お寺における土地の境界確定手続

Q  隣地に居住している所有者が、弊寺の境内地部分にはみ出る形で生垣を造ったり植栽をして数年前から使用しています。当寺の境内使用には大きな影響はないのですが、このまま放っておいていいものでしょうか。それとも何か対応をした方がよいのでしょうか。

1.「公法上の境界」と「私法上の境界」

 本件は、寺社と隣地との間でそれぞれの土地の境界線が問題になっているケースです。

 土地の境界については、大きく「公法上の境界」(=筆界)の問題と「私法上の境界」の問題という2つに分けて考える必要があります。

 「公法上の境界」は登記簿上の土地の筆を異にして隣接する土地同士の境目の問題であり、ここにおける土地の境目は国のみが定めるものです。その意味では、各土地の所有者が誰であるかは問題とはならず、隣地所有者同士で双方に合意をして地番の境目を決めたとしてもそれは公法上の境界を決めたことにはなりません。

 これに対し、「私法上の境界」は各土地の所有権の範囲の問題ですので、隣接所有者同士で所有権の及ぶ範囲を合意することが可能となります。

 

2.境界の確定資料

 本件では隣地所有者が自身の土地の登記簿上の筆界を越境して寺社の土地部分まで占有している状況ですので、「公法上の境界」が問題となります。

 隣地所有者が土地の境界を越えて寺社の所有地部分まで越境しているようであれば、そのまま放置するのではなく、越境解消に向けた話し合いをしておく必要があります。もし当該越境状態を放置した場合、占有している隣地所有者の占有開始時の認識に応じて10年間または20年間の経過により当該越境部分の土地について時効により取得されてしまうおそれがありますので(民法第162条1項、2項)、絶対に放置しないように注意してください。

 公法上の境界線を越えているか否かについては、一般的には、以下の各資料等の状況に基づき個別に判断することになります。

   ① 公図、地積測量図等の図面

   ② 境界標(コンクリート杭、境界石など)

   ③ 土地の占有状況

   ④ 土地の公簿面積

   ⑤ 自然の地形

   ⑥ 過去の文献、地元の古老の証言

 

3.境界の確定方法

 双方当事者立ち合ったうえで上記確定資料を確認してもなお双方土地の境界線がどこであるかが定まらない場合、これを解決するためには「筆界特定手続」または「境界確定訴訟」を提起する等の方法があります。

 筆界特定手続は対象地の所在地を管轄する法務局の筆界特定登記官が必要な事実の調査を行ったうえで筆界を特定します。

 境界確定訴訟は証拠として提出された資料等に基づき裁判所が正当と認められる境界線を判決により形成する手続です。  

 筆界特定手続は境界確定訴訟と比較してより迅速かつフレキシブルな対応が期待できますが、その一方であくまでも筆界特定登記官の認定判断であって法的な効力をもって筆界を確定するものではありませんので、筆界特定手続よりも境界確定訴訟による判決の方が優越することになります。

 

4.本件ケースにおける対応

 本件でも隣地所有者の方の占有状況が寺社の土地境界を越境してなされている場合、これを放置することは当該越境部分の土地を取得時効により喪失する可能性がありますので、寺社としては放置すべきではありません。

 隣地所有者が立ち会ったうえで上記各資料等の状況に照らして土地の越境が生じているのか否か、越境しているとしてこれを解消するためにはどのような方法が考えられるか等について、できるだけ早い段階にて寺社と隣地所有者間で誠意をもって協議解決しておくことが望ましいところです。

 

 土地の越境トラブルの具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

03-3519-3880 メールでのご相談はこちら