Q 当寺の参詣客用の駐車場内で、参詣客の車が駐車場にいた他の参詣客にぶつかり怪我をさせてしまいました。怪我をした参詣客からは「駐車場を管理している寺にも責任があるのではないか。損害を賠償してほしい。」と言われています。駐車場内の事故についても寺院は損害賠償責任を負わなければならないのでしょうか。

1 駐車場内事故
寺院では、法要や墓参り、行事等のために来寺する檀信徒や参詣客のため、境内地の一部を駐車場として利用していることが少なくありません。そのため、駐車場内において自動車同士が接触したり、自動車が歩行者に衝突したりする事故が発生することもあります。
もっとも、寺院の駐車場内で交通事故が発生したというだけで、駐車場を管理する寺院が当然に損害賠償責任を負うものではありません。
寺院が責任を負うか否かについては、事故が運転者の不注意によって発生したものなのか、それとも駐車場の構造や管理状態等が事故の発生に関係していたのかなど、具体的な事故原因を確認する必要があります。
2 交通事故による損害賠償請求
交通事故によって怪我をした被害者が損害賠償を請求する場合、基本的には民法第709条の不法行為責任に基づき、事故によって損害を生じさせた加害者、すなわち自動車の運転者に対して請求することになります。
したがって、例えば駐車場内を走行する自動車の運転者が前方を十分に確認せず、歩行中の参詣客に衝突したという場合には、基本的には運転者の責任が問題となります。
また、自動車同士が接触した場合についても、双方の運転方法や事故状況等からそれぞれの過失割合を判断し、運転者間で損害賠償関係を処理することになります。
このように、単に「寺院の駐車場で発生した事故である」という理由だけで、寺院が運転者とともに損害賠償責任を負うわけではありません。
3 土地工作物責任
もっとも、民法では、不法行為責任の特則として土地工作物責任が定められています(同法第717条)。
民法第717条第1項は、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵(欠陥や不具合)があることによって他人に損害を生じさせた場合、その工作物の占有者が被害者に対して損害賠償責任を負うことを定めています。ただし、占有者が損害発生を防止するために必要な注意をしていた場合には、工作物の所有者が責任を負うことになります。
「土地の工作物」とは、土地に接着して人工的作業をしたことによって成立した物をいうとされています(大判昭和3年6月7日民集7巻443頁参照)。そのため、舗装、車止め、柵、擁壁その他の設備を備えた駐車場については、その具体的な構造等によって土地の工作物として民法第717条の適用が問題となることがあります。
そして、「設置又は保存に瑕疵がある」とは、工作物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます(最判平成25年7月12日判タ1394号130頁)。その判断に当たっては、工作物自体の性状や物理的な欠陥だけではなく、その構造、周囲の状況、用途、利用状況等の具体的事情が考慮されます。
実際に、保育園の園舎屋上に設置した駐車場から自動車が転落して園児が死亡した事案において、名古屋地方裁判所平成17年3月29日判決は、駐車場の車止めや柵の構造・強度、駐車場の利用状況等を具体的に検討した上で、当該駐車場が通常有すべき安全性を欠いていたとして、駐車場の占有者であり所有者でもある保育園について土地工作物責任を認めています。
4 寺院の駐車場に求められる安全性
それでは、寺院の駐車場の工作設備について、具体的にどのような場合に問題となるのでしょうか。
例えば、駐車場を囲む壁や柵が倒れかかっている、路面に大きな陥没や危険な段差がある、車止めが著しく破損している、出入口の見通しが極めて悪いなど、事故発生の危険がある状態を寺院が長期間放置していた場合には、駐車場やその付属設備が通常有すべき安全性を欠いていたとして、寺院側の責任が問題となる可能性があります。
もっとも、寺院の駐車場にどの程度の安全設備が必要であるかは一律に決まるものではありません。駐車場の広さ、構造、利用台数、出入口の形状、歩行者の通行状況、通常どのような者が利用しているのか等によって、求められる安全性も異なります。
