寺院とクラウドファンディング

Q 当寺では、本堂の修繕や文化財の保存、地域向け事業などの資金を集めるため、インターネット上のクラウドファンディングを利用することを検討しています。宗教法人である寺院がクラウドファンディングを行うこと自体に問題はないのでしょうか。また、支援者への返礼品を設ける場合や、集めた資金を使用する際には、宗教法人法や税務上どのような点に注意すべきでしょうか。

寺院とクラウドファンディング


1 「クラウドファンディング」とは

 「クラウドファンディング」とは、インターネット上のプラットフォーム等を利用し、不特定多数の者から特定の事業やプロジェクトのための資金を集める仕組みをいいます。寺院においても、本堂・山門等の修繕、仏像や仏画等の文化財の保存、災害復旧、地域交流事業等のために利用することが考えられます。
 もっとも、「クラウドファンディング」という一つの法律上の制度が存在するわけではありません。一般的に、クラウドファンディングには、支援者が実質的な見返りを受けずに資金を提供する「寄附型」と、支援額に応じて商品やサービス等の提供を受ける「購入型」等があり、どの方式を採用するかによって法律関係や税務上の取扱いが異なります。
 寺院がクラウドファンディングを始める際には、まず「寄附を募集するのか」、「商品・サービスの提供を伴うのか」を整理した上で制度設計することが重要です。

2 宗教法人がクラウドファンディングを行うことは可能か

 宗教法人がクラウドファンディングを利用すること自体を禁止する法律はありません。本堂の修繕や寺宝の保存等、寺院本来の活動を維持するために広く資金を募ることも可能です。
 宗教法人法第6条は、宗教法人が公益事業を行うことを認めるとともに、その目的に反しない限り公益事業以外の事業を行うことも認めています。他方、代表役員及び責任役員は、法令、規則等に従って宗教法人の業務及び事業を適切に運営し、法人財産を他の目的に使用又は濫用しないようにしなければなりません(同法第18条第5項)。
 したがって、本堂修繕や文化財保存等のために一時的に寄附を募る場合と、クラウドファンディングを契機として物品販売やイベント事業を反復継続して行う場合とでは、宗教法人法上の位置付けが異なります。後者については、宗教法人法第6条の「事業」に該当するかを検討し、事業に該当する場合には、同法第12条第1項第7号により、その種類及び管理運営等について寺院規則に定められているかを確認する必要があります。
 また、宗教法人が実施主体となる以上、集めた資金は住職個人ではなく宗教法人に帰属することになります。プラットフォーム上の実施主体、入金口座、会計処理についても宗教法人と住職個人とを明確に区別する必要があります。

3 寺院内部の意思決定

 クラウドファンディングを開始する前には、寺院規則を確認したうえで必要な内部手続を経ておくことが重要です。
 宗教法人法上、責任役員は規則で定めるところにより法人の事務を決定し、規則に別段の定めがなければ、宗教法人の事務は責任役員の定数の過半数で決することとされています(宗教法人法第18条第4項、第19条)。
 例えば、本堂修繕のために数千万円規模の資金を募集する場合には、クラウドファンディングの利用契約だけでなく、工事請負契約、設計監理契約、返礼品の製作委託契約等を締結することも想定されます。
 そのため、募集目的、目標金額、利用するプラットフォーム、手数料、返礼品、資金使途、目標未達の場合の取扱い等について、規則に従った意思決定を行い、その経緯や決まった内容を議事録として残しておくことが望ましいでしょう。被包括宗教法人であれば、宗派の宗制・宗規等によって承認その他の手続が求められていないかについても確認する必要があります。

4 寄附型と不当寄附勧誘防止法

 支援者が商品やサービス等の実質的な見返りを受けることなく寺院に資金を提供する場合には、基本的には寄附として整理することになります。
 この場合に注意すべきなのが、「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」(不当寄附勧誘防止法)です。同法における「寄附」は、原則として個人が法人等に無償で財産を移転し、又は財産上の利益を供与する行為を対象としています。したがって、純粋な寄附型クラウドファンディングについては同法の規律を意識する必要があります。
 同法第3条は、寄附の勧誘に際し、① 寄附者の自由な意思を抑圧しないこと、② 寄附によって本人や一定の親族の生活維持を困難にしないこと、③ 勧誘する法人等を明らかにし、寄附財産の使途について誤認させないこと等について十分に配慮することを求めています。また、不退去、退去妨害、霊感等による不安を利用した一定の勧誘行為等については禁止規定も設けられています(同第4条)。
 寺院としては、「寄附しなければ先祖が供養されない」、「支援しなければ災いが起こる」といった信仰上の不安を利用して寄附を促すような募集は避けなければなりません。特にクラウドファンディングでは募集内容が広く公開されるため、募集目的や資金使途を客観的かつ正確に説明することが重要です。

5 購入型クラウドファンディングと返礼品

 寺院のクラウドファンディングでは、支援額に応じて御朱印、記念札、寺院ゆかりの品、特別拝観、行事への参加等を返礼として設けることがあります。
 この場合には、その返礼が支援に対する謝意としての象徴的なものなのか、それとも支援金と実質的な対価関係にある商品・サービスなのかを区別する必要があります。
 何らかの商品やサービスを受けることを前提とした有償取引は、原則として不当寄附勧誘防止法上の「寄附」とは異なります。購入型クラウドファンディングにおいては、実行者が特定商取引法上の販売業者・役務提供事業者や景品表示法上の事業者に該当することが一般的であるものと解されています。
 したがって、実質的な購入型である場合には、販売価格、送料、支払方法、商品の引渡時期、返品・キャンセル条件等について、特定商取引法上必要となる表示を確認するとともに、返礼品の内容について事実と異なる表示や著しく優良であると誤認させる表示を行わないよう注意する必要があります。


