Q 寺院を運営するうえで事務所には必ず帳簿などを備えておかなければならないと聞きました。具体的にどのような書類を備え付けておかなければならないのでしょうか。
目次
1備付書類とは
宗教法人では、責任役員が業務内容を決定し、決定されたことを代表役員が実行し、決定されたことを正しく実行されているかを監事が確認します。かように宗教法人にはこれら複数の役割を果たす人々が存在することから、それぞれが正しく職務を遂行するうえで必要な共通認識を有する必要があります。
そこで、宗教法人法は、宗教法人の活動を表す重要な書類として、以下で説明するいくつかの書類を常に宗教法人の事務所に備え付けなければならないものと定めています(宗教法人法第25条2項)。
2宗教法人が備え付けなければならない書類
(1)規則および認証書
宗教法人の規則たる「寺院規則」は、宗教法人の組織と事務運営の骨格としての基本事項を定めたものであり、いわば当該宗教法人の根本原則ともいえる大切なものです。所轄庁の認証を受けた規則及び認証書の原本をセットで備え付けておく必要があります。
(2)役員名簿
代表役員、責任役員、監事のほか、宗教法人の運営に参画する機関の構成員(総代や世話人など)の名簿を備え付けておく必要があります。代表役員以外の役員は宗教法人の登記簿に記載されないことから、宗教法人の運営上責任を負うべき立場の人を明らかにする意味があります。それぞれの役員の資格、氏名、生年月日、住所、就退任年月日などを記載するのが一般的です。
(3)財産目録
財産目録とは一定時期における宗教法人のすべての資産と負債の各明細を一覧表にしたものです。宗教法人は、設立時と毎会計年度終了後3か月以内に財産目録を作成しなければなりません。財産目録は宗教法人の財務管理の適正化を図るうえで極めて重要かつ基本的なものです。これにより信者は宗教法人の資産状況を知ることができ、また宗教法人の財産と住職など役員の個人財産との混同を避けることができます。
財産目録は、財産の種類ごとに宝物台帳、土地台帳などとして分かりやすいように正確かつ明瞭に整備されていることが必要です。
(4)収支計算書
収支計算書は宗教法人の一会計年度の収入、支出の結果を表で表したものです。これにより当該年度における宗教法人の財務面の活動状況が把握できます。宗教法人の財産的基礎を明確にして、法人運営の透明化を図るために毎会計年度終了後3か月以内に収支計算書を作成して寺院に備え付けることが義務付けられています。
ただし、収益事業を行っていない宗教法人で、なおかつ一会計年度の収入額が8000万円以下の場合は収支計算書の作成義務が免除されています。
(5)貸借対照表
貸借対照表は、一定時期における宗教法人の総財産を資産(借方)と負債及び正味財産(貸方)に分けて、現に保有する財産額と有すべき財産額とを対照する帳簿をいいます。上述した財産目録や収支計算書とは異なって、貸借対照表の作成自体は宗教法人の任意ですが、貸借対照表を作成している場合は宗教法人の事務所に必ず備え付けておかなければなりません。
(6)境内建物に関する書類
境内建物が宗教法人の所有物である場合には上述の財産目録に記載されますが、宗教法人が他人から境内建物を賃貸借契約などで借りている場合には、その旨の書類を作成して備え付ける必要があります。敷地を異にする境内建物ごとに、建物の名称、所在地、面積、用途などを明記します。
(7)責任役員等の議事録および事務処理簿
宗教法人の意思決定の経過と決定事項、それに基づく事務処理内容を明らかにするために、責任役員会議事録の作成とその備え付けが求められています。
事務処理簿とは、宗教法人の目的達成のための事業、財務などに関する事務処理のための日誌のことをいいます。処務日誌や文書処理簿などがこれに当たります。
(8)公益事業および公益事業以外の事業に関する書類
宗教法人は、宗教活動以外にも、公益事業および公益事業以外の事業(収益事業)を行うことができます(宗教法人法第6条)。宗教法人がこれら公益事業や収益事業を行う場合には、宗教法人の本来的な事業とそれ以外の事業とをはっきりと区別するため、事業の種類ごとに、事業の具体的内容とその経緯についての状況を記載した書類を作成し、備え付けておくことが要求されています。
3本件ケースにおける対応
宗教法人たる寺院においては、宗教法人の活動内容を表すべき重要な書類として上記(1)~(8)の各書類を正しく作成したうえでこれを寺院事務所に備え付けておく必要があります。特に財産目録、収支計算書、貸借対照表などの会計書類の作成にあたっては、ある程度財務会計の専門知識が必要となりますので、正確な書類を作成するためにも税理士のアドバイスを受けながら作成するのが望ましいところです。
寺院の備付書類の作成または整備に係る問題の具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。