Q 令和8年6月22日に最高裁判所が世界平和統一家庭連合、いわゆる旧統一教会に対する解散命令について、教団側の特別抗告を棄却する決定をしたとの報道がありました。 宗教法人に対する解散命令はこれまで極めて例が少ないと聞いていますが、今回の最高裁決定にはどのような意味があるのでしょうか。これは一般の寺院にとっても関係する判断なのでしょうか。

1 旧統一教会に対する解散命令
令和8年6月22日、最高裁判所第三小法廷は、世界平和統一家庭連合に対して解散を命じた東京地方裁判所の決定を維持した東京高等裁判所の決定について、教団側の特別抗告を棄却しました。これにより、旧統一教会に対する解散命令が確定しました。
宗教法人法第81条第1項第1号は、宗教法人が「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」をした場合に、裁判所が解散を命ずることができると定めています。
この規定に基づき裁判所による解散命令が実際になされたケースとしては、これまで「オウム真理教事件」と「明覚寺事件」のわずか2件のみでした。今回、旧統一教会についても裁判所による解散命令が確定したことにより、宗教法人法第81条第1項第1号に基づき、重大な法令違反等を理由として解散命令が確定した事案としては、旧統一教会は、オウム真理教、明覚寺に続く3番目のケースとなりました。
しかも、今回の旧統一教会のケースは過去2件とは異なる重要な特徴を有しています。
2 刑事事件によらない解散命令
オウム真理教事件では地下鉄サリン事件等の重大犯罪が、明覚寺事件では組織的な霊視商法による詐欺事件が問題となりました。
そのため、従来、宗教法人法第81条第1項第1号の「法令に違反」という文言については、刑事法令に違反するような重大な犯罪行為を念頭に置いた制度であるとの解釈もあり得るところでした。
これに対し、旧統一教会事件では、中心となったのは献金勧誘等に関する多数の民事上の不法行為でした。そこで大きな争点となったのが、民法第709条に定める不法行為も、宗教法人法第81条第1項第1号の「法令に違反」に含まれるのかどうかという問題です。
この点について、最高裁は、令和7年3月3日の決定において、民法第709条の不法行為を構成する行為も同号の「法令に違反」する行為に当たるとの判断を明確に示しました。そして今回の令和8年6月22日決定においても、最高裁はこの判断を改めて前提とする形を取っています。
これは宗教法人法の実務において非常に重要な意味を持ちます。
すなわち、宗教法人に対する解散命令は、必ずしも宗教法人又はその構成員について「刑事事件」が発生し有罪判決が確定した場合に限られるものではなく、組織的・継続的な「民事上の不法行為」であっても、その内容や規模等によっては解散命令事由となり得ることが最高裁によって明確にされたからです。
3 組織的な関与
もっとも、一人の信者や一人の僧侶が不法行為を行ったからといって、その宗教法人について直ちに解散命令が問題となるわけではありません。
今回の最高裁決定で重要なのは違法行為と宗教法人の組織との関係です。
最高裁は、旧統一教会の信者らが昭和48年から令和4年までの長期間にわたり、不法行為に該当する献金勧誘行為を継続し、多数の者に極めて多額の財産的又は精神的損害を与えてきたことを指摘しています。
さらに、これらの行為について、教団の方針を踏まえ、社会通念上相当な範囲を逸脱しない方法では達成できないような数値目標を設定して献金勧誘を求めるなど、法人による組織的な関与の下に行われていたと認定しています。
したがって、今回の決定は、個々の信者の違法行為を単純に宗教法人へ帰責したものではなく、長期間にわたる多数の違法行為、その被害の重大性、法人による組織的関与、違法行為を防止する実効的な措置が採られていなかったことなどを総合的に考慮して、宗教法人自体について「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」と評価したものと考える必要があります。
4 解散命令の必要性
宗教法人法第81条第1項第1号の要件に該当する事情が形式的に認められたとしても、実際に宗教法人に対して解散命令を行うということは極めて重大な措置です。
宗教法人は礼拝施設その他の財産を所有し、信者の宗教活動の基盤となっています。その法人格を強制的に失わせることは、憲法第20条で保障された信教の自由に事実上大きな影響を及ぼす可能性があります。
