旧統一教会に対する解散命令と最高裁決定②

Q 世界平和統一家庭連合、いわゆる旧統一教会に対する解散命令が令和8年6月22日に最高裁で確定しましたが、この判断は今後、一般の寺院や宗教法人に対する行政の対応にも何らか影響するのでしょうか。  近年は不活動宗教法人や「宗教法人M&A」などと称する宗教法人格の売買についても文化庁が対策を強化していると聞いています。今回の最高裁決定とこれらの問題にはどのような関係があるのでしょうか。

1 解散命令確定後の宗務行政

 今回、旧統一教会に対する最高裁の解散命令が確定したことは、一つの宗教法人に関する個別事件にとどまるものではなく、今後の宗務行政全体に対して大きな影響を与えるものと考えるべきです。

 文化庁は、令和8年6月22日に最高裁が特別抗告を棄却したことを受け、同年7月2日に、各都道府県宗教法人事務担当課長に対して「宗務行政の適正な遂行について」と題する通知を発出しました。

 また、同日、各文部科学大臣所轄宗教法人の代表役員に対しても「宗教法人法に定める解散命令事由について」と題する周知通知を発出し、今回の最高裁決定の内容を宗教法人側にも周知しています。

 このことからも、今回の最高裁決定は単なる一事件の終結ではなく、今後の宗教法人行政における一つの重要な基準として位置付けられていることが分かります。

2 違法行為への対応

 今回の最高裁決定によって、民法上の不法行為であったとしても、その態様が重大であり、宗教法人の組織的関与の下で長期間継続し、多数の者に重大な損害を与えるような場合には、宗教法人法第81条第1項第1号の解散命令事由となり得ることが明確になりました。

 これは、今後の宗務行政においても、宗教法人による違法行為への対応の在り方に大きな影響を与えると考えられます。

 もっとも、行政庁が宗教上の教義の正否や信仰内容に介入できるわけではありません。宗教法人法は憲法第20条が保障する信教の自由及び宗教法人の自主性を尊重することを大前提としています。 

したがって、行政が問題とするのは宗教上の教義それ自体ではなく、宗教法人の世俗的な法律関係において、法令違反や法人運営上の問題が存在するかという点になります。その意味では、宗教法人においても、宗教活動であることを理由として一般の民事法その他の法令の適用を当然に免れるものではないという点を改めて強く意識しておく必要があります。

3 不活動宗教法人

 近年、文化庁が特に対策を強化しているもう一つの問題が「不活動宗教法人」の問題です。

 不活動宗教法人とは、宗教法人として法人格を有しているにもかかわらず、事実上宗教活動を停止し、法人格だけが残存している宗教法人をいいます。

 別途「不活動宗教法人の売買」の記事でも詳細に説明しておりますが、宗教活動を継続できなくなった宗教法人には、他の宗教法人との合併や任意解散という手段があります。

 しかし、何らの手続も採らずにそのまま放置すれば宗教法人格はそのまま残り続けます。

 文化庁は、このような不活動宗教法人を放置すると、第三者に法人格を不正に取得され、脱税、営利目的の行為その他の不正利用につながる危険があるとして、所轄庁に対してその把握及び整理を求めています。令和5年3月31日付け「宗務行政の適正な遂行について」でも、不活動宗教法人について、活動再開、合併、任意解散、解散命令請求等によって整理する必要があると指摘されています。

 この場合の解散命令は、旧統一教会事件のような重大な違法行為を理由とするものとは異なります。

 宗教法人法第81条第1項第2号は、1年以上にわたり宗教団体としての目的のための行為をしないことについても解散命令事由としています。

 つまり、「違法な宗教法人を解散させる制度」と「活動実態を失った宗教法人を整理する制度」の双方に、宗教法人法第81条が用いられるということです。

4 宗教法人格の売買

 不活動宗教法人と密接に関連する問題が、いわゆる「宗教法人の売買」です。

 近年、インターネット上では、「宗教法人M&A」、「宗教法人を買います」、「節税に利用できます」などとして、事実上宗教法人格の取得を仲介する事業者やブローカーも多く存在してきています。

 しかし、宗教法人には株式会社の株式のような「法人そのものの所有権」は存在せず、宗教法人自体を物として売買することはできません。

 実際に行われているのは、金銭その他の利益と引換えに代表役員その他法人運営に強い影響力を有する地位を取得させ、第三者が事実上法人を支配するという取引です。

 文化庁は令和5年10月18日の通知において、このような取引について、節税への活用等を掲げ、代表役員等の地位を財産上の利益と引換えに取得する取引であると整理し、宗教法人が脱税やマネー・ロンダリング等に悪用される危険性を指摘しています。

 さらに令和7年8月28日には日本弁護士連合会に対しても注意喚起を行い、元来の宗教活動を継続・承継する意思のない第三者が宗教法人格を取得することは宗教法人法の目的に合致しないとの考えを明確にしています。

5 不活動宗教法人と売買の接点

 宗教法人格の売買で特に狙われやすいのが、不活動宗教法人です。

 実際に宗教活動を行っておらず、住職や責任役員等も高齢化し、檀信徒との関係も希薄となっている宗教法人は、法人格だけを取得しようとする第三者から見れば利用しやすい恰好のターゲットとなり得ます。

