第57条第1項第3号は、宗教団体が宗教活動及びこれに付随する活動のために個人情報等を取り扱う場合について、憲法上保障された信教の自由に配慮し、個人情報取扱事業者等の義務を定める同法第4章の適用を除外するものとしています。
もっとも、この規定は宗教団体が保有する情報を第三者に自由に開示してよいという意味ではありません。
同条第3項も、適用除外を受ける宗教団体等であったとしても、個人データ等の安全管理に必要かつ適切な措置、苦情処理その他個人情報等の適正な取扱いを確保するために必要な措置を自ら講じ、その内容を公表するよう努めなければならないとしています。
したがって、寺院としては、法的な適用除外の有無だけでなく、本人のプライバシー、寺院に情報を預けた際の本人の合理的な期待、開示する必要性等を考慮して、開示すべきか否かについて個別具体的に判断する必要があります。
なお、宗教法人における個人情報の管理については、別途「寺院における個人情報の保護・管理」の記事で詳しく説明していますので、併せてご参照ください。
3 過去帳を見せてほしいと言われた場合
寺院特有の問題として過去帳の閲覧を求められる場合があります。例えば、先祖について調査している親族から「過去帳を見せてほしい」と依頼されたり、家系調査等を行っている第三者から問い合わせを受けたりするケースです。
しかし、過去帳は単なる歴史資料ではなく、寺院が長期間にわたり宗教活動の一環として管理してきた重要な記録です。また、記載内容によっては現在生存している親族等のプライバシーに関係する情報を含む場合もあります。
したがって、親族であると名乗っただけで過去帳そのものを自由に閲覧させたり、撮影・複写を認めたりするのではなく、申出人の身元、故人との関係、利用目的、開示を求める範囲等を確認した上で開示の有無を判断することが望ましいでしょう。
必要な場合には、過去帳そのものを閲覧させるのではなく、寺院側で必要な部分だけを確認し、その内容に限定する形にて回答するという方法も考えられます。
4 宗教法人法第25条による閲覧請求
ここで区別しておかなければならないのが、宗教法人法第25条に基づく閲覧請求です。
同条第2項は、宗教法人の事務所に、①規則及び認証書、②役員名簿、③財産目録及び収支計算書等、④境内建物に関する書類、⑤責任役員その他規則で定める機関の議事に関する書類及び事務処理簿、⑥公益事業その他の事業に関する書類を備え付けることを求めています。
そして同条第3項は、信者その他の利害関係人で、これらの書類を閲覧することについて「正当な利益」があり、かつ、その閲覧請求が「不当な目的」によるものでないと認められる者から請求があった場合には、その閲覧が当該宗教法人の宗教上の特性に支障を及ぼすおそれがない限り、宗教法人はこれを閲覧させなければならないと定めています。
したがって、檀信徒名簿や過去帳の開示問題と、宗教法人法第25条に列挙されている法定の備付書類の閲覧請求とは分けて考える必要があります。
宗教法人法第25条に基づく備付書類の閲覧請求への対応については、別途「備付書類の閲覧請求への対応」の記事で詳しく説明していますので、併せてご参照ください。
5 檀信徒であれば必ず閲覧できるわけではない
宗教法人法第25条に基づく閲覧請求についても「檀信徒である」というだけで当然にすべての書類を閲覧できるわけではありません。
文化庁も、寺院の檀徒、信徒、神社の氏子、総代、宗教教師、債権者、保証人、包括・被包括関係にある宗教団体などを「正当な利益」が認められ得る者の例として挙げていますが、これはあくまで例示列挙に過ぎません。実際に請求があった場合には、当該閲覧について正当な利益があるか、請求が不当な目的によるものではないかを個別具体的に判断する必要があります。
例えば、責任役員の選任手続に疑義があり、その適法性を確認するために役員名簿や関係する議事録の閲覧を求める場合と、単なる興味本位や寺院関係者への嫌がらせを目的として大量の書類の閲覧を要求する場合とでは、当然のことながら寺院としての対応方法は大きく異なることになります。
6 役員名簿や議事録には個人情報が含まれている
宗教法人法第25条の閲覧制度で難しいのは、閲覧対象となる書類自体に個人情報が記載されている場合があることです。
例えば、役員名簿には責任役員等の氏名その他の情報が記載されていますし、責任役員会議事録には、出席者の氏名だけでなく、審議内容によっては特定の檀信徒、職員その他第三者に関する情報が含まれることもあります。
だからといって、個人情報が含まれているという理由だけで宗教法人法第25条の閲覧義務を一律に否定することも適切ではありません。
宗教法人法が一定の要件の下でこれらの書類の閲覧を義務付けている以上、寺院としては、宗教法人の管理運営の透明性を確保するという同条の趣旨と、書類に記載された者のプライバシー等との双方を考慮する必要があります。
文化庁も、この閲覧制度については、利害関係人の利便を図るとともに、宗教法人の管理運営の透明性を高めより適正な運営を図ることを目的とするものと説明しています。
7 閲覧対象は第25条第2項の書類に限られる
なお、実務上重要なのは、宗教法人法第25条に基づき閲覧させなければならないのは、同条第2項規定の書類に限られるのであって、寺院内部のあらゆる資料を開示しなければならないわけではないという点です。
文化庁は、同条による閲覧請求の対象は第25条第2項に掲げられた書類及び帳簿であり、これらの書類を作成する基礎となった帳簿等まで広く閲覧対象となるわけではないと明確にしています。
したがって、例えば檀信徒名簿や過去帳が当然に第25条に基づく閲覧請求の対象となるわけではありません。
「檀信徒なのだから寺院が持っている資料を全部見せてほしい」と漠然と要求された場合にも、まず、どの資料について、どのような法的根拠で閲覧を求めているのかを整理する必要があります。
8 開示請求を受けた場合の対応
寺院が第三者から情報や書類の開示を求められた場合には、まず「誰」が、「何の情報」を、「何の目的」で求めているのかを具体的に確認することが重要です。
その上で、一般的な檀信徒情報や過去帳等については、本人との関係、利用目的、情報の性質等を考慮して開示の可否を判断します。
一方、寺院規則、役員名簿、財産目録、責任役員会議事録等について宗教法人法第25条に基づく閲覧請求がなされた場合には、請求者が信者その他の利害関係人に当たるか、閲覧について正当な利益があるか、不当な目的による請求ではないか、閲覧が当該宗教法人の宗教上の特性に支障を及ぼすおそれがないかを個別に検討する必要があります。
開示するか否かについて判断が難しい場合には、その場で直ちに資料を渡したり閲覧させたりせず、請求内容を書面で提出してもらい、法的な検討をした上で回答することも有効です。
9 「開示しないこと」と「開示しなければならないこと」の区別
寺院における情報管理では檀信徒等の個人情報を不用意に外部へ開示しないことが重要です。
しかし一方で、宗教法人法第25条のように、宗教法人の適正な管理運営を確保するため、一定の場合には寺院側に情報を閲覧させる義務を課している制度も存在します。
したがって、寺院の情報管理において重要なのは、「個人情報だから一切開示しない」という対応でも「檀徒から求められたからすべて開示する」という対応でもありません。
守るべき情報は適切に守り、法律上開示すべき情報については適切な手続の下で開示する。この両者のバランスを取ることが宗教法人の適切な情報管理には求められるのです。
寺院における個人情報の第三者への開示、過去帳等の閲覧、宗教法人法第25条に基づく寺院規則・役員名簿・議事録等の閲覧請求については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。





