備付書類の閲覧請求への対応

Q お寺の事務所にある備付書類について檀信徒から見せて欲しいと閲覧を求められました。これについては応じなければならないのでしょうか、閲覧を求められた際の対応について教えてください。もしその書類を紛失してしまった場合、どのようにすればよいのでしょうか。

1 お寺が備え付けておくべき書類

お寺をはじめとする宗教法人には、代表役員や責任役員、総代や監事、檀信徒など多くの人々が関与していることから、これらの人々が適切にお寺の運営をしていくためにも、必要最低限度の書類についてはきちんと作成してお寺に備え付けることで関係各者の認識を共有化しておく必要があります。


そこで、宗教法人法第25条2項は、以下の書類についてお寺の事務所に備え付けておくことを義務付けています。
 ① 規則及び認証書(法25条2項1号)     
 ② 役員名簿(法25条2項2号)    
 ③ 財産目録及び収支計算書、貸借対照表(法25条2項3号) 
 ④ 建物境内に関する書類(法25条2項4号) 
 ⑤ 責任役員等の議事録及び事務処理簿(法25条2項5号)      
 ⑥ 事業に関する書類(法25条2項6号)
      
 

2 備付書類の閲覧請求権
 

宗教法人法25条3項は、「檀信徒その他利害関係人」であって、備付書類を閲覧することについて「正当な利益」があり、かつその閲覧の請求が「不当な目的」によるものではないと認められる者からの請求である場合には、お寺としては備付書類を閲覧させなければならないと定めています。
「正当な利益」については、お寺の適正な運営のための開示という利益のほか、債権の確保のためという利益も正当なものに該当します。


「不当な目的」とは、お寺を誹謗中傷する目的であるとか、お寺の機密情報を外部に漏らす目的であるとか、お寺から不当に財産的利益を得ることを目的とする場合をいいます。

「正当な利益」があるか否か、あるいは「不当な目的」に該当するか否かについては、閲覧を求められている備付書類の内容や閲覧を求めている檀信徒の立場ごとに、第一次的にはお寺がその有無を判断することになります。


とはいえ、お寺の判断に納得がいかない場合は、閲覧を求めている者としては第二次的に裁判所に訴えることができますので、これを踏まえたうえでお寺としては閲覧させるか否か、閲覧させるとしてどの書類をどこまで閲覧させるかについて慎重に判断する必要があります。
備付書類の閲覧の手続については宗教法人法に具体的に定められておりませんので、手続的な混乱を防ぐためにもあらかじめお寺の細則に詳細を定めておくと安心です。


なお、お寺は閲覧請求権が上記要件を満たしている場合には備付書類の閲覧に応じなければなりませんが、備付書類のコピーを交付することまでは応じる義務はありません。

 

3 紛失した時の対応

上記①~⑥の備付書類はいずれもお寺の運営上重要な書類として事務所に備え付けておかなければなりません。


万が一、閲覧させようにもこれらの書類を紛失してしまったといった場合には、関係各所に問い合わせをして提出済みの書類のコピーをもらい、改めて当該書類を備え付けておくことで閲覧等への準備対応をする必要があります。
  

⑴ 所轄庁(各都道府県)への問い合わせ

お寺は、毎会計年度終了後4カ月以内に、上記②役員名簿、③財産目録及び収支計算書、貸借対照表、④建物境内に関する書類、⑥事業に関する書類のコピーを所轄庁に提出しなければなりません(法25条4項)。


万が一、上記①~⑥の書類がお寺に保管されていなかった場合、規則と認証書については所轄庁に問い合わせをして謄本の交付を受けることができます。それ以外の書類についても謄本の交付を受けられる場合がありますので、所轄庁に問い合わせして確認をしてください。
  

⑵ 税理士への問い合わせ

③財産目録及び収支計算書、貸借対照表、④建物境内に関する書類、⑥事業に関する書類などお寺の会計税務に関するものについては税理士に作成を依頼していることがあります。


その場合は、税理士事務所においてこれら提出書類のコピーを保存している可能性がありますので、問い合わせして確認をしてください。
 

⑶ 包括宗教法人への問い合わせ

包括宗教団体(本山)に属する被包括宗教法人の場合、寺院規則や責任役員名簿、総代名簿などの重要な書類については包括宗教団体にも提出している可能性が高いところです。

それゆえ、所属している包括宗教団体に対して、過去に提出した書類のコピーを交付してもらえるよう問い合わせして確認をしてください。
 
 

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お寺の備付書類の具体的内容については、「お寺の備付書類」の記事に詳細がありますので、上記記事と併せてご参照ください。

「お寺の備付書類」についての記事はこちら(https://ei-jishalaw.com/%e5%af%ba%e7%a4%be%e3%81%ae%e4%ba%ba%e7%9a%84%e7%b5%84%e7%b9%94/%e5%af%ba%e9%99%a2%e3%81%ae%e5%82%99%e4%bb%98%e6%9b%b8%e9%a1%9e/

5 本件ケースにおける対応

本件においては、お寺としてどのような書類を事務所に備え付けておかなければならないのか、それにつき閲覧を求められた際にどのように対応すべきなのかについては、上記のとおり宗教法人法25条2項及び同3項に沿った適切な対応をする必要があります。備付書類の閲覧請求を求められた際の対応につき迷った場合には早めに専門家にご相談されることをお勧めいたします。

お寺の備付書類への閲覧請求トラブルの具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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