お寺における労働条件の変更

Q 労働契約の期間中に労働条件(賃金や職務内容)を変更する必要が出てきました。こういった場合に、使用者の判断で一方的に変更していいのでしょうか。必要な手順を教えてください。

A 一度有効に成立した労働契約について、これを変更する場合、原則は当事者間の合意の上で変更を行う必要があるため、一方的な変更は許されません。もっとも、就業規則を制定しているような場合には、一定の要件を満たせば有効に変更することが可能な場合があります。

1.契約の成立

 契約とは、労働契約に限らず、一方当事者が契約を申し込み、他方当事者がこれを承諾することにより成立します。契約を変更する場合も、従前存在している契約を修正して、新しい契約を締結するのと同義になりますので、双方当事者が合意により行う必要があるのです。

 したがって、労働者と使用者との間で一度有効に成立した労働契約について、使用者又は労働者の一方的な都合で変更することは許されないのが原則論といえます。

 特に、労働契約を使用者の都合で一方的に変更した場合、労働者の有利に変更する場合はともかくとして、労働者の不利に変更するような場合には、紛争のリスクが懸念されます。そのため、後述の場合であっても労働契約の不利益変更は、慎重な対応が求められます。

 

2.労働契約の変更

 既に述べたとおり、契約の変更は、当事者間で合意の上で行うのが原則です。しかし他方で、通常の一対一の契約とは異なり、労働契約は、使用者と労働者との間で締結されるものであり、複数の労働者を抱えるような場合に、使用者が逐一全員の合意をとった上で契約を変更するのは、労務管理の上では煩雑で不便です。

 そのため、労働契約法では、既に成立している労働契約に関し、合意による変更(労働契約法8条)の他、就業規則の内容が合理性を有し、労働者に実質的に周知されているという一定の要件を満たす場合には、労働者の合意によることなく、就業規則を変更することにより、就業規則の適用を受ける労働者について、労働条件を(不利益)変更することが出来ると定めています(労働契約法9条、10条)。この他労働組合が存在する場合は、労働協約(労働組合法14条、16条)による変更も考えられますが、本項では割愛します。

 それでは、就業規則により労働条件を変更する場合には、どのような点に留意する必要があるでしょうか。労働契約法10条では、合理性の判断要素として、①「労働者の受ける不利益の程度」、②「労働条件の変更の必要性」、③「変更後の就業規則の内容の相当性」、④「労働組合等との交渉状況」、⑤「その他の就業規則の変更にかかる事情」を掲げています。これらの要素は、総合考慮になりますので、①~⑤の全てを十分に満たさなければ一切変更を認めないという趣旨ではありません。

 その上で、上記の就業規則が労働者に実質的に周知されている場合については、就業規則による労働条件の変更が認められます。

 なお、労働契約法10条は、あくまで既存の就業規則を変更する場合の条文ですが、新しく就業規則を新設して労働条件を変更しようとする場合も、同様の考慮を要するといえます。

 ただし、既に労働者と使用者との間で、就業規則等をもって変更されない労働条件を合意していた場合には、上記の規定は適用されません(労働契約法10条但書)。このような場合で問題となるものに、職務内容や職種を限定している合意をしていた場合などが挙げられます。

 

3.小括

 上記のとおり、労働条件の変更は、特に労働者の不利益に変更しようとする場合、紛争に発展するリスクも高く、労働契約法の規定に沿った慎重な対応が求められます。

 

 労働契約の変更について、弊所は当該変更規定のリスク分析も含め、対応について適切なアドバイスを行うことが可能ですので、契約の変更を実施する前にせひ一度ご相談下さい。

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