特に寺院では、高齢の檀信徒や参詣客が駐車場を歩行する機会も多いため、自動車の動線だけでなく、駐車場から本堂や墓地等へ向かう歩行者の動線にも配慮することが望ましいでしょう。
5 寺院による車両誘導
駐車場自体には問題がなくても、寺院側が事故発生に関与した場合には別の問題が生じます。
例えば、大規模な法要や行事等の際、寺院の職員が駐車場で車両を誘導することがあります。この際、寺院職員が後方の安全を十分に確認しないまま自動車に後退を指示し、その結果、他の車両や歩行者に衝突したという場合には、誘導を行った者の過失が問題となります。
寺院の職員が寺院の業務として誘導を行っていた場合には、その職員本人の不法行為責任だけでなく、民法第715条に基づく使用者責任として寺院たる宗教法人が損害賠償責任を負う可能性もあります。
もっとも、誘導者がいたとしても、自動車の運転者自身にも周囲の安全を確認して運転する義務があります。そのため、具体的な事故状況によっては、運転者と誘導者双方の過失が問題となります。
6 免責表示
駐車場に「駐車場内で発生した事故・盗難等について当寺は一切責任を負いません」といった表示をしている寺院もあります。
このような表示は、寺院が駐車車両を預かって管理しているわけではないことを利用者に示したり、利用者自身に安全な利用を促したりするという意味では一定の意義があります。
しかし、このような表示をしておけば、寺院がいかなる場合にも責任を負わないというものではありません。駐車場の設置又は保存に瑕疵があり、それによって事故が発生した場合や、寺院職員の不適切な誘導が事故原因となった場合などには、「責任を負いません」と表示していたことだけを理由として当然に責任を免れるものではありません。
したがって、免責表示を設置することと、駐車場施設自体を適切に管理することとは分けて考える必要があります。
7 事故が発生した場合の対応
実際に駐車場内で事故が発生した場合、負傷者がいるときには、まずその救護を優先し、必要に応じて救急車や警察への連絡を行う必要があります。
また、後日、事故原因や寺院の責任について争いになる可能性もありますので、可能であれば事故直後の車両の位置、路面や設備の状態、事故現場の状況等を写真等で記録しておくことも有用です。防犯カメラを設置している寺院であれば、事故当時の映像が自動的に上書きされてしまうこともありますので、必要な映像を早期に保存しておくことも重要です。
寺院が事故の当事者ではない場合には、寺院側がその場で運転者間の過失割合を判断したり、一方の当事者に対して責任を認めたりする必要はありません。ただ、駐車場の設備や寺院職員の誘導等が事故原因となった可能性がある場合には、事故状況を確認した上で、加入している施設賠償責任保険等の利用について保険会社に連絡することも検討すべきでしょう。
8 本件ケースにおける対応
本件では、まず、事故が運転者の不注意によって発生したものなのか、駐車場の構造や管理状態等が事故に影響していたのかを確認する必要があります。
単に運転者の前方不注意等によって参詣客に衝突したのであれば、基本的には運転者が民法第709条に基づく損害賠償責任を負うことになり、寺院が駐車場を管理しているというだけで寺院まで責任を負うものではありません。
一方、駐車場やその付属設備が通常有すべき安全性を欠いており、それが事故の発生又は損害の拡大につながった場合には、民法第717条に基づく寺院の土地工作物責任が問題となる可能性があります。
寺院としては、駐車場を囲む壁や柵が倒れたり崩れたりしていないか、路面に危険な陥没や段差がないか、駐車場内の見通しが悪い場合にはカーブミラー等の設置が必要ではないかなど、日頃から駐車場の安全性を確認しておくことが重要です。
また、多数の参詣客が集中する法要や行事等の際には、通常時とは異なる危険が生じることもあります。必要に応じて誘導員を配置したり、車両の進行方向や駐車位置を明確にしたりするなど、実際の利用状況に応じた安全対策を検討することが望ましいでしょう。
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