悪質な参拝者への出入り禁止

Q 当寺では、特定の参拝者が、住職や寺務職員に対して大声で苦情を繰り返す、他の参拝者を無断で撮影する、立入禁止の場所に勝手に入るなどの行為を繰り返しています。何度注意しても従わず、寺院の運営や他の参拝者にも支障が生じています。寺院は多くの人に開かれた場所ではありますが、このような問題のある参拝者に対して、境内への立入りを禁止することはできるのでしょうか。また、出入り禁止を伝えても再び境内に入ってきた場合には、寺院としてどのように対応すればよいでしょうか。

悪質な参拝者への出入り禁止

1 寺院だから誰でも自由に立ち入れるわけではない

 寺院は、一般に参拝者や檀信徒を受け入れ、多くの場合に山門や境内を広く開放しています。しかし、寺院が社会一般に開かれているからといって、誰もが無条件かつ無制限に境内や本堂へ立ち入る権利を有しているわけではありません。

 寺院の境内地や本堂等は宗教法人たる寺院が所有又は管理する施設ですので、寺院としてはそれらの施設を適切に管理し、宗教活動や参拝環境を維持する必要があります。そのため、参拝者に対して、参拝時間や、立入可能な場所、撮影の可否、飲食・喫煙の禁止等の合理的な利用ルールを設けることができます。

 同様に、寺院の宗教活動を妨害する、他の参拝者に迷惑を及ぼす、寺院の定めた合理的なルールを繰り返し無視するなどの事情がある者については、その程度に応じて退去を求めたり、さらに必要があれば以後の立入りを禁止することも可能と考えられます。

 もっとも、「住職と意見が合わない」、「苦情を述べた」といった理由だけで安易に出入り禁止とするのではなく、具体的にどのような行為があり、寺院の管理や宗教活動にどのような支障が生じているかを踏まえて判断することが重要です。

2 どのような場合に出入り禁止を検討できるか

 寺院として出入り禁止を検討する典型的なケースとしては、

・住職や寺務職員、他の参拝者に対して暴言・威嚇を繰り返す場合

・法要等を妨害する場合

・禁止されている撮影やライブ配信を繰り返す場合

・立入禁止区域に無断で侵入する場合

・境内で無断の営業・勧誘活動を行う場合

・寺院の設備や文化財を損傷するおそれのある行為を行う場合

などが考えられます。

 また、一つ一つの行為だけを見れば重大とはいえなくても、寺院から何度注意しても同じ行為を繰り返し、これによって寺務職員が長時間対応を余儀なくされるなど、寺院運営に現実の支障を生じさせている場合には、一定の利用制限を課すべき必要があるでしょう。

 他方、寺院の運営方法やお布施、墓地管理等について正当な意見や苦情を述べたというだけで出入り禁止とすることは適切ではありません。寺院にとって耳の痛い内容であっても、正当な苦情や質問と、威迫、嫌がらせ、業務妨害とはしっかりと区別して考える必要があります。

 問題となる行為の内容、頻度、これまでの注意の経緯、他の参拝者への影響、再発可能性等を総合的に確認し、必要かつ相当な範囲で対応することが重要です。

3 まずは注意・警告を行うこと

 緊急性の高い暴力行為や脅迫等の場合を除けば、直ちに永久の出入り禁止を通知するのではなく、まずは問題となる行為を具体的に指摘し、その中止を求めることが基本となります。

 例えば、「法要中の撮影は禁止していますので撮影をやめてください」、「他の参拝者への声掛けや勧誘はやめてください」、「これ以上大声を出される場合には退去をお願いすることになります」など、寺院が何を問題としているのかを明確に伝えます。

 口頭で注意しても改善されない場合には、日時、場所、問題となった行為、寺院から行った注意等を記録しておくことも重要です。防犯カメラ映像、メール、SNS上の投稿その他の客観的資料がある場合には、必要に応じてそれらも保存しておいてください。

 その上で、同様の行為が繰り返される場合には、「今後同じ行為があった場合には境内への立入りをお断りします」と警告するなど、段階的に対応することが考えられます。

4 出入り禁止を通知する場合

 注意や警告を繰り返しても改善されない場合や、暴力、脅迫、重大な業務妨害等があった場合には、寺院として明確に出入り禁止を通知することを検討します。

 後日の紛争を防ぐためには、重大な案件については口頭だけではなく書面で通知しておくことが望ましいでしょう。通知書には、これまでにどのような問題行為があったのか、それに対して寺院がどのような注意を行ったのか、今後どの範囲への立入りを禁止するのか等を具体的に記載します。

 また、立ち入り禁止の場合であっても寺院のすべての土地への立入りを永久に禁止するとする必要が常にあるわけではありません。問題行為の程度によっては、本堂内への立入りのみを禁止する、寺務所への立入りを禁止する、住職や寺務職員への直接の面会を禁止して連絡を書面に限定する、一定期間の立入りを禁止するなど、より限定的な方法も考えられます。

 寺院側としても、必要以上に広範な禁止措置を採るのではなく、問題となっている行為を防止するために必要な範囲を検討することが、その後の紛争を防ぐ上でも重要です。

5 出入り禁止後に再び立ち入った場合

 以上の手続を踏んだうえで明確に立入りを拒否したにもかかわらず、対象者が本堂、庫裏、寺務所等へ無断で立ち入ったり、退去を求められても居座ったりした場合には、刑法第130条の建造物侵入罪又は不退去罪が問題となる可能性があります。