6 税務・会計上の注意

 宗教法人については、すべての収入が法人税の非課税対象となるわけではありません。法人税法上、宗教法人は公益法人等として扱われますが、法人税法上の収益事業から生じた所得については課税対象となります。
 純粋な「寄附」として受け取った金銭は、通常、それ自体が物品販売等の収益事業の対価となるものではありません。他方、購入型クラウドファンディングを通じて一般商品を販売するなど、法人税法上の収益事業に該当する行為を行えば、その部分について課税関係が生じる可能性があります。
 ただし、返礼品があるから直ちに「物品販売業」になるわけでもありません。国税庁は、宗教法人がお守り、お札、おみくじ等を頒布する場合でも、その価格等からみて差額の実質が喜捨金と認められる場合には、法人税法上の物品販売業には該当しないとの取扱いを示しています。他方、一般の商品と同様の物品を通常の販売価格で販売する場合には物品販売業となり得ます。
 クラウドファンディングの返礼品についても、このような税務上の考え方を参考にしつつ、支援額と返礼品の価値、一般市場で販売される種類の物品か、実質的に寄附に対する謝礼なのか等を踏まえて個別に判断する必要があります。
 また、対価性のない寄附は一般に消費税上の課税取引とはなりませんが、商品やサービスの対価として資金を受領する場合には消費税の課税関係も検討する必要があります。いずれにせよ、高額な募集や購入型を行う場合には、募集開始前に税理士と相談しておくことが安全でしょう。
 なお、宗教法人への寄附だからといって、支援者が当然に所得税の寄附金控除を受けられるわけではありません。国税庁も、菩提寺の改築工事のための寄附について、財務大臣から特定寄附金として指定された場合等を除き、寄附金控除の対象とはならない旨を明示しています。

7 資金使途とプロジェクト変更

 クラウドファンディングでは、支援者は募集ページに記載された目的や計画に賛同して資金を提供します。そのため、募集時に示した資金使途を守ることが極めて重要です。
 例えば、「本堂屋根の修繕費として1000万円を募集する」と説明して資金を集めたにもかかわらず、その大部分を別の事業や住職個人の支出に使用することは許されません。その資金を募集時に示した目的と異なる事業に無断で使用すれば、支援者との契約関係や説明義務との関係で問題となり得ます。また、宗教法人に帰属する資金を住職個人の支出に流用することは許されません。
 募集ページには、プロジェクトの目的、必要資金の概算、資金使途、目標金額、実施予定時期、返礼内容等を具体的に記載し、目標額を超える資金が集まった場合の残額の使用方法についても可能な範囲で示しておくことが望ましいでしょう。
 また、工事費の高騰や文化財調査の結果等によって当初の計画を変更せざるを得ない場合には、その理由、変更後の計画及び資金使途を支援者へ説明する必要があります。目標額未達の場合やプロジェクト中止の場合の返金については、利用するプラットフォームの方式や利用規約によっても異なりますので、募集開始前に確認しておく必要があります。

8 文化財の修繕

 本堂や仏像等の文化財保存を目的とするクラウドファンディングでは、資金を確保できたからといって自由に修繕できるわけではありません。国又は地方公共団体の指定文化財については、文化財保護法や条例等に基づく許可・届出が必要となる場合がありますので、募集開始前に文化財担当行政庁や専門家と協議し、実施可能な工事内容や概算費用を確認しておくことが重要です。

9 本件ケースにおける対応

 本件のように、本堂修繕、文化財保存、地域向け事業等のためにクラウドファンディングを利用すること自体は、宗教法人である寺院にとって有効な資金調達方法の一つです。従来の檀信徒だけでなく、地域住民や文化財保存に関心を持つ者等に寺院の活動を知ってもらう契機にもなります。
 もっとも、募集を始める前に、まず寄附型か購入型かを整理し、寺院規則及び宗派の関係規程を確認した上で、実施主体、目標金額、資金使途、プラットフォーム、返礼品等について規則に従った意思決定を行う必要があります。
 寄附型であれば不当寄附勧誘防止法を踏まえた募集方法や説明内容に注意し、購入型であれば特定商取引法、景品表示法、法人税・消費税等との関係を検討する必要があります。特に返礼品については、「返礼品があるから課税」、「御朱印だから非課税」と単純に考えるのではなく、その実質を踏まえて判断することが重要です。
 募集後は、受領した資金を宗教法人の財産として適切に管理し、募集時に示した目的に従って使用するとともに、事業の進捗や資金の使用状況等について支援者へ適切に報告していくことが望まれます。
 クラウドファンディングは、適切に利用すれば寺院の活動や文化財保存の意義を社会に広く伝える有効な方法となります。他方、募集内容、返礼品、税務処理、実際の資金使途に齟齬が生じれば、法的問題だけでなく寺院の信用問題にも発展しますので、募集前の段階で法務・税務・会計の各側面から制度設計を行うことが重要です。

 寺院におけるクラウドファンディングの導入、寺院規則との整合性、返礼品の設定、募集ページのリーガルチェック、寄附・収益事業の区分その他宗教法人の資金調達に関する法律問題については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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