高齢の檀信徒からの高額寄附

Q 長年の檀家である高齢の方から、「これまでお寺には大変お世話になったので、預貯金の中から1000万円を寄附したい」との申出がありました。本人は自らの意思による寄附であると話していますが、かなりの高額ですので、将来、本人やその家族から返還を求められるのではないかという心配もあります。   また、近年、宗教団体に対する高額な寄附が社会問題となり、寄附の勧誘を規制する法律が新たに制定されたとも聞いています。寺院として、高齢の檀信徒から高額な寄附の申出があった場合、そのまま受け取ってよいのでしょうか。

1 寺院と寄附

 寺院の本堂や庫裏の建立・修繕、境内の整備、仏像・仏具の修復などの事業に際して、檀信徒から寄附を受けることは古くから行われています。また、特定の事業に限らずに、長年菩提寺との関係を築いてきた檀信徒が寺院への感謝の気持ちなどから自発的にまとまった金銭を寄附することもあります。

 このような寄附を寺院が受けること自体は当然に法律上問題となるものではありません。

 もっとも、寄附が高額である場合、特に寄附者が高齢である場合には注意が必要です。

 寄附を受けた当時には何ら問題がなくても、その後、寄附者本人から「本当は寄附するつもりではなかった」と返還を求められたり、寄附者が死亡した後に相続人から「高齢で判断能力が低下していたのに、寺院が多額の金銭を受け取った」などとして問題視されたりすることがあります。

 また、旧統一教会をめぐる高額献金等の問題を背景として、令和4年には「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」(以下「不当寄附勧誘防止法」といいます。)が制定され、令和5年6月1日に全面施行されました。同法は宗教法人だけを対象とした法律ではありませんが、「法人等」による個人への寄附勧誘を規制するものであり、当然、宗教法人である寺院が檀信徒に寄附を勧誘する場合にも適用されます。

 したがって、寺院としては、「本人が寄附すると言っているのだから受け取ればよい」と安易に考えるのではなく、寄附者の意思、生活状況、寄附に至った経緯、金額等を踏まえて慎重に対応する必要があります。

2 寄附の法律関係

 檀信徒が寺院に金銭を無償で提供する一般的な寄附は、民法上の贈与契約として整理されることが多いと考えられます。

 したがって、寄附者と寺院との間で寄附について合意が成立し、実際に金銭が寺院へ交付されれば、原則としてその金銭は寺院に帰属することになります(民法第549条)。

 もっとも、形式的に寄附としての贈与契約が成立しているからといって、どのような経緯で受けた寄附であっても寺院が返還義務を負わないということではありません。

 例えば、寄附者に寄附の具体的な意味や結果を理解するだけの十分な意思能力がなかった場合には、その法律行為は無効となり得ます(民法第3条の2)。また、詐欺や強迫等によって寄附がされた場合には、その意思表示の取消しが問題となることがあります(同第96条)。

 高齢者からの高額寄附については、後日こうした問題が生じることを想定した対応が必要です。

3 不当寄附勧誘防止法

 寺院が寄附を受ける際に現在特に注意すべき法律が「不当寄附勧誘防止法」です。

 同法は、法人等による不当な寄附の勧誘を禁止するとともに、行政上の措置や寄附の意思表示の取消し等について定め、寄附の勧誘を受ける者を保護することを目的としています。同法においては、「配慮義務」、「禁止行為」、「違反に対する行政上の措置」、「寄附の意思表示の取消し」等が体系的に規定されています。

 同法第3条は、法人等が寄附を勧誘する際に、①寄附者の自由な意思を抑圧し、適切な判断が困難な状態に陥らせないこと、②寄附によって本人や一定の親族の生活維持を困難にすることがないこと、③勧誘する法人等を明らかにするとともに、寄附財産の使途について誤認させるおそれがないこと等について十分に配慮しなければならないとしています。

 これは寄附を受ける寺院側にとっても重要なことです。例えば、檀信徒が「本堂修繕のために1000万円寄附したい」と申し出た場合、その1000万円を寄附しても本人の老後の生活に十分な財産が残る場合と、預貯金のほぼ全てを寺院へ寄附する場合とでは、寺院としての対応も大きく異なるべきでしょう。

