文化財を取り扱う上での注意

Q 弊寺に安置されている御本尊の仏像が、数年前に国の重要文化財に指定されました。寺としては大変誇らしい反面、今後どのように管理をしていけばよいのか、何か特別な義務や制約が課されるのではないかと大変不安です。文化財に指定された仏像を管理していくに当たって、寺としては今後どのような点に気を付けておくべきでしょうか?

1 重要文化財とは

重要文化財については「文化財保護法」によってその管理等が規定されています。
文化財保護法は、我が国の長い歴史の中で育まれ守られてきた貴重な国の財産を「有形文化財」、「無形文化財、「民俗文化財」、「記念物」、「文化的景観」、「伝統的建造物群」の6種類に分類したうえで、各種類ごとにそれぞれ適切な保存活用のルールを定めています(第2条1項)。


このうち「有形文化財」は、「建造物、絵画、彫刻、工芸品、書籍、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で我が国にとって歴史上又は芸術上価値の高いもの(これらのものと一体をなしてその価値を形成している土地その他物件を含む。)並びに考古資料及びその他の学術上価値の高い歴史資料」を指します(第2条1項1号)。


そして、「重要文化財」とは「有形文化財」の中でもとりわけ文部科学大臣が重要なものとして指定したものをいいます(第27条1項)。重要文化財の中でさらに世界文化の見地に照らし価値が高いもので、類ない国民の宝たるものが「国宝」と指定されます(第27条2項)。
仏像や仏画などの寺院所有の文化財についても数多くが「重要文化財」に指定されています。

重要文化財の指定を受けることで、寺院としての大きな誇りになるという以外にも、仏像等の修理や保存に際して国から補助金が支給されたり、管理や修理につき文化庁から技術的指導が受けられるという大きなメリットがあります。

2 重要文化財の所有者としての義務

このようなメリットがある一方で、寺院が所有する仏像等が国の重要文化財に指定された場合、その所有者である寺院には以下のような義務と制限が課されることになります。

(1) 管理面での義務

重要文化財の所有者である寺院は、重要文化財を管理するうえで文化財保護法及び文化庁長官の指示に従わなければなりません(第31条)。
そのため、重要文化財の管理責任者を選解任する場合や所有者を変更する場合、重要文化財の所在場所を変更する場合などには20日以内に文化庁長官にその旨の届出をしなければなりません。

また、重要文化財の所有者または管理責任者による管理が著しく困難若しくは不当であると明らかに認められる状態になった場合には、文化庁長官は、地方公共団体等をして、その重要文化財の保存のための必要な管理を寺院に代わって行わせることができます。   

(2) 保護面での義務

重要文化財の管理が十分ではないためにその重要文化財が滅失、毀損、盗難の恐れがあるときは、文化庁長官は所有者である寺院等に対して管理に関して必要な措置を命令、勧告することができます(36条)。

実際に重要文化財が毀損している場合には、文化庁長官は所有者である寺院に対して修理に必要な措置の勧告をすることができます。

仏像の移動、修理、塗替えなど重要文化財の現状の外観や構造に影響を与える場合や修理など保存に影響を及ぼす行為をしようとする場合には事前に文化庁長官の許可を得なければなりません(第43条)。例え良かれと思って行った修復であっても、無許可で行った場合には違法行為となり、刑事罰の対象となる可能性もありますので注意が必要です。
重要文化財を輸出するときには、事前に文化庁長官の許可を得なければなりません。

なお、重要文化財を有償で他者に売却しようとする場合には、所有者たる寺院は、事前に譲渡の相手方や売却予定価格を明示して文化庁長官に国に対する売渡しの申出をしなければなりません。これに対し、文化庁長官がその重要文化財を買い取る旨の通知をした場合、寺院としては国に対してその重要文化財を譲渡しなければならず、他者に先んじた国の先買権が定められています(46条)

(3) 公開面での義務

重要文化財の公開それ自体は、所有者である寺院にて行うことになります。重要文化財であるからといって常時公開しなければならないわけではありません。

但し、文化庁長官は、補助金等を交付した所有者に対して、国立博物館等への重要文化財の出品を命じたり、または重要文化財の一定期間に限った公開を命じることができ、所有者たる寺院としてはこれらを拒むことはできません。  

(4) 調査面での義務

文化庁長官は、重要文化財の所有者たる寺院に対して、重要文化財の現状又は管理、修理もしくは環境保全の状況について報告を求めることができます。

3 本件ケースにおける対応

重要文化財に指定された仏像は、寺院にとっての「信仰の対象」であると同時に「国民の文化的財産」としての側面をも併せ持つことになります。重要文化財の所有者である寺院としては大変な誇りであり、補助金の需給などの大きなメリットを享受することができますが、その一方で重要文化財の管理等に際しては上記のような各種義務や制限を負担することにもなります。

寺院の重要文化財の取扱いについては、弁護士法人 永 総合法律事務所にて、お寺が所有する文化財の管理、文化庁や自治体との協議対応、檀信徒との調整に関するご相談を承っております。文化財の保全と信仰活動を両立させるための体制整備についても迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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