Q 寺社には住職や総代、責任役員や檀信徒総会など色々な立場の方がいますが、そもそも宗教法人の組織はどのような形で管理運営されているのでしょうか。
1.宗教法人と責任役員制度
寺社は宗教法人となることで法律上の権利能力が与えられ、個人から離れて独立した「法人」として財産の維持管理を行うことができるようになります。宗教法人となることは経済的・社会的な基盤を盤石なものとし、教義を広めるなど宗教団体本来の活動をより一層活発化させ促進させることになります。
宗教法人法では、執行機関として「代表役員」を、そして法人の意思決定機関として「責任役員」を必ず置かなければならないと定めています。
「責任役員制度」は、「認証制度」及び「公告制度」と並んで、宗教法人法の3つの柱のひとつであり、その役割を理解することはとても重要です。
2.代表役員及び責任役員の役割
責任役員は宗教法人の重要な事務に関して審議し意思決定をするための機関であり、その数は3名以上とされています。
責任役員による事務の決定に基づき具体的にこれを執行するのが代表役員の役割となります。代表役員は責任役員のなかから選ばれます。
責任役員は法人の管理運営に適した者であれば足り、必ずしも総代や檀信徒の中から選ばなければならないというわけではありません。
責任役員が審議し決定すべき宗教法人の重要な事務として以下のようなものがあります。
① 次年度予算の作成
② 前年度決算の承認(財産目録、収支計算書及び貸借対照表)
③ 年度末繰越金(剰余金)の処分
④ 特別財産及び基本財産の設定および変更
⑤ 不動産及び重要な動産(宝物等)にかかる取得、処分などの重要行為
⑥ 借り入れ又は保証
⑦ 主要な境内建物の新築、改築、増築、移築、除却、模様替え
⑧ 境内地の著しい模様替え及び用途変更
⑨ 境内建物及び境内地の用途変更
⑩ 宗教法人規則の変更並びに細則の制定及び改廃
⑪ 他の宗教法人との合併
⑫ 解散及び残余財産の処分
⑬ 事業を行う場合におけるその管理運営及び収益金の処分
⑭ その他宗教法人の事務のうち重要な事項
なお、誰が寺社の代表役員なのかについては宗教法人の登記すべき事項とされていますので登記情報から確認することができます。しかし、責任役員については登記事項とはされていませんので、責任役員が一体誰なのかについては登記情報からは確認することができません。責任役員の資格については寺社に保管されている役員名簿の記載をもって確認する以外に方法はありません。
3.住職、総代などその他組織
かように代表役員は宗教法人の業務を実際に執行する立場のものですが、それでは「代表役員」と「住職」とは違うのでしょうか。
「代表役員」というのは既に述べたとおり宗教法人法に基づく地位である一方で、「住職」というのは宗教団体としての地位あるいは宗教上の地位となります。
例えるならば、株式会社における「代表取締役」と「社長」の違いに近いと言えるでしょう。実際上は宗教法人の代表役員は住職が就くことがほとんどですので、その意味で実務上両者の違いが際立つことはそれほどないかもしれません。
住職と同じように宗教法人法上の組織ではありませんが、宗教団体としての組織として分かりやすいところでは、「総代」や「檀信徒総会」「世話人会」などが挙げられます。
これらは日常的な寺社運営のための諮問機関、同意機関として住職や宮司の宗教上の職務を補助するものとして位置づけられており、その詳細については各寺社の規則に定められることになります。
寺社規則において、業務決定に先立って総代や檀信徒総会、世話人会などの同意機関の同意ないし賛同を得ることが条件となっている場合、これを得ることなく業務遂行を行った場合、手続違反により当該業務遂行は無効とされるおそれがありますので注意が必要です。
その意味では、檀信徒の代表である総代の果たすべき役割は非常に大きいと言えるでしょう。
4.本件ケースにおける対応
寺社には宗教法人法上の機関のほかにも宗教団体として様々な機関が混在しております。これら各機関の運用等については宗教法人法のみならず寺社規則の内容に沿って行う必要があります。これら手続を無視する業務遂行は違法無効となる可能性もありますので、寺社としてはこれら各機関の果たすべき役割についてきちんと認識しておく必要があります。
寺社の人的組織の管理運営に関するトラブルの具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。