 特に、高齢の檀信徒に対して寺院側から高額な寄附を積極的に勧める場合には、その寄附によって本人の生活が困窮しないかという点について十分かつ慎重な配慮が必要となります。

 なお、不当寄附勧誘防止法の具体的な規制内容、寄附の取消し、行政上の措置等については、別途「不当寄附勧誘防止法と寺院への寄附」で詳しく解説していますので、併せてご参照ください。

4 不当な寄附勧誘

 不当寄附勧誘防止法は、単に配慮を求めるだけではなく一定の寄附勧誘行為そのものを禁止しています(同法第4条)。

 例えば、寄附を勧誘する者が、寄附者から退去するよう求められても退去しないことや、寄附者がその場から退去したいとの意思を示しているにもかかわらず退去させないことなど、一定の行為によって寄附者を困惑させることは禁止されています。

 さらに、同法には、寄附のために借入れをさせたり、居住用不動産等を処分して資金を調達することを要求する行為についての規制も設けられています(同法第5条)。

 寺院における通常の寄附募集が直ちにこれらに該当するわけではありません。

 しかし、「寺にこれだけ寄附をしなければ先祖が供養されない」、「寄附しなければ不幸になる」などとして心理的に追い込み、高額な寄附をさせるような行為については、宗教的な説明であることを理由としても当然に許されるものではありません。

 寺院としては、檀信徒が自由な意思に基づいて寄附するか否かを判断できる環境を確保することが重要です。

5 自発的な寄附

 もっとも、不当寄附勧誘防止法は、檀信徒による高額な寄附そのものを禁止する法律ではありません。寺院側から特段の勧誘をしていないにもかかわらず、檀信徒が自発的に高額な寄附を申し出ることもあります。

 この点、同法の各規制は基本的に法人等による「寄附の勧誘」を対象とするものですから、寺院側からの勧誘が全くなく、檀信徒が純粋に自発的に寄附を申し出た場合には、同法の勧誘規制との関係は異なります。

 しかし、その場合であっても、高齢者から極めて高額な寄附を受ける際には、寺院側として慎重な対応が必要です。本人の意思能力に問題があったり、本人が寄附の内容を十分理解していなかったりすれば、上述のとおり民法上の問題が生じるリスクがあります。また、寺院側から見れば自発的な寄附であったとしても、本人の死後、事情を知らない相続人から不当な勧誘があったのではないかと疑われるリスクもあります。

 したがって、「寺院からは勧誘していないのだから、寺院として何も確認しなくてよい」ということにはなりません。

6 意思能力の有無

 高齢の檀信徒から寄附を受ける際に特に注意すべきなのが、本人の意思能力の有無です。

 高齢であるというだけで意思能力がないことになるわけではありません。

しかし、認知症等により判断能力が低下している場合には、寄附の金額、自己の財産状況、寄附によって自らの財産が減少することなどを寄附者本人が十分に理解できているかが問題になります。特に、本人の全財産に占める割合が大きい寄附や、不動産など重要な財産そのものを寄附する場合にはより慎重な確認が必要です。

 寺院側が意思能力の有無を医学的に判断することはできませんが、会話の内容が嚙み合わず不自然な点がある場合、同じ説明を繰り返しても理解できていない場合、家族から認知症であるとの話を事前に聞いている場合など、判断能力に疑問を生じさせる事情がある場合においてはその場で安易に寄附を受け取るべきではありません。

 必要に応じて、本人に弁護士等の第三者へ相談してもらうなど、寺院から独立した立場で意思確認を行う方法も検討すべきでしょう。

7 生活への影響

 本人に十分な意思能力があったとしても、高額な寄附によって本人の生活が困難になるような場合には別の問題があります。

 前述したとおり、不当寄附勧誘防止法第3条は、寄附によって本人又は一定の親族の生活維持を困難にすることがないよう十分に配慮することを法人等に求めています。

 例えば、3000万円の預貯金を有する人が100万円を寄附する場合と、預貯金が1200万円しかない高齢者が1000万円を寄附しようとする場合とでは、その背景事情が全く異なります。

 後者については、今後かかってくるであろう生活費、医療費、介護費用等を考慮すれば、寺院としてもそのまま寄附を受け取ることには当然のことながら慎重であるべきでしょう。

 寺院が寄附者の全財産を詳細に調査する義務を常に負うということではありませんが、寄附額が明らかに高額である場合には、本人の生活に重大な影響が生じないかをしっかりと確認することが寺院自身を将来の紛争から未然に防止することにもつながります。

8 寄附の記録

 高額な寄附を受ける場合には、口頭のやりとりだけで済ませるのではなく、寄附の内容を書面に残しておくことが重要です。

 例えば、寄附申込書等を作成し、寄附者、寄附金額、寄附日、寄附の目的・使途、返還の有無等を明確にしておくことが考えられます。

 特に寄附の目的・使途を限定した場合の寄附については注意が必要です。

 「本堂の屋根修繕のため」として受けた寄附を寺院が全く別の目的に使用すれば寄附者との間で紛争となる可能性があります。不当寄附勧誘防止法第3条も、寄附財産の使途について誤認させるおそれがないよう配慮することを求めています。

 また、高額な寄附の場合には、寺院側だけで作成した書類に署名を求めるだけではなく、寄附者本人に寄附の意思をあえて直筆で記載してもらう、複数回に分けて意思を確認する、面談記録を残すなどの方法も有効です。

 後日紛争となった場合に重要なのは、「寄附申込書がある」という事実だけではなく、本人がどのような経緯で、どのような理解の下に、自ら寄附を決断したのかが客観的に説明できる資料が残っていることです。

9 家族への確認

 高齢の檀信徒から高額な寄附の申出を受けた場合、「念のため家族の同意をもらった方がよいのではないか」と考えることもあります。もっとも、十分な意思能力を有する本人の財産について、成人した子などの同意がなければ本人が寄附できないというものではありません。

 したがって、一律に家族の同意を得ることを寄附のための条件とする必要まではありません。

 他方で、本人自身が家族への説明を希望している場合や、極めて高額な寄附で将来の相続人との紛争が現実的に予想される場合には、本人の同意を得た上で家族にも寄附の意向を伝えておくことが、将来における紛争予防につながることになります。

 重要なのは、寺院が本人の意思を無視して家族の承諾を求めることではなく、本人の自己決定を尊重しつつ、その意思決定が後から疑われないような適正な手続を整えるということです。

10 本件ケースにおける対応

 本件では、高齢の檀信徒から1000万円という高額な寄附の申出を受けています。

 寺院としては、その場で直ちに受領するのではなく、まず、寺院側から寄附を積極的に勧誘した経緯があるのか、本人が自発的に申し出たものなのかを確認すべきです。

 その上で、本人が寄附の金額・目的・効果を十分理解しているか、寄附によって今後の生活、医療、介護等に支障を来すおそれがないかを慎重に確認する必要があります。

 特に高額な寄附については、一度の面談だけで決めず、一定期間を置いて改めて本人の意思を確認することも有効です。必要に応じて、寺院から独立した弁護士等の専門家に相談してもらい、その上でなお本人が寄附を希望するのであれば、寄附申込書等を作成し、寄附の目的、金額、使途等を明確にした上で受領する方法が望ましいでしょう。

 また、寺院自身が寄附を募集する場合には、不当寄附勧誘防止法を踏まえ、寄附するか否かは檀信徒の自由な判断に委ねられること、寄附によって本人や一定の親族の生活維持を困難にさせないこと、寄附金の使途について正確に説明することなどを徹底する必要があります。

 寺院と檀信徒との関係は、通常の事業者と顧客との関係とは異なり、長年にわたる宗教的・精神的な信頼関係を基礎としています。だからこそ、寺院側にはその信頼関係を利用して寄附を得たとの疑念を生じさせない慎重な対応が求められます。

 高額な寄附について適切な手続を整えることは、檀信徒を保護するだけではなく、後日、本人や相続人から寄附の有効性を争われたり、不当な寄附勧誘を行ったとの批判を受けたりすることから、寺院自身を守ることにもつながります。

 高額寄附、使途指定寄附、寺院への遺贈、不当寄附勧誘防止法への対応その他寺社運営に関する法律問題については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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