Q 弊寺にて都道府県に対する毎年の役員名簿や財産目録の提出をうっかり怠っていたら、突然に裁判所から宗教法人法違反で1万円の過料決定を課す旨の通知書が送られてきました。過料決定には一体どのようなものなのでしょうか。また、過料決定はどのような場合に課されるのでしょうか。
1 宗教法人法第88条、同第89条の「過料」について
過料とは行政罰としての金銭罰であり、宗教法人法上の刑罰はすべて「過料」のみです。行政罰としての過料の性質は「秩序罰」とされています。
「過料」は「科料」(刑法231条 侮辱罪 参照)とは異なり、いわゆる刑法上の刑罰ではなく刑法総則や刑事訴訟法の適用はありませんので、警察としては逮捕や強制捜査などをすることはできません。
2 過料処分が課されるケース
法第88条に基づく過料は、所轄庁(都道府県知事又は文科大臣)に対する年次報告書を提出しなかった場合や、報告書に不備の記載をした場合などを含む以下の場合においてなされるものです。
なお、過料処分は宗教法人の代表役員など個人に対して課されるものであって、宗教法人それ自体に対する処分ではありません。
① 所轄庁(都道府県知事又は文科大臣)に対して虚偽の記載をした書類を添付して寺院規則の変更や合併、解散認証の申請をした場合
② 登記に関する届け出を怠り、または虚偽の届出をした場合
③ 破産による解散の届出を怠り、または虚偽の届出をした場合
④ 財産の処分等を所要の公告をしないでした場合
⑤ 財産目録等の作成もしくは備え付けを怠り、またはそれらの書類等に虚偽の記載をした場合
⑥ 財産目録・役員名簿等の書類の写しの提出を怠った場合
⑦ 宗教法人が債務超過になった場合において、破産手続開始の申立てを怠った場合
⑧ 清算のための公告を怠り、または不正の公告をした場合
⑨ 清算中に宗教法人の財産が債務を完済するのに不足なことが明らかになった場合において、破産手続開始の申し立てを怠った場合、またはその場合において破産手続開始の申立てをした旨の公告を怠り、もしくは不正の公告をした場合
⑩ 解散及び清算の監督上裁判所が行う検査を妨げた場合
⑪ 宗教法人に関する必要な登記を怠り、または虚偽の登記をした場合
⑫ 所轄庁に対し報告をせず、もしくは虚偽の報告をし、または所轄庁の職員の質問に対して答弁をせず、もしくは虚偽の答弁をした場合
⑬ 事業停止の命令に違反して事業を行った場合
なお既に設立済みの宗教法人における上記①~⑬の場合とは別に、これから新たに宗教法人を設立しようとする者が所轄庁に対して虚偽の記載をした書類を添付して認証の申請をした場合においても、同様に過料の処分がなされます(法第89条)。
3 過料処分の手続
過料の徴収手続は訴訟ではなく「非訟事件」として取り扱われますので、非訟事件手続法第119条以下の手続に則って行われます。
具体的には、所轄庁から地方裁判所への通知をもって地方裁判所にて行われ、裁判所が10万円以下の金額にて過料の決定をします。
裁判所から宗教法人の代表役員等宛に通知書が送付されることで過料処分のための手続が始まることになりますが、一般的に過料事件は当事者の陳述を聞かない略式手続での決定でなされることがほとんどです。
略式手続にするか否かは管轄裁判所が判断することになります(非訟事件手続法第122条1項「裁判所は、120条第2項の規定にかかわらず、相当と認めるときは、当事者の陳述を聴かないで過料についての裁判をすることができる。」)。略式手続をする際の「相当と認めるとき」とは所轄庁に対する一部報告書の提出漏れなど、その違反が比較的軽微なケースです。
宗教法人側が簡易な略式手続ではなく正式な過料の裁判(地方裁判所が当事者の陳述を聴いたうえで裁判する方式)をして欲しいと希望する場合には、略式手続での決定について一定期間内に異議を申し立てることで、正式な裁判手続が改めて開始されます。
裁判所による過料決定に対して不服がある場合は、宗教法人としては、当該地方裁判所の所轄エリアの高等裁判所に一定期間内(告知を受けた日から1週間以内)に異議申立て(即時抗告)をすることができます。
さらに高等裁判所における判断についても不服がある場合は、さらに最高裁判所に対して特別抗告をすることができます。但し、最高裁への特別抗告については憲法違反の場合、従前の最高裁判例と相反する判断がある場合、法令の解釈に重大な事項を含む場合など一定の事由がある場合のみに限定されます。
4 本件ケースにおける対応
本件においては、所轄庁である都道府県に対する毎年の役員名簿や財産目録の提出を怠っていたというケースですので、宗教法人法第88条4号に基づく過料処分に該当します。同法第25条4項において、規模の大小を問わずすべての宗教法人は毎年会計年度終了後4カ月以内に役員名簿及び財産目録を所轄庁に対して提出する義務を負っていますので、これを怠った場合には法第88条4号の過料処分の対象となります。
すべての宗教法人が過料処分の対象になるおそれがありますので、所轄庁への必要書類の提出と過料手続にかかる裁判所からの通知書についてはきちんと対応するようにしましょう。 寺社の過料処分への対応については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。