お寺におけるハラスメント対応

Q 職場におけるハラスメント対応について、留意すべき点があれば教えてください。

A 使用者は、職場におけるハラスメントを防止するための雇用管理上の措置を講じることが求められます。これを怠った場合には、職場環境整備義務違反等を理由に不法行為責任を追及されるおそれがあるため、注意が必要です。昨今、様々な類型のハラスメントが見受けられますが、ここでは主なものを概観していくこととします。

1.セクシュアルハラスメント(セクハラ)

 セクシュアルハラスメントは、いわゆる「セクハラ」と呼称されるハラスメントの一類型です。私法上厳密に定義された概念ではありませんが、一般的に「相手方の意に反する性的な言動」などを指すものです。ここで留意すべきは、「意に反する」ものであれば、明示的に拒否がなくてもセクハラに該当するということです。相手が拒否しないことを理由にセクハラにならないという言い分は通用しません。また、単に「相手方」となっているため、異性間のみならず、同性間でもセクハラは成立します。

 職場のセクハラには、大きく「環境型」と「対価型」の二種類に分けることができます。環境型のセクハラとは、労働者の意に反する性的な言動により、労働者の就業環境を悪化させているような場合を指し、対価型とは、労働者の意に反する性的な言動について、労働者が拒否や抵抗を示すような場合について、解雇や降格等の不利益措置をとるようなものを指します。

 このようなセクハラについて、事業主は、「労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」をとることが求められています(雇用機会均等法11条1項)。

 

2.パワーハラスメント(パワハラ)

 パワーハラスメントは、いわゆる「パワハラ」と呼称されるハラスメントの一類型です。セクハラと同様、私法上厳密に定義された概念ではありませんが、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(「労働施策総合推進法」)30条の2第1項では、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」で「就業環境が害される」ものを指すとしています。もっとも、ここでは、業務の適正な範囲を超えて行われるものをパワハラに該当するものとしていることから、単に業務上必要な指導や注意をしたことを不満に感じたとしても、それが直ちにパワハラとなるわけではありません。

 パワハラは、一般的に上司から部下に対するものを想起しやすいですが、職場での優越的な関係性をもって行うものであれば、部下から上司に対するものや同僚間であってもパワハラに該当します。

 パワハラについても先に挙げた労働施策総合推進法30条の2第1項で、事業主は、「労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と措置義務を課されています(中小企業については、2022年3月31日までは努力義務。)。

 

3.マタニティハラスメント(マタハラ)

 マタニティハラスメントとは、いわゆる「マタハラ」と呼称されるハラスメントの一類型です。これもまた、私法上定義された概念ではありませんが、雇用機会均等法9条3項では、「女性労働者が妊娠、出産したこと、その他の妊娠又は出産に関する事由…を理由として当該女性労働者に対して…不利益な取り扱いをすること」を指すとしています。また、育児休業等の申し出についても、育児介護休業法において不利益取扱いの禁止が定められています。

 上記に関する事項について、事業主は、雇用機会均等法11条の3第1項及び育児介護休業法25条1項において、当該労働者の相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、その他雇用管理上必要な措置を取るべきことが定められています。

 

4.小括

 職場におけるハラスメントは、昨今多くの類型が存在し、上記の他にも、SOGIハラ(性的指向や性的自認に起因するハラスメント)など新たなハラスメント問題なども起こっています。職場の環境整備においては、事業主に環境整備の義務が課せられている以上、常に知識をアップデートし、必要な対策を講じていくことが不可欠です。また、ハラスメントが発生した場合に関する相談、調査対応などを誤ると、かかる点を理由に責任を追及されるリスクが生じることから、早期に慎重な対応が必要となります。

 ハラスメント対応については、厚生労働省がホームページ等で具体的な措置に関する各指針を公表していることから、これらを参考にするとともに、弁護士など専門家の助言も得ながら事業規模に応じた施策を講じていくことが重要です。

 

 弊所では、このようなハラスメント対応についても適切なアドバイスが可能ですので、お気軽にご相談下さい。

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