寺院に対するインターネット・SNS上の誹謗中傷への対応

Q インターネットの口コミサイトやSNS上に、当寺や住職について「寄附金を横領している」、「檀家をだましている」など事実と異なる投稿が繰り返されています。匿名アカウントから投稿されており、投稿者が誰なのか分かりません。寺院として投稿の削除や投稿者の特定を求めることはできるのでしょうか。また、法的対応を行う場合にはどのような点に注意すべきでしょうか。

寺院に対するインターネット・SNS上の誹謗中傷への対応

1 寺院とインターネット上の誹謗中傷

 昨今のSNS、口コミサイト、動画投稿サイト等の普及により、寺院や住職に対する批判や悪評が短期間で広く拡散されるようになりました。寺院名を検索した際に問題となる投稿や口コミが表示され続けてしまえば、檀信徒との信頼関係だけでなく、新たな参拝者、葬儀・法要の依頼、墓地・納骨堂の利用等にも大きく影響する可能性があります。

 特に寺院の場合には、住職個人に対する批判と宗教法人である寺院そのものに対する批判が混在しやすいという特徴があります。「住職が横領している」という投稿と「○○寺は詐欺を行っている」という投稿では侵害される主体も異なるものです。

 もっとも、寺院にとって不愉快な投稿や低い評価であればすべて削除できるというわけではありません。表現の自由との関係がありますので、単なる批判や感想と、名誉権やプライバシー権などを違法に侵害する投稿とを明確に区別して検討する必要があります。

2 どのような投稿が名誉毀損等になるか

 名誉毀損とは、人の品性、徳行、名声、信用等について社会から受ける客観的な評価を低下させる行為をいいます。投稿が社会的評価を低下させるか否かは、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として判断されます。事実を摘示する投稿だけでなく、意見・論評の形式を取る投稿であっても、その内容によっては名誉毀損が成立することがあります。

 例えば、

「○○寺は檀徒から集めた寄附金を住職が着服している」

「墓地を返還するために離檀料500万円を請求された」

などの投稿が事実に反する場合には、寺院又は住職の社会的評価を低下させるものとして、名誉毀損が問題となる可能性があります。

 一方、

「住職の対応が冷たかった」

「ほかのお寺よりもお布施が高いと感じた」

「もう二度と参拝したくないと思った」

といった投稿は、個人の経験や評価を述べたものにすぎない場合があります。内容が寺院にとって不本意なものであったとしてもそれだけで当然に違法となるものではありません。

 また、具体的な事実を示さずに「最低の住職」、「詐欺寺」などの侮辱的な表現を繰り返す場合には侮辱による不法行為が、住職や寺族の顔写真や、住所、電話番号、家族情報等を無断で公開する場合にはプライバシー侵害が問題となることがあります。さらに、虚偽の情報を大量に拡散して寺院の業務を妨害するような場合には、信用毀損や業務妨害の問題に発展することもあります。刑法上も、名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪・業務妨害罪等について規定されています。

 もっとも、社会的評価を低下させる表現であれば直ちに違法な名誉毀損となるわけではありません。公共の利害に関する事実について公益を図る目的で投稿され、その内容が重要な部分について真実である場合等には、違法性が否定されることがあります。そのため、投稿内容だけでなく、その真実性、投稿目的等も含めて具体的に判断する必要があります。

3 まず行うべきことは証拠の保存

 問題となる投稿を発見した場合、寺院として最初に行うべきことは投稿者への反論ではなく、証拠の保存です。

 投稿者やプラットフォームへ削除を求めると、その後投稿自体が削除されたり、アカウントが消去されたりすることがあります。そうなると、後から投稿内容や投稿日時等を立証することが著しく困難になってしまいます。

 そのため、投稿本文だけでなく、投稿者のアカウント名、投稿日時、URL、前後の投稿、返信・引用の状況等が分かるようにスクリーンショットを保存しておくことが重要です。動画の場合には動画そのものも保存し、口コミについてもページ全体をPDF等で保存しておくことが考えられます。

 また、「寄附金を横領している」といった事実無根の投稿に対して法的対応を行うのであれば、投稿が虚偽であることを示す寺院の会計資料、議事録その他の関係資料についても早期に整理しておくことが有用です。

 

4 プラットフォームに投稿の削除を求める

 投稿が違法な権利侵害に該当すると考えられる場合には、まずSNS、口コミサイト、動画投稿サイト等が設けている通報・削除申出の制度を利用することが考えられます。

 この場合、「寺院にとって迷惑だから削除してほしい」と申し出るだけではなく、問題となる投稿を具体的に特定し、その投稿のどの記載によって、寺院又は住職のどの権利が、どのような理由で侵害されているのかを明確に説明することが重要です。

 もっとも、削除申出をすれば必ず削除されるわけではありません。投稿が単なる感想・批判にとどまる場合や、権利侵害が明確でない場合には、プラットフォーム管理者が削除してくれないこともあります。

 なお、法律上の権利侵害が明確とはいえない場合でも、投稿内容が各プラットフォームの利用規約やコミュニティガイドラインに違反していれば、それを理由として削除される場合があります。したがって、法的な削除理由とプラットフォーム独自の削除基準の双方を検討することが実務上有効です。

5 匿名の投稿者を特定する場合

 匿名アカウントからの投稿について損害賠償請求等を行うためには、まず投稿者を特定する必要があります。

 「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」、いわゆる情報流通プラットフォーム対処法の第5条は一定の要件の下で発信者情報の開示を請求する制度を定めており、同法第8条以下には裁判所による「発信者情報開示命令」の手続が設けられています。

