参拝客の荷物盗難と寺院の損害賠償責任

Q 葬儀、法要や行事の際に、参拝客等から「法要が終わるまで荷物を預かってほしい」と依頼されることがあります。また、控室や客殿に置いていた荷物が他の参拝者等によって盗まれてしまうことも考えられます。このような場合、お寺は盗難について損害賠償責任を負うのでしょうか。また、寺院として盗難事故を防止するためには、どのような対応を取ることが望ましいでしょうか。

参拝客の荷物盗難と寺院の損害賠償責任

1 まず確認すべきは「寺院が荷物を預かったかどうか」である

参拝客の荷物が盗難に遭った場合、お寺の責任を考える上で最も重要となるのは、寺院がその荷物を預かっていたのか、それとも参拝客自身が管理していたのかという点です。

例えば、

・本堂の片隅にバッグを置いていた
・客殿に自ら荷物を置いていた
・控室に荷物を置いたまま席を離れていた

といった場合には、単に参拝客が荷物を置いただけであって、通常、お寺が荷物を預かったとまではいえません。

このような場合、荷物は参拝客自身の管理下にあるため、第三者による盗難が発生したからといって、お寺が当然に損害賠償責任を負うものではありません。

もっとも、寺院側が盗難を容易に招くような危険な管理状況を放置していたなど、特別な事情がある場合には、不法行為責任(民法第709条)が問題となる余地があります。

しかし、通常の参拝や法要において第三者による盗難が発生したというだけで、直ちに寺院の責任が認められるものではありません。

2 寺院が荷物を預かった場合には法的責任が生じることがある

これに対し、「法要が終わるまで受付でお預かりします」、「寺務所で保管しておきます」、「住職がお預かりします」など、寺院が荷物を受け取り、自ら保管することを引き受けた場合には事情が異なります。

このような場合には、法律上、寄託契約(民法第657条)が成立する可能性があります。

寄託契約とは、一方当事者が相手方から物の保管を引き受け、後日返還することを約する契約です。無償で善意にて預かった場合であっても、寄託契約が成立すること自体は妨げられません。

寄託契約が成立した場合、お寺は受寄者として、契約の内容に従って荷物を適切に保管し、返還する義務を負います。

また、その保管に当たっては、善良な管理者として通常期待される注意義務(善管注意義務)を尽くさなければなりません。

例えば、

・誰でも自由に出入りでき、持ち出せる場所に放置していた
・施錠可能な場所であるにもかかわらず、施錠していなかった
・本人確認を行わず第三者へ荷物を引き渡した

などの事情がある場合には、寺院側に管理上の過失が認められ、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。

もっとも、第三者による窃盗が発生したという結果だけで当然に責任が認められるわけではありません。寺院がどのような管理体制を採っていたか、預かった荷物の性質や保管場所などを踏まえ、個別具体的に判断されることになります。

3 現金や貴重品の預かりは極めて慎重に対応すべきである

荷物を預かる場合にはその内容にも十分注意しなければなりません。

例えば、

・現金
・宝石
・高級時計
・貴金属
・有価証券

などの高価品については、盗難が発生した場合の損害額が高額になるだけでなく、「バッグの中に現金が数百万円入っていた」、「高価な腕時計が入っていた」など、後日において事実関係そのものが争いとなることも少なくありません。

寺院としては、そのような高価品の存在や価値を確認することが困難である以上、高額な現金や貴重品については、原則として預からない運用とすることが望ましいでしょう。

それでもなお、やむを得ず預からざるを得ない場合においては、

・預かった日時
・預かった物品
・返却方法
・受領者

などを記録として残しておくことが、後日の紛争防止につながります。

4 盗難事故を防ぐためには運用ルールの整備が重要である

寺院として最も重要なのは、盗難事故そのものを未然に防止するとともに、万一事故が発生した場合にも紛争へ発展しない体制を整備しておくことです。

例えば、「貴重品は各自で管理してください」、「現金・貴重品のお預かりはいたしかねます」といった掲示を行うことは、参拝者への注意喚起として有効です。

もっとも、このような掲示をしていたとしても、実際に寺院が荷物を預かっていた場合には、そのことだけで法的責任が免除されるわけではありません。

したがって、掲示だけに頼るのではなく、

・原則として荷物は預からない運用とすること
・例外的に預かる場合の基準を定めること
・預かった場合には記録を残すこと
・返却時には本人確認を行うこと
・保管場所は施錠管理すること

など、寺院として統一したルールを整備しておくことが重要です。

また、控室や客殿など、不特定多数が出入りする場所については、防犯カメラの設置や入退室管理の方法を検討することも、盗難事故の防止や事後の事実確認に役立つ場合があります。

5 本件ケースにおける対応

寺院は、檀信徒や参拝者との信頼関係を大切にする施設であるからこそ、「少しの間だけ預かってください」という依頼を受ける場面も少なくありません。

しかし、一度荷物を預かれば、その保管について一定の法的責任を負う可能性があります。特に、現金や貴重品を安易に預かることは、盗難事故だけでなく、後日の事実関係を巡る紛争にも発展しかねません。

そのため、寺院としては、荷物の預かりは例外的な対応と位置付け、原則として参拝者自身に管理していただく運用を基本とすることが望ましいといえます。

もっとも、高齢者や身体の不自由な方への配慮など、例外的に荷物を預かる必要がある場合には、預かり品や保管方法、返却方法等を明確にし、適切な管理体制を整備しておくことが大切です。寺院は信頼関係を基盤とする施設であるからこそ、事故が発生してから対応するのではなく、平時からルールを整備しておくことが何より重要です。

荷物の盗難事故が発生した場合の法的責任は、寺院が荷物を預かっていたか否か、預かった場合にはどのような管理体制を採っていたかによって大きく左右されます。寺院としての預かりルールの策定、掲示文の作成、事故発生時の対応方法等については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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