寺社の解散

Q  地方にはほとんど宗教活動をしておらず廃れている寺社が多くあると聞きます。そのような場合は寺社を解散させるということになるのでしょうか。寺社を解散させるとはどのような意味なのでしょうか、また寺社の解散にはどのような手続をする必要がありますか。

 1  寺社の解散とは

 不活動宗教法人には、檀信徒が少なくて思うように宗教活動ができない場合と、住職自身の考え等によりそもそも宗教法人としての宗教活動をする意思自体がない場合があります。これらの場合には他の宗教法人と「合併」して存続させるとの選択肢ももちろんありますが、それ以外に宗教法人を「解散」して消滅させるという選択肢もあります。

 宗教法人における解散とは、その目的である宗教活動を停止して、財産関係の整理段階に入ることをいいます。

 解散による財産関係の整理事務を「清算」といいます。宗教法人は、解散したとしても財産関係の整理という清算の目的の範囲内ではその法人格はなお存続しており、清算手続が結了した時点をもってはじめて法人格が消滅することになります(宗教法人法第48条の2)。

 なお、憲法で信教の事由が保障されている以上、宗教法人格が無くなったとしてもその宗教を信仰すること自体はもちろん個人の自由です。その意味において、宗教法人の解散は法人格という法的側面には影響しますが、その宗教の信仰面については何ら影響を及ぼすものではありません。

 宗教法人の解散には、宗教法人自身の意思で解散を決める「任意解散」の場合と、宗教法人法で定められた一定事由に該当することによって当然に解散することになる「法定解散」の場合の2つがあります。

 2 任意解散

   宗教法人の任意解散は概ね以下のような手続で進んでいきます。

  (1) 責任役員会の議決

 宗教法人が自ら解散しようとする場合、まずは寺院規則に定められた手続に則って宗教法人としての意思決定を行うことになります(宗教法人法第44条2項)。解散という重要な事項の決定となりますので、通常よりも重い決議条件を付しているのが一般的です。

 もし宗教法人の解散の手続が寺院規則に規定されていない場合には、通常の決議事項と同様、責任役員会において責任役員の定数の過半数の議決で決定することになります。

  (2) 解散公告

 解散はその宗教法人の檀信徒その他の利害関係人にとって非常に重大な影響を及ぼすものです。

 そのため、解散しようとする宗教法人は、これらの者に対して、今回の解散に意見がある場合にはこの公告の日から2ヶ月を下らない一定の期間内にその意見を申し述べるよう公告をしなければなりません(宗教法人法第44条2項)。

 この公告によって、檀信徒その他利害関係人から実際に意見が出てきた場合には、宗教法人としてはその意見につき真摯に受け止めて、十分に考慮したうえでそのまま解散の手続を進めるか否かにつき慎重に検討しなければなりません(同法3項)。

  (3) 解散の認証申請

 上記(2)の公告期間が経過した後、宗教法人は、所轄庁に対して解散の認証を申請することになります(法第45条)。

  (4) 解散の認証

 上記(3)の認証申請がなされると、所轄庁は必要な書類が整っているかなどの形式的な審査を行い、問題がなければ申請を受理した旨の通知書を出します。

 そのうえで、所轄庁にて解散の手続が上記(1)(2)に従って適法になされているかをチェックし、特に問題がないと判断した場合には解散の認証を行います。

 その後に、所轄庁は宗教法人に対して認証書を交付することになります。任意解散は解散に関する当該認証書の交付をもってその法的効力が発生します(法第47条)。

 3 法定解散

 宗教法人は、宗教法人法で定められた以下の6つの事由のいずれかが発生した場合には当然に解散するものとされています(法43条2項)。

  (1) 寺院規則で定める解散事由の発生

 宗教法人は、自身でその寺院規則中に解散事由を明記しておくことができます。この場合、当該事由が発生した場合に宗教法人は当然に解散することになります。

 例えば、本堂が消失した場合や檀信徒が1人もいなくなった場合などを解散事由として寺院規則に明記しておくケースなどが考えられます。

  (2) 合併

 吸収合併の場合の吸収される側の宗教法人、及び新設合併の場合の合併当事者である宗教法人は、いずれも合併によって解散することになります。

 但し、吸収合併の場合の合併後存続する側の宗教法人については解散せず、その後もそのまま宗教法人格が残り続けます。 

  

  (3) 破産手続開始の決定

 宗教法人がその債務について財産をもってすべて返済することが出来なくなった場合、裁判所は、代表役員または債権者等の申立てにより、あるいは裁判所の職権をもって破産手続開始決定を行います(法第48条1項)。

 裁判所が破産手続開始決定を行った場合、その宗教法人は解散し、その財産については債権者に公平に弁済するための手続に入ることになります。 

 

  (4) 所轄庁の認証の取消し

 宗教法人が設立して認められるためには所轄庁の寺院規則の認証が必要になります。宗教法人の設立後において、仮にその団体が宗教法人法に則って適切に設立されていなかったことが判明した場合、所轄庁は認証書の交付から1年以内に限りその宗教法人の認証を取り消すことができます(法第80条1項)。

 所轄庁による認証取消しがなされた場合、その処分を受けて宗教法人は解散することになります。

  (5) 裁判所の解散命令

 宗教法人について、法令に違反し、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした等の事情がある場合、裁判所は、所轄庁、利害関係人もしくは検察官の請求により、あるいは裁判所の職権により、当該宗教法人に対して解散を命ずることができます(法第81条)。

 この裁判所の解散命令によって当該宗教法人は解散することになります。

  (6) 包括宗教法人にあってはその包括する宗教団体の欠亡

 宗派などの包括宗教団体は、寺院などの宗教団体を包括する宗教団体ですから、包括される宗教団体がひとつもなくなった場合は包括宗教団体としての要件を欠くことになりますので、当然に解散することになります。

 4 清算

 宗教法人が解散した場合、合併及び裁判所による破産手続開始決定による解散の場合を除き、清算人が置かれ、その清算人が宗教法人の清算手続を行うことになります。

 清算人は、宗教法人が解散時において未だ終結していない事務を完結させたり(現務の結了)、未回収の債権の取り立てや債務の弁済業務を行います。

 これら清算人による清算業務の結果、なおもプラスの財産が残っている場合、清算人はこの残余財産を以下の順序に従って処分していくことになります。

   ① 規則に残余財産の処分につき規定がある場合は、規則に従って処分する。

   ② 規則に残余財産の処分につき規定がなかった場合は、他の宗教団体または公益事業のために処分することができる。

   ③ 上記①及び②にて処分できなかった財産については国庫に帰属する。

5 本件ケースにおける対応

 宗教法人たる寺社の解散手続においては、上記のような各種手続が必要となります。これらの手続においては宗教法人法や寺社規則にかかる相応の専門知識が必要となりますので、迅速かつ適切な方法による解散手続を実施するためにも弁護士など専門家のアドバイスを受けながら実施するのが望ましいところです。

 寺社の解散手続の具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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