お寺の壁や仏像などに落書き・いたずらをされた場合の対応

Q 近年、寺院の本堂や山門、塀、石碑、仏像などに落書きをされたり、いたずらにより傷を付けられたりする事件が報道されています。このような被害を受けた場合、お寺としてはどのように対応すべきでしょうか。また、通常の寺院建物と文化財に指定されている建物や仏像とでは、対応に違いはあるのでしょうか。

お寺の壁や仏像などに落書き・いたずらをされた場合の対応

1 寺院における落書き被害

近年、寺院に対する落書きやいたずらは全国各地で発生しており、寺院にとっても決して他人事ではありません。

このような行為は、建物や仏像を汚損・損傷させるだけではなく、長年受け継がれてきた寺院の景観や宗教的尊厳を損ない、檀信徒や地域社会にも大きな影響を及ぼします。

また、被害を受けた対象が文化財に指定されている場合には、通常の建物とは異なり、文化財保護法等を踏まえた慎重な対応が必要となることもあります。

そのため、落書きやいたずらの被害に遭った場合には、慌てて修復を急ぐのではなく、まずは被害状況を記録した後、その対象が通常の寺院建物なのか、それとも文化財なのかを確認した上で適切な対応を行うことが重要です。

以下では、寺院が落書きやいたずらの被害を受けた場合の法的責任と実務上の留意点についてご説明します。

2 初動対応

落書きやいたずらを発見すると、寺院としてはすぐに消したいと考えるのが自然です。

しかし、まず行うべきなのは修復ではなく、現場の証拠を保全することです。

具体的には、

・スマホ等で被害箇所の全景、近接状況及び周辺状況を写真・動画で撮影すること

・発見日時や発見状況を記録すること

・防犯カメラ映像を保存すること

・目撃者の有無を確認すること

などが重要となります。

その上で、故意による落書きや器物損壊が疑われる場合には、速やかに所轄警察署へ相談し、必要に応じて被害届を提出することを検討すべきです。

証拠保全前に修復を急いでしまうと、後日、刑事事件や損害賠償請求において被害状況の立証が困難となる場合もあるため、冷静な初動対応が極めて重要になります。

3 刑事責任・民事責任

寺院の本堂や山門等に落書きをしてその効用を害した場合には建造物等損壊罪(刑法第260条)が、仏像、石碑、掲示板その他の物を損壊した場合には器物損壊罪(同第261条)が成立する可能性があります。具体的にいずれの犯罪が成立するかは、被害を受けた物の性質や損壊の程度等によって判断されます。

また、犯人が判明した場合には、民事上、加害者に対して損害賠償を請求できる場合があります。

損害賠償の対象となり得るものとしては、被害行為と相当因果関係があり、被害回復のために必要かつ相当な範囲の修復費用、清掃費用、調査費用、足場設置費用等について、損害賠償請求を検討することができます。

そのためにも、被害状況の写真や修理見積書、修復内容などの資料を保存しておくことが重要です。

4 文化財への対応

被害を受けた建物や仏像等が、

・ 国宝

・ 重要文化財

・ 登録有形文化財

・ 都道府県指定文化財

・ 市区町村指定文化財

などに指定されている場合には、通常の寺院建物とは対応が大きく異なります。

文化財は寺院の所有物であると同時に、歴史的・文化的価値を有する文化遺産として将来に承継すべき財産でもあります。そのため、「落書きを早く消したい」という理由だけで寺院が独自に修復を進めることは適切ではありません。

文化財保護法は、文化財の所有者に対し、文化財が貴重な国民的財産であることを自覚し、これを適切に保存することを求めています。

特に国宝又は重要文化財を修理する場合には、原則として修理開始の30日前までに所定の届出を行う必要があります(文化財保護法第43条の2)。また、修復方法によっては、文化財の現状を変更し、又は保存に影響を及ぼす行為として文化庁長官の許可が必要となることがあります(同第43条)。そのため、修復方法を寺院だけで判断せず、事前に市区町村又は都道府県教育委員会の文化財担当部署及び専門家と協議することが不可欠です。

特に、国宝又は重要文化財が落書き等により毀損した場合には、文化財保護法に基づく届出が必要となります。所有者である寺院は、まず都道府県又は政令指定都市の文化財保護行政主管課等へ速やかに連絡し、原則として毀損の事実を知った日から10日以内に所定の届出を行う必要があります(同第33条)。

もっとも、修復のために必要となる許可や届出の内容は、国宝・重要文化財、登録有形文化財、地方公共団体の指定文化財等の区分によって異なります。そのため、まず指定の種類を確認した上で、所管する文化財担当部署へ相談する必要があります。

5 修復時の留意点

通常の寺院建物であれば、寺院の判断により洗浄や補修、再塗装などを行うことが可能な場合が多いと考えられます。

これに対し、文化財については修復時の事情が大きく異なります。

例えば、シンナー、強力な洗剤、高圧洗浄、研磨、再塗装などを安易に行うと、落書き部分だけではなく、本来の彩色や漆、木材、石材等まで損傷させてしまう危険があります。

文化財は一度損傷すると、その歴史的・文化的価値を完全に回復できない場合も少なくありません。

そのため、文化財では「早く落書きを消すこと」ではなく、「文化財として適切に保存・修復すること」が優先されます。

また、文化財の修復は専門技術者や専門業者によって行われることが一般的であり、通常建物と比較して修復期間が長期化し、その費用も高額になる傾向があります。

なお、文化財指定を受けていない場合であっても、古い仏像、仏画、建造物、石造物等については、洗浄や再塗装によって価値を毀損するおそれがあります。そのため、歴史的又は美術的価値が認められる物については、専門家へ相談してから修復することが望ましいでしょう。

6 再発防止

落書きやいたずらは一度発生してしまうと修復後に再発するおそれもあります。

また、寺院は地域に開かれた施設であることから、防犯対策と檀信徒らの利便性とのバランスも重要になります。

具体的には、

・ 防犯カメラの設置

・ 夜間照明の整備

・ 定期的な境内巡回

・ 人感センサーの設置

・ 地域住民との情報共有

などが、防犯対策として有効と考えられます。

もっとも、文化財に防犯設備を設置する場合には、景観や文化財保存への影響にも配慮し、必要に応じて文化財担当部署と相談しながら進めることが望ましいでしょう。

7 本件ケースにおける対応

寺院が落書きやいたずらの被害を受けた場合には、通常の寺院建物か、それとも文化財かによって対応方法が大きく異なります。

通常建物であれば、証拠を保全した上で寺院の判断により修復を進められる場合が多い一方、文化財については、文化財保護法等を踏まえ、文化財担当部署や専門家と連携しながら慎重に修復方法を検討する必要があります。

また、犯人が判明した場合には、刑事上の責任追及だけでなく、修復費用等について民事上の損害賠償請求を検討することも重要です。

落書きやいたずらによる被害は、単なる財産的損害にとどまらず、寺院の宗教的尊厳や歴史的価値を損なう重大な問題となることもあります。特に文化財については、修復方法を誤ること自体が新たな法的・実務的問題を生じさせるおそれがあるため、自己判断で対応せず、文化財担当部署や専門家と連携しながら慎重に対応することが重要です。

寺院における器物損壊や落書き被害への対応、加害者に対する損害賠償請求、文化財に関する法的問題その他寺院施設の管理に関するご相談については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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