Q このたび弊寺の住職が交代することになり、これに伴い前住職が個人名義で保有する土地を寺院名義に変更したいと思っています。前住職から寺院に寄付(贈与)させた場合、どのような税金が誰にかかるのでしょうか?
1 寄付(贈与)した者の取り扱い
(1) 個人が、土地・建物などの財産を法人に寄付した場合には、これらの財産は寄付時の時価評価額により個人から法人に対して譲渡があったものとみなされ、寄付した個人については、これらの財産の取得時から寄付時までの値上がり益に対 して譲渡所得税が課税されるのが原則です(所得税法第59条1項1号)。
しかし、土地・建物などの財産を公益法人等(寺社などの宗教法人を含みます。)に寄付した場合、その寄付が教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときには、この譲渡所得税について例外的に「非課税」とする特例が設けられています(租税特別措置法第40条)。
この非課税特例を受けるためには、次の3つの要件全てを満たすことが必要です(租税特別措置法施行令25条の17第5項)。
要件1: 寄付が、教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与すること
要件2: 寄付財産が、その寄付した日から2年を経過する日までの期間内に寄付を受けた公益法人等の公益目的事業の用に直接供され、または供される見込みであること
要件3: 寄付により、寄付した人の所得税の負担を不当に減少させ、または寄付した人の親族その他これらの人と特別の関係がある人の相続税や贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること
(2) 上記要件1~3の要件のうち、もっとも充足するのが難しいのは要件3であるところ、以下の①~⑤を全て満たしている場合には、上記要件3に該当するものと認められます。
① 寄付を受けた公営法人等の運営組織が適正であるとともに、その寄付行為、定款または規則において、理事、監事及び評議員(以下「役員等」といいます。)のうち親族関係がある人及びこれらの人と特殊の関係がある人の合計数がそれぞれの役員等のうちに占める割合が、いずれも3分の1以下とする旨の定めがあること
② 寄付した人、寄付を受けた公益法人等の役員等もしくは社員またはこれらの人と親族関係若しくは特殊の関係がある人に対し、施設の利用、金銭の貸付け、資産の譲渡、給与の支給、役員等の選任その他財産の運用及び事業の運営に関して特別の利益を与えないこと
③ 寄付を受けた公益法人等の寄付行為、定款または規則において、その公益法人等が解散した場合の残余財産が国もしくは地方公共団体または他の公益法人等に帰属する旨の定めがあること
④ 寄付を受けた公益法人等につき公益に反する事実がないこと
⑤ 寄付により公益法人等が株式の取得をした場合には、その取得により公益法人等の保有することとなるその株式の発行法人の株式(寄付前から保有する株式を含みます。)が、その発行済み株式総数の2分の1を超えることとならないこと
(3) 上記要件1~3のすべて(要件3については①~⑤のすべて)を充足している場合には、宗教法人等に寄付した日から起算して4か月以内に「租税特別措置法第40条の規定による承認申請書」及び必要な添付書類を寄付者の所得税の納税地を所轄する税務署に提出して、国税庁長官の承認を受ける必要があります(租税特別措置法施行令25条の17第1項)。
特例の申請をしたからといって当然に特例が適用されるわけではありませんので、寄付(贈与)をする際には、これに先立って上記要件1~3の充足の有無をはじめ、検討される見込みがあるか否かについて、弁護士や税理士などの専門家に相談して慎重に検討しておく必要があることについては言うまでもありません。
2 寄付(贈与)を受けた宗教法人の取り扱い
宗教法人が寄付(遺贈、贈与など)を受けた場合、これにより宗教法人が得た利益は寄付金収益となるところ、宗教法人は収益事業課税ですので、原則として法人税の課税対象にはなりません。
しかし、その寄付により、当該寄付をした者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税等の負担が不当に減少する結果となると認められる場合、寄付を受けた宗教法人を寄付者個人とみなし、当該宗教法人に対しては相続税または贈与税が課されることになります(相続税法66条4項)。
なお、ここにいう「当該寄付をした者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税等の負担が不当に減少する結果」となる場合とは、上記非課税特例の「要件3」に準じて判断されます。
3 本件ケースにおける対応
寺社の住職変更に伴う個人名義の財産の切り替えに伴う贈与のほか、信者からの遺贈・贈与など、寺社が個人から不動産などの寄付を受けることは一般的に発生するものです。その際には、寄付を受ける寺社に不要な税金がかからないように注意する一方で、せっかくのご厚意で寄付してくださる個人(信者など)にも所得税など不必要な税金がかからないよう配慮するのが寺社の役割でもあります。
そのためには上記のような寺社の組織体制や寺院規則の内容のチェックのほか、寄付を受けた不動産の利用計画の策定、特例適用のための承認申請とこれに伴う税務署との折衝など、適時における適切な対応をすることが必要不可欠です。
弊所は寺社など宗教法人の税務にも精通した税理士とも提携しており、これら財産寄付に伴う税金のケースについても適切なチームを組んでワンストップサービスをご提案いたします。 寺社の財産寄付と税金ケースの具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。