 この手続等を利用することにより、SNS等の事業者や接続プロバイダが保有する情報をたどり、投稿者の氏名・住所等を特定できる場合があります。

 ただし、匿名投稿者であれば自由に特定できるという制度ではありません。発信者情報の開示を受けるためには、問題となる投稿によって自己の権利が侵害されたことが明らかであることや、損害賠償請求等のために発信者情報の開示を受ける正当な理由があることなどの要件を満たす必要があります。

 そのため、「誰が悪口を書いたのか知りたい」というだけでは足りず、投稿内容について名誉権、プライバシー権等の具体的な権利が侵害された事実を主張しなければなりません。

 また、投稿者特定には時間的制約があることから、投稿者への法的責任追及まで考える場合には、証拠保存と並行して早期に発信者情報開示手続を検討する必要があります。

6 投稿者を特定した後の対応

 投稿者が特定でき、名誉毀損その他の権利侵害が認められる場合には、民法第709条に基づく損害賠償請求を検討することになります。

 この場合、寺院に対する投稿なのか、住職個人に対する投稿なのかを区別することが重要です。宗教法人である寺院自身の社会的評価・信用が侵害されている場合と、住職個人の名誉・プライバシーが侵害されている場合とでは、権利を侵害された主体が異なるためです。

 また、投稿者に対しては損害賠償だけでなく、既存投稿の削除や、今後同様の投稿をしない旨の確約を求めることも考えられます。悪質な投稿が継続しており、任意の対応では被害を止めることができない場合には、具体的事情に応じて、上記発信者情報開示命令とは別に、仮処分等による投稿削除や差止めを併せて検討することになります。

 なお、名誉を毀損された場合には、民法第723条に基づき、金銭賠償だけでは回復できない社会的評価を回復するための原状回復措置が問題となる場合もあります。

7 刑事事件として対応すべき場合

 投稿内容や態様によっては、民事上の削除・損害賠償の問題にとどまらず、刑事事件として対応すべき場合があります。

 例えば、具体的な事実を公然と摘示して寺院や住職の名誉を害する場合には名誉毀損罪(刑法第230条)、侮辱的な投稿については侮辱罪(同第231条)、虚偽情報によって寺院の信用を害したり業務を妨害したりする場合には信用毀損罪・業務妨害罪(同第233条)等が問題となる可能性があります。

 さらに、「寺に火をつける」、「住職を殺す」など生命・身体や寺院施設に対する具体的な危害を告知する投稿がなされた場合には、単なるネット上の悪口として扱うべきではありません。脅迫罪(同第222条)等の犯罪が問題となる可能性がありますので、投稿の証拠を保存した上で速やかに警察へ相談すべきです。

 特に危険性の高い投稿については、「まず削除してから考える」という対応ではなく、寺院関係者の安全確保を優先する必要があります。

 なお、名誉毀損罪及び侮辱罪はいずれも親告罪であり、刑事責任を追及する場合には捜査機関に対する告訴が必要となります(刑法第232条)。

8 寺院側から反論する場合の注意

 誹謗中傷を受けた住職や寺務職員が、SNS上で直ちに相手方へ反論することは必ずしも得策ではありません。

 感情的な応酬が繰り返されることによって投稿がさらに拡散し、もともとの投稿を知らなかった者にまで問題が知られる、いわゆる「炎上」につながる場合があります。

 また、寺院側が投稿者の氏名、住所、家族関係等を公開したり、相手方をことさら侮辱する表現を用いたりすれば、逆に寺院側の法的責任が問題となる可能性もあります。

 事実と異なる情報が広く拡散し、寺院として説明する必要がある場合には、公式ホームページ等において、「現在、事実と異なる情報が掲載されており、必要な法的対応を行っています」など、必要最小限の客観的な説明にとどめることが基本となります。

 寺院内部でも、住職、寺務職員等がそれぞれ個別にSNS上で反論するのではなく、誰が公式な情報発信を行うのかを統一し、法的対応窓口と広報対応窓口を分けて進めることが必要となります。

9 本件ケースにおける対応

 本件の「寄附金を横領している」、「檀徒を騙している」といった投稿が事実と異なるのであれば、寺院又は住職の社会的評価を低下させる具体的な内容として、名誉毀損等に該当する可能性があります。

 まず、投稿のURL、投稿日時、アカウント名、投稿内容等を保存し、削除される前に証拠を確保します。それと併せて、投稿内容が虚偽であることを説明できる寺院内部の資料も整理しておく必要があります。

 その上で、早期に被害を止める必要があるのであれば、SNSや口コミサイト等の運営事業者に削除を申し出ます。任意の削除で解決できない場合には、法的な削除手続を検討することになります。

 さらに、匿名投稿者に対して損害賠償請求等まで行う必要がある場合には、通信記録が失われる前に発信者情報開示命令等による投稿者特定を進めます。投稿者が特定された後は、投稿内容や悪質性に応じて、削除、損害賠償、再投稿の防止等を求めることになります。

 他方で、単なる批判的な口コミや個人的な感想まで一律に法的措置の対象とすることは適切ではありません。寺院としては、問題となる投稿ごとに、① そもそも権利侵害に当たるか、② 削除を優先するのか、③ 投稿者まで特定する必要があるのか、④損害賠償や刑事対応まで行うべきかを整理し、被害の程度に応じて対応を選択することが重要です。

 寺院・住職に対するインターネット上の誹謗中傷、口コミの削除請求、発信者情報開示、損害賠償請求、刑事対応その他SNS上のトラブルに関する法律問題については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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