寺院における財産処分

Q  弊寺では、お寺で所有する土地の一部を売却し、その資金で新しい納骨堂を建てたいと考えています。ただ、寺院の財産を処分するときには特別な手続が必要だと聞きました。お寺としてどのような手続を踏む必要があるのでしょうか。また、もしそれに違反してしまった場合はどのような影響を受けるのでしょうか?

 
1 宗教法人法第23条が定める「財産処分」の手続

宗教法人法第23条は、宗教法人が所有する重要な財産の処分など以下の①~⑤の行為をする場合において、責任役員の承認など寺院規則で定める手続と、少なくとも1カ月以上前における公告手続が必要であると定めています。
これは、宗教法人が保有する財産には檀信徒などから寄進されたものが多く含まれていることから、宗教法人における財産の保全と適正利用を確保することを目的としたものです。

① 不動産又は財産目録に掲げる宝物を処分し、又は担保に供すること(1号)

不動産は境内地か境内外かを問いません。また境内建物か境外建物かも問いません。
処分については、売買、贈与、交換、放棄、地上権の設定などを含みます。

② 借入(当該会計年度内の収入で償還する一時の借入を除く)(2号)

借入れには本堂建替えのための請負工事代金債務も含まれます。多額の債務を負う行為は借入れに該当するものと考えておくのが良いでしょう。

③ 主要な境内建物の新築、改装、増築、移築、除却又は著しい模様替をすること(3号)

主要な境内建物は寺院にとって重要な不動産であることから、財産保全のため一定の手続をとることが求められます。
なお、③④⑤の場合については緊急の必要に基づく場合又は軽微な場合についてはこれらの手続を踏む必要はありません。

④ 境内地の著しい模様替をすること(4号)

境内地の樹木を伐採等することでその景観が大きく変わる場合を含みます。

⑤ 主要な境内建物の用途若しくは境内地の用途を変更し、又はこれらを当該宗教法人の第2条規定す目的以外の目的のために供すること(5号)

普通の境内地を参詣用の駐車場や墓地に変更する場合を含みます。

2 寺院規則で定める手続

寺院における財産に関する事項については寺院規則上の必要的記載事項となっています(宗教法人法第12条8号)。寺院規則に定められている各種財産のうち重要なものについて上記①~⑤の方法により処分等しようとする場合には、寺院規則が定める手続を履践しなければなりません。
寺院規則の定めはそれぞれの寺院により異なるところですが、一般的には、責任役員会の決議のほかに、総代会の同意が必要とされることが通常です。

また、被包括宗教法人の寺院の場合には、これに加えて包括宗教法人(本山)の同意が必要とされていることがほとんどでしょう。
寺院の財産を処分するに当たって、これら寺院規則の定めを無視した場合、包括宗教法人(本山)から懲戒処分を受けるおそれがありますのでくれぐれも注意が必要です。

3 公告の手続
  

公告とはその寺院の運営において重要な行為について、事務所の掲示板に掲示するなど適切な方法により、檀信徒を含む利害関係人に対してその旨の周知をする手続をいいます。

寺院が重要な財産を処分する際には上記寺院規則の手続を済ませた後に、その財産処分行為の少なくとも1カ月前に、檀信徒その他の利害関係人に対して、処分行為の要旨を示して公告する必要があります。

4 第23条の手続違反の場合における効果

(1) 寺院が財産の処分等に際して宗教法人法第23条が定める手続を怠った場合、その処分行為は無効となる場合があります。
これにつき、同法第24条は「宗教法人の境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物について、前条(第23条)の規程に違反してした行為は、無効とする。但し、善意の相手方又は第三者に対しては、その無効をもって対抗することはできない。」と定めています。

つまり、寺院が境内建物や境内地、宝物に関する処分行為をする場合において、宗教法人法第23条が定める上記手続を怠った場合、これらの処分行為は原則として無効となります。ただ、処分行為の相手方などが寺院において必要な手続を怠っていたことを知らなかった場合(善意の場合)、その行為は例外的に有効なものとされます。

(2) なお、上述した宗教法人法第23条1号ないし5号の各規定の行為のうち、境内建物や境内地、宝物以外のものについて宗教法人法第23条の手続をとらずに財産処分行為が行われたとしても、当該処分行為については無効とはしないというのが判例実務とされています。

ただ、その場合であっても、これら民法上の法的効果とは別途に、寺院住職らにおいて、包括宗教法人(本山)から懲戒処分を受けるおそれがある点については既に述べたとおりです。

これに加え、宗教法人法第88条3号に基づき10万円以下の過料処分を受けるおそれや寺院内部での責任追及や損害賠償請求を受ける等のリスクもありますので、寺院が財産処分を行う場合には、くれぐれも宗教法人法第23条が定める手続を履行するようしっかりと心がけてください。

5 本件ケースにおける対応

寺院がその所有する不動産などを売却するケースは比較的頻繁に発生し得るものですが、上記のとおり、寺院の適