同条は、正当な理由なく、人の看守する邸宅・建造物等に侵入する行為や、退去要求を受けたにもかかわらず退去しない行為を処罰対象としており、寺院の管理権者の意思に反する立ち入りについても、具体的な状況によって建造物侵入罪が成立する可能性があります。

 もっとも、寺院の境内すべてについて、出入り禁止を通知した者が一歩入っただけで直ちに建造物侵入罪が成立するというわけではありません。刑法第130条が適用される「建造物」やその囲繞地に当たるかは、塀や門の有無、施設の構造、管理状況等によって具体的に判断されます。

 したがって、出入り禁止を実効的に運用するためには、禁止対象となる場所を明確にしておくことが重要です。本堂、庫裏、寺務所、柵や塀等によって管理された区域等については、対象者に立入りを認めない旨を明確に通知しておくことが考えられます。

 実際に対象者が無断で立ち入り、退去要求にも応じない場合には、寺院側だけで無理に排除しようとせず、状況に応じて速やかに最寄りの警察署に連絡することが適切です。

6 暴力・脅迫等がある場合には警察への相談も検討する

 問題行為が単なるマナー違反の範囲を超え、住職や寺務職員に対する暴力、具体的な脅迫、器物の損壊、執拗な業務妨害等に及んでいる場合には、もはや寺院内部だけで対応を続けるべき状況ではありません。

 例えば、「住職を殺す」、「寺に火をつける」といった発言をする、寺務所内で暴れる、職員を待ち伏せするなどの行為がある場合には、寺院関係者の安全確保を最優先し、早期に警察に相談してください。その際には、これまでの問題行為を時系列で整理し、録音、映像、メール、手紙、SNSの投稿、過去の警告書等を持参すると、具体的な相談を行いやすくなります。

 寺院側が対象者と一対一で対応し続けてしまうと、言った・言わないの水掛け論になったり、対応する住職や寺務職員の精神的、肉体的負担が大きくなってしまいます。問題が深刻化した段階では、窓口を特定の担当者や弁護士に一本化することで、本人との直接のやり取りを避けることが大切です。

7 檀信徒や墓地使用者の場合には注意が必要

 出入り禁止の対象者が一般の参拝者ではなく、当該寺院の檀信徒や墓地使用者である場合にはより慎重な検討が必要です。

 例えば、墓地使用者について、寺院がその者とのトラブルを理由に境内への立入りを全面的に禁止してしまえば、その者が墓参りや墓地の管理を行うことまで事実上できなくなる可能性があります。また、檀信徒については、寺院との間に宗教的な檀信徒関係が存在することが通常です。

 したがって、問題行為を防ぐ必要があるとしても、当然に墓地使用権や檀信徒としての地位まで失わせることができるわけではありません。これらは別の法律関係として検討する必要があります。

 問題行為の内容・程度や墓地使用契約の内容等を踏まえ、必要かつ相当な範囲で、例えば墓参りを事前連絡制とする、寺院関係者の立会いの下で認める、墓地への指定された経路のみの利用を求めるなどの方法も考えられるでしょう。

 問題のある檀信徒の資格喪失や墓地使用契約の解除まで検討する場合には、それぞれ寺院規則、檀徒規則、墓地使用規則、契約関係等に基づいて別途判断する必要があります。

 檀信徒の資格喪失については、別途の「寺院は問題のある檀信徒を除名・檀信徒資格喪失とすることができるか」の記事も併せてご覧ください。

8 氏名や写真を境内に掲示する場合の注意

 特定の人物を出入り禁止とした場合には、「この人物を入れないようにしてください」として、寺務職員や警備担当者の間でもしっかりと情報を共有しておく必要があります。

 他方で、その者の顔写真や氏名を境内掲示板やホームページ等に大きく掲示し、不特定多数の者にも公開することについては十分慎重であるべきです。必要性を超えてむやみに氏名や顔写真等を公表してしまえばプライバシー侵害や名誉毀損など別のトラブルとなる可能性があります。

 出入り禁止の実効性を確保するために本人確認が必要な場合でも、原則として寺院内部の関係者間で必要な範囲に限って情報を共有し、外部への公表は必要性と相当性を慎重に検討すべきでしょう。

 防犯カメラを活用する場合には、録画データについても適切な管理を行う必要があります。

9 本件ケースにおける対応

 本件のように、住職や寺務職員に対する大声での苦情、他の参拝者への無断撮影、立入禁止区域への侵入等を繰り返し、寺院から注意しても改善されない場合には、寺院がその人物に対して一定の立入り制限を設けることは可能と考えられます。

 まずは、それぞれの問題行為について日時、場所、内容、寺院から行った注意等を記録し、本人に対して問題行為を中止するよう明確に警告することになります。それでも改善されない場合には、書面により、対象となる場所や禁止期間等を特定して出入り禁止を通知することが考えられます。

 その後、対象者が本堂や寺務所等へ無断で立ち入った場合には退去を求め、退去要求にも応じない場合や暴力・脅迫等のおそれがある場合には、寺院関係者だけで対応せず速やかに警察への通報・相談を検討します。

 寺院は多くの人に開かれた宗教施設ですが、他の参拝者や寺院関係者の安全を害し、宗教活動や寺院運営を妨害する者まで無制限に受け入れる義務があるわけではありません。問題行為を客観的に記録した上で、注意、警告、立入制限、警察への相談というように、その悪質性に応じて段階的かつ適切に対応することが重要です。

 悪質な参拝者への対応、出入り禁止通知書の作成、檀信徒・墓地使用者とのトラブル、建造物侵入・不退去等への対応その他寺院施設の管理に関する法律問題については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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