Q 当寺では、参詣客のために境内地の一部を駐車場として使用していますが、最近、参詣客以外の部外者による無断駐車が横行し、参詣客が駐車できないことがあります。無断駐車をしている車両を寺院側で移動させてもよいのでしょうか。また、無断駐車をした者に対して損害賠償を請求することはできるのでしょうか。

1 無断駐車
寺院では、法要、墓参りその他の目的で来寺する檀信徒や参詣客のため、境内地の一部を駐車場として利用していることがあります。このような駐車場に、寺院とは無関係の者が長時間駐車したり、近隣施設を利用するために駐車したりするなど、無断駐車が問題となることがあります。
寺院が所有・管理する土地について、寺院が駐車を認めていない第三者が無断で駐車することは、寺院による土地の使用を妨げる行為であり、民法第709条の不法行為が成立する可能性があります。
したがって、寺院は無断駐車をした者に対し、その無断駐車によって実際に生じた損害について賠償を請求することができます。
もっとも、実際の無断駐車への対応においては、単に「無断駐車だから違法である」というだけでは解決できない難しい問題があります。
2 損害賠償の請求
無断駐車によって寺院に損害が発生した場合には、無断駐車をした者に対して損害賠償を請求することが考えられます。
もっとも、寺院が無料で参詣客用駐車場を提供している場合、無断駐車されたことによって寺院に具体的にいくらの損害が生じたのかを立証することは必ずしも容易ではありません。
そのため、具体的な損害額を検討するに当たっては、無断駐車された時間、駐車場の場所や利用状況、周辺の時間貸し駐車場の料金等が一つの参考となります。
また、無断駐車によって法要に参列する檀信徒のために別の駐車場を確保する必要が生じ、寺院がその費用を負担した場合など、現実に具体的な費用が発生したのであれば、その費用についても無断駐車との因果関係を踏まえて損害として請求できるかを検討することになります。
もっとも、無断駐車に腹を立てて、実際の損害とは無関係に極端に高額な金銭を当然に請求できるわけではありません。
3 実力行使による「自力救済」はしないこと
無断駐車への対応で最も注意しなければならないのが、実力行使で無断駐車状態を解消しようとする「自力救済」の問題です。
例えば、「寺院の土地なのだから、無断駐車された自動車をレッカー車で勝手に移動してもよいのではないか」、「タイヤロックを取り付けて、駐車した者が寺院に申し出るまで自動車を動かせなくしてもよいのではないか」と考えることがあります。
しかし、わが国では、権利を侵害された者が裁判等の法的手続によらず、自ら実力を行使して権利を回復する、いわゆる「自力救済」は原則として認められていません。
最高裁判所昭和40年12月7日判決も、自力救済について、法律上の手続によったのでは権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であるような緊急かつやむを得ない特別の事情がある場合に、必要な限度を超えない範囲で例外的に許されるにすぎないとの考え方を示しています。
したがって、通常の無断駐車について、寺院側が直ちに車両をレッカー移動したり、タイヤロックを取り付けたり、別の車両で囲んで出庫できなくしたりすることは避けるべきです。
無断駐車をした側に問題があったとしても、寺院側が車両を損傷させたり、長時間使用できない状態にしたりすれば、逆に車両所有者側から損害賠償を請求されてしまうなど新たな紛争を生じさせる危険性があります。
4 無断駐車を発見した場合
それでは、実際に無断駐車を発見した場合、寺院はどのように対応すればよいのでしょうか。
まず、車両のナンバー、車種、色、駐車場所等が分かるように写真を撮影するとともに、無断駐車を発見した日時、駐車時間等を記録しておくことが重要です。無断駐車が繰り返されている場合には、いつ、どの程度の頻度で無断駐車が行われているのかも記録しておくとよいでしょう。
次に、車両に対し、当該駐車場が寺院の参詣客専用であり、無断駐車は禁止されていること、速やかに移動を求めること等を記載した警告書を掲示することが考えられます。
この場合も、車両を傷つけるような方法で警告書を貼り付けることは避け、ワイパーに挟むなど、車両を損傷させない方法を用いるべきでしょう。
また、必要に応じて警察に相談することも考えられます。ただし、私有地内の無断駐車は原則として民事上の問題であり、公道上の駐車違反のように警察が当然に車両を撤去してくれるわけではありません。もっとも、車両の状況等によっては、警察から所有者等に連絡して移動を促すなどの対応がなされることも考えられます。
5 所有者の特定
無断駐車が長期間継続している場合や、同じ車両による無断駐車が繰り返されている場合には、車両の所有者等を特定した上で、正式に駐車の中止や車両の撤去を求める必要が生じることがあります。
もっとも、一般の方が自動車のナンバーを見ただけで自由に所有者の氏名や住所を取得できるわけではありません。所有者等を特定する必要がある場合には、車両の登録情報を取得するための要件を確認した上で必要な手続を採ることになります。また、弁護士に依頼している場合には、具体的な事案に応じ、弁護士法第23条の2に基づく照会等によって必要な情報を取得できる場合もあります。
所有者等が判明した場合には、内容証明郵便等により、無断駐車を中止すること、今後無断駐車を行わないこと、必要に応じて損害を賠償することなどを正式に求めることが考えられます。
6 常習的な無断駐車
一度だけの無断駐車の場合と、警告しても繰り返される常習的な無断駐車の場合とでは、寺院としての対応も異なります。
特定の者が繰り返し無断駐車を行っている場合には、口頭で注意するだけではなく、今後無断駐車を行わない旨を書面で確認させることも考えられます。
また、無断駐車が継続して寺院の土地使用を妨害している場合には、車両の撤去や妨害の排除・予防を求める法的手続を検討する必要が生じることもあります。
特に、長期間放置され、所有者とも連絡が取れない車両については、通常の短時間の無断駐車とは問題状況が異なります。このような場合には、寺院側の判断だけで廃棄・処分するのではなく、車両所有者の調査や法的手続を含め、個別に対応を検討すべきです。
7 無断駐車の予防
無断駐車については、発生後の対応だけでなく、あらかじめ無断駐車をしにくい環境を作ることも重要です。
例えば、駐車場の入口や見やすい場所に「参詣者専用駐車場」「関係者以外駐車禁止」などの看板を設置し、第三者が自由に利用できる駐車場ではないことを明確にしておくことが考えられます。
また、防犯カメラを設置している場合には、その旨を表示することも無断駐車の抑止につながります。無断駐車が特定の時間帯に集中するのであれば、カラーコーン等を利用して必要のない時間帯には駐車区画への進入を制限することも考えられます。
なお、「無断駐車は罰金○万円」などの表示については、それだけで表示された金額を当然に請求できると考えるべきではありません。実際にどの程度の金銭請求が認められるかは、具体的な損害、表示内容、駐車の態様その他の事情を踏まえて判断されることになります。
そのため、看板についても、高額な「罰金」を掲げることより、「参詣者専用」「無断駐車禁止」「無断駐車を確認した場合には所有者を調査の上、損害賠償を請求する場合があります」など、寺院の意思と対応方針を明確に表示する方が実務上は適切でしょう。
8 本件ケースにおける対応
本件では、まず無断駐車されている車両について、ナンバー、車種、駐車日時、駐車場所等を写真その他の方法で記録しておくべきです。
その上で、車両を損傷させない方法で警告書を掲示し、速やかな移動を求めるとともに、必要に応じて警察にも相談することが考えられます。
無断駐車をしている者が判明した場合には、今後駐車しないよう明確に警告し、常習的な者については書面による確認を求めることも有効です。
一方、寺院側が腹立ちまぎれに車両を勝手にレッカー移動したり、タイヤロックを取り付けたり、車両の前後を塞いで出庫できなくしたりすることは、自力救済として寺院側の責任が問題となる可能性があるため避けるべきです。
無断駐車は、一件一件の損害額は必ずしも大きくないものの、寺院にとっては本来利用すべき檀信徒や参詣客が駐車できなくなるという日常的かつ深刻な問題です。無断駐車禁止の表示、証拠の記録、警告、常習者への書面対応等を組み合わせ、寺院側が逆に法的責任を負わない方法で対応することが重要です。
無断駐車トラブルの具体的な解決については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。





