Q 自分の寺社で雇入れている者について、今回やむを得ず破門の措置を取ることにしました。労働契約の解雇と破門に違いはありますか。
A 寺社で雇入れている者を破門する場合、労働契約の終了を含むことになるのが通常です。宗教上の措置としてだけではなく、解雇として労働契約法や労働基準法の観点からも規制を受けることになるため、留意が必要です。
1.破門と解雇の関係性
破門とは、一般には師弟の義を絶って門人中から除斥すること、あるいは信徒の資格を奪い宗門から除斥することを指し、寺社における宗教上の処分の一つを指します。このような場合に、寺社で雇入れている人物について、労働者性が肯定される場合、破門は、労働契約の終了を伴う点で、寺院側からの解雇を含むものと解されます。したがって、労働基準法の定める解雇予告などの手続的規制を遵守する必要がある上(労働基準法19条、20条等)、労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めがあるため、合理性及び相当性が認められなければ、解雇は無効になってしまいます(解雇権濫用法理)。
2.破門に関する裁判例
平成22年3月29日東京地方裁判所判決の裁判例は、被告である宗教法人が僧侶である原告ら16名を破門したところ、これについて、破門が解雇に相当し、原告らが雇用契約上の地位を有することの確認と賃金(賞与含む)等の支払いを求めて提訴したという事案です。本裁判例の争点は多数ありますが、本項では、特に解雇に関する点を概観したいと思います。
裁判所は、「原告らは僧侶であるが、被告との間の法律的な関係という観点から検討すると、雇用契約を締結しているのであって、被用者である原告らは代表者の業務命令に従うべき立場にあるといえます。破門され、法律上の関係を解消するという通知を受けているのであるから、原告らと被告との間の契約を解消するという点で解雇としての性質を有する本件破門…」と判示しており、破門の性質について、労働契約の解消という効果を伴う点で解雇規制に服することを指摘しています。
もっとも、本裁判例では、「原告らは、…被告代表者からの教務会出席通知に応じず、原告Aは、住職選定委員会等の適式な手続を踏まずに住職に就任したとして就任式を行い、さらに原告らは、被告代表者から原告Aを住職として認める等の活動をしないようにとの禁止事項等を通知され、これに従わなければ破門や解任又は解雇するとの警告を受けたのに、…これに従う姿勢を見せず、結果的に…1か月以上の期間を置いて破門され、法律上の関係を解消するとの通知を受けている」点などの業務命令違反を理由に、解雇処分についても有効である旨を判示しています。
3.小括
上記のとおり、破門がいかに宗教上の措置といえども、労働契約の終了を伴う場合であれば、労働法規の規制を受けることになります。
紛争のリスクを避けるためには、破門事由を明確に定めておくべきことの他、当該破門事由が合理的かどうかや、破門事由に該当している当該労働者について解雇することが相当かなど、事案に応じた判断が必要となります。
いずれにせよ慎重な検討が必要になる場面ですので、事前に弁護士などの専門家に相談されることをおすすめいたします。