そのため最高裁は、今回の決定においても、解散命令について、信教の自由の重要性を踏まえ、その規制が憲法上許容されるかを慎重に吟味しなければならないとの従前の最高裁判例の考え方を改めて確認しています。
その上で最高裁は、旧統一教会について、不相当な献金勧誘行為を防止する実効性のある措置が採られておらず、今後も同様の行為が行われるおそれがあり、その場合には信者らによる不相当な献金勧誘行為が行われる可能性が高いことなどを踏まえ、法人格を失わせることが必要かつ適切であり、不当寄附勧誘防止法に基づく措置を含めても、他に実効性のある手段があるとはいえないと判断しました。
つまり、単に過去に違法行為があったというだけではなく、解散命令という極めて重大な措置を採る必要性まで具体的に検討されたことが重要です。
5 信教の自由との関係
宗教法人の解散命令の場合において、誤解されやすいのが「解散命令が出れば、その宗教を信仰したり、宗教活動を行ったりすること自体が禁止されてしまうのか」という点です。
この点について最高裁は、解散命令は宗教法人の法人格を失わせる効力を有するにとどまり、信者の宗教上の行為を禁止したり、制限したりする法的効果を伴わないと明確に述べています。
つまり、解散命令によって宗教法人格を失った後といえども、法人格を持たない宗教団体として活動すること自体は妨げられないことになります。この意味において、宗教法人の解散は法人格という法律上の側面のみに影響するものであって、個人がその宗教を信仰すること自体には影響しないと言えます。
もっとも、法人が解散すれば清算手続が開始され、法人所有の礼拝施設その他の財産が処分されることになります。そのため、宗教活動そのものは禁止されなかったとしても、従前と同じ施設や財産を利用して活動を継続することが難しくなるなど、事実上の影響が生じることは避けられません。
最高裁は、このような影響も踏まえた上で、なお今回の解散命令は必要でやむを得ないと判断したのです。
6 3例目の解散命令
旧統一教会事件の最大の意義の一つは、宗教法人法第81条第1項第1号による解散命令について、オウム真理教事件、明覚寺事件に続く新たな先例が加わったことです。
しかも、今回の事件は、重大な刑事犯罪そのものではなく、長期間かつ組織的に行われた民事上の不法行為を中心として解散命令が認められた点で、従前の2件とは性質が異なります。
その意味で今回の最高裁決定は、解散命令制度の適用範囲を具体化するうえで極めて重要な判断と言うことができます。
もっとも、このことは、通常の寺院において一件の民事紛争や檀信徒とのトラブルが発生しただけで解散命令につながるという意味ではありません。
今回問題となったのは、数十年という極めて長期間にわたり、多数の者に重大な被害を与える違法な献金勧誘等が組織的に行われ、その是正も十分になされなかったという極めて重大な事案です。
解散命令制度については、その重大性を踏まえ、今回の最高裁決定が示した具体的な背景事情等を正確に理解しておくことが必要です。
7 本件最高裁決定の意義
今回の最高裁決定により、宗教法人法第81条第1項第1号について、少なくとも次の点が明確になったと考えられます。
第1に、同号の「法令に違反」には、刑事法令違反だけではなく、民法第709条の不法行為を構成する行為も含まれるということです。
第2に、構成員による違法行為について法人に組織的関与が認められ、長期間にわたって、多数かつ重大な被害を生じさせている場合には、法人自体の解散命令事由となり得るということです。
第3に、解散命令は信仰や宗教活動そのものを禁止する制度ではないが、信教の自由に重大な事実上の影響を生じ得るため、その必要性について慎重な判断を要するということです。
そして第4に、他の代替手段では違法行為を防止することが困難である場合には、法人格を失わせる解散命令が必要かつやむを得ない措置として許容され得るということです。
文化庁も令和8年7月2日、今回の最高裁決定を踏まえ、「宗教法人法に定める解散命令事由について」と題する通知を改めて発出し、全国の宗教法人の代表役員等に対してその内容を周知しています。
したがって、今回の判断は旧統一教会だけの特殊な事件として終わるものではなく、今後の宗教法人法第81条の解釈及び宗務行政における重要な基準となるものと考えられます。
なお、今回の最高裁決定を踏まえ、今後、一般の寺院に対する行政対応にどのように影響するかについては、別途「旧統一教会に対する解散命令と最高裁決定②」の記事で詳しく解説していますので、併せてご参照ください。
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