Q お寺同士がひとつになる「合併」という手続があるとのことですが、これは一体どのような場合に使うものなのでしょうか。合併を行ううえで必要な手続についても教えてください。
目次
1「合併」とは
宗教法人における合併とは、2つ以上の宗教法人が1つの宗教法人となることをいいます(宗教法人法第32条)。
複数のお寺が合併して1つのお寺になる場合としては、例えば、過疎化した地方で檀信徒の数が減ってしまいバラバラのお寺では運営を維持することができない場合や、後継者がおらず複数のお寺の住職を一人で兼務している場合などの寺院運営上の理由によるケースのほか、教義上の都合から複数のお寺を1つにまとめるケースなどがあります。
このようなケースにおいて、それぞれの宗教法人をいちいち解散させたうえ改めて新しい宗教法人を設立するよりも合併させた方が余計な手間や時間、コスト等をカットできるという面で大きなメリットがあります。
一口に合併といっても、その方法としては大きく「吸収合併」と「新設合併」の2つがあります。「吸収合併」とは、合併するお寺の一方が存続し、他方これに吸収される方法をいいます。これに対し「新設合併」とは、合併を行う2つ以上のお寺がいずれも消滅して新たに別の宗教法人(お寺)を新設するという方法をいいます。
吸収合併であれ、新設合併であれ、合併が成立すると、合併によって消滅したお寺がそれまで有していた権利や義務(土地の所有権や賃借権、貸付金や借入金、墓地経営・幼稚園経営などの許認可等)などはすべて合併後存続するお寺に引き継がれることになり、このことを「包括承継」といいます(同第42条)。
お寺の合併は「登記」をすることによってその効力が発生することになります(同第41条)。
2合併の手続
吸収合併にせよ、新設合併にせよ、お寺の合併のためには概ね以下のような手続が必要となります。
(1) 規則で定める合併手続の実施
合併しようとするお寺は、まず寺院規則の定めに従って合併手続を進めていく必要があります。規則に特段の定めをしていない場合においては責任役員会が責任役員の定数の過半数の議決によって決定することになります。
合併はお寺の一般的な業務に比べて非常に重要な事項ですから、通常は規則にて議決権の要件を加重していたり、総代会の同意や包括宗教団体の承認が求められていることがほとんどでしょう。
責任役員会で合併の議決をするにあたっては合併契約書の存在が必要となります。合併契約書に盛り込むべき内容としては以下のような要素があります。
① 合併の種類(吸収合併または新設合併)と効力
② 合併後存続する宗教法人または新設される宗教法人の名称、目的、事務所及び役員の員数・任免等並びに被包括関係、基本財産、祭神・本尊等、宝物等の取扱い
③ 合併により解散する宗教法人の役員、教師、信者、祭神・本尊等、宝物等の取扱い
④ 合併する宗教法人の財産処分等の取扱い
⑤ 契約の解除に関すること
⑥ 契約の効力発生日
⑦ その他契約条項にない事項の取扱い
(2) 合併しようとする旨の公告
合併しようとする宗教法人は、檀信徒その他の利害関係人に対して、合併契約の案の要旨を示してその旨の公告をする必要があります(同法第34条1項)。
これはお寺が合併して消滅するなどということは檀信徒らにとって極めて重大な問題ですので、あらかじめ合併の事実を知らしめることによって檀信徒らに異議申し立ての機会を与える必要があることによります。
(3) 財産目録及び貸借対照表の作成
合併しようとする宗教法人は、上述(2)により檀信徒その他の利害関係人に対して合併契約の要旨を示してその旨の公告をした日から2週間以内に財産目録を作成する必要があります。宗教法人が公益事業または公益事業以外の事業を行っている場合においては、その事業にかかる貸借対照表も作成する必要があります(同法第34条2項)。
(4) 債権者に対する公告と催告
合併しようとする宗教法人は、上述(2)により檀信徒その他の利害関係人に対して公告をした日から2週間以内に、債権者に対して当該合併に異議がある場合にはその公告の日から2カ月以内にこれを申し述べる旨の公告をする必要があります。また宗教法人が把握している範囲の債権者に対しては、上記公告とは別途に、個別にその旨の催告をしなければなりません(同法第34条3項)。
これは上述のとおり、宗教法人の合併は包括承継により存続する宗教法人にすべて引き継がれることになるため、従前の債権者を保護すべく異議申立ての機会を与える必要があることによります。
(5) 合併により被包括関係の設定または廃止をする場合の手続の実施
合併後存続する宗教法人または新設される宗教法人が、合併に伴って被包括関係の設定または廃止をしようとするときは、寺院規則の変更手続が必要となります(同第12条4号)。この場合においては、規則変更となりますので所轄庁の認証手続も必要となります(同第27条、第28条)。
合併によって被包括関係の設定または廃止をするための規則変更手続は、所轄庁に認証申請する少なくとも2カ月前までに、檀信徒その他利害関係人に対して、被包括関係の設定または廃止をする旨の公告をする必要があります(同第36条)。
なお、被包括関係の設定または廃止に関する公告は、上記(2)の合併の公告と併せて行うことができます(同第37条)。
(6) 合併の認証
上記(1)~(5)のすべての手続が完了した後において、これらの手続が完了した旨の書類を添付して所轄庁に合併の認証を申請します(同第38条1項)。
合併の認証申請に当たっては合併しようとするすべての宗教法人の連名で行います。各宗教法人の所轄庁がそれぞれ異なっている場合には、合併後存続しようとする宗教法人または合併によって新たに設立しようとする宗教法人の所轄庁に申請を出します(同第38条2項)。
その後、所轄庁は認証の申請につき添付書類などの形式的な審査のほか、合併の手続が宗教法人法や寺院規則に従ってなされているかなど所定の要件にしたがって審査を行い、認証または不認証について決定します(同第39条1項)。
これにより所轄庁が認証の決定をした場合、申請した宗教法人に認証書が交付されることになります。
(7) 登記手続
上記(6)の認証書の交付を受けた後、吸収合併においては存続する宗教法人の変更登記を行い、新設合併においては新たに設立する宗教法人につき設立の登記を行うことになります。また、合併により消滅する宗教法人については解散の登記が必要となります。
これらの登記は、認証書の交付を受けた日から起算して主たる事務所においては2週間以内に、従たる事務所においては3週間以内に行わなければなりません。
これら登記が完了した後に、登記事項証明書を添えてその旨を所轄庁に届け出ることになります。
3本件ケースにおける対応
宗教法人であるお寺が吸収合併または新設合併する場合においては上記のような様々な手続を定められた期限内に適切に履行する必要があります。寺院規則のチェックや合併契約の交渉については弁護士が、財産目録・貸借対照表の作成においては税理士が、登記手続には司法書士が必要となります。これらの手続でミスがあった場合には最悪の場合適法な合併手続と認められない危険性がありますので、宗教法人の合併をお考えの場合は早めに弁護士等専門家にご相談されることを強くお勧めいたします。
お寺の合併手続にかかる具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。