 そのため文化庁は不活動宗教法人対策と宗教法人格の売買防止を一体の問題として捉えています。

 活動実態を失った宗教法人に対しては、そのまま放置するのではなく、活動再開が可能なのか、他の宗教法人との合併が適切なのか、任意解散をすべきなのかを早期に検討し、不正利用される余地を残さないことが求められています。文化庁も、法人として意思決定ができなくなる前に早めに所轄庁や包括宗教法人へ相談するよう求めています。

 後継者がいない寺院に「数千万円で宗教法人を買いたい」という話が持ち込まれたとしても、単なる事業承継やM&Aとして安易に処理してはなりません。相手方が従来の宗教活動を真に承継する意思を有するのか、それとも税制上のメリットや法人格そのものを取得することのみが目的なのかを慎重に確認したうえで判断する必要があります。

6 解散命令制度の二つの役割

 旧統一教会事件と不活動宗教法人の問題は一見すると全く異なる問題です。

 旧統一教会事件は、長期間にわたる多数の違法な献金勧誘等を理由として、宗教法人法第81条第1項第1号に基づく解散命令が問題となった事件です。

 他方、不活動宗教法人については、1年以上宗教団体としての目的のための行為をしていない場合など、同項第2号以下が問題となる場面です。

 しかし、両者に共通するのは、宗教法人法が、宗教団体に法人格を与え続けることが制度目的から見て適切ではなくなった場合に、その法人格を整理する仕組みとして解散命令制度を設けているという点です。

 最高裁も今回の決定において、第81条第1項第1号について、その事由がある場合には宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切であるため、司法手続によって宗教法人を強制的に解散し、法人格を失わせることを可能にする制度であると説明しています。

 この制度趣旨は、今後の宗教法人行政を理解する上で極めて重要な視点といえるでしょう。

7 解散後の清算

 宗教法人に解散命令が確定した場合、直ちに法人のすべてが消滅するわけではありません。

 別途の「寺社の解散」の記事でも詳細に説明しているとおり、宗教法人は解散後、清算目的の範囲内では法人格を有し、債権回収、債務の弁済、残余財産の処分等の清算手続を行い、清算結了によって最終的に法人格が消滅します。

 旧統一教会についても、清算人が選任され、現在、裁判所の監督の下で清算手続が進められています。この清算では、一般的な宗教法人の解散の場合とは異なり、多数の被害者に対する債務処理や法人財産の調査等が大きな問題となっています。

 宗教法人の解散命令は、「解散命令が出て終わり」という制度ではなく、その後の清算を通じて法人の法律関係を最終的に整理するまでが一連の手続であることを理解しておく必要があります。

8 一般の寺院への影響

 今回の最高裁決定を受けて、通常の寺院が「少しでも法令違反があれば解散命令を受けるのではないか」と過度に心配する必要はありません。

 最高裁が解散命令を認めたのは、極めて長期間にわたる多数の不法行為、多額の財産的・精神的被害、法人の組織的関与、違法行為防止措置の不十分さ、将来の再発可能性等を踏まえたものです。

 一方で、この判断によって、宗教法人であることを理由に一般の法令の適用から免れるものではなく、重大かつ組織的な違法行為が継続すれば、法人格そのものが問題となり得ることが改めて明確になったともいえます。

 活動を停止した宗教法人についても、「何もしなければそのまま放置しておけば良いだろう」という時代ではなくなっています。

 文化庁は、不活動宗教法人の整理、宗教法人格の売買に類似した取引の防止、宗教法人による法令違反への対応などを一体として強化しています。

 寺院としては、適切な宗教活動を行うことはもちろん、責任役員会の適正な運営、規則に従った法人運営、法定書類の作成・提出、財産管理、後継者問題への早期対応等を行い、宗教法人としての実体を適切に維持することが今後一層重要になっているといえるでしょう。

9 今後の宗教法人行政

 旧統一教会に対する最高裁決定によって、宗教法人法第81条の解散命令制度について新たな重要先例が加わりました。

 これまでのオウム真理教事件や明覚寺事件に加え、民事上の不法行為を中心として解散命令が認められた今回の事件は、今後の宗務行政や裁判実務に大きな影響を与えるものといえます。

 また、近年文化庁が強く進めている不活動宗教法人の整理や、宗教法人格の売買に類似した取引の防止に向けた取組みの強化も、宗教法人格を本来の宗教活動のために適切に利用するという宗教法人法の基本的な制度趣旨に立脚するものです。

 したがって、今回の最高裁決定は、特殊な宗教団体だけの問題として捉えるのではなく、宗教法人制度そのものがどのような場合に法人格を与え、どのような場合にそれを失わせる制度なのかを改めて考える契機となる重要な判断といえるでしょう。

 宗教法人の解散命令、不活動宗教法人の整理、宗教法人の合併・任意解散、宗教法人格の売買に類似した取引その他寺社運営に関する法律問題については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

                                  

03-3519-3880 メールでのご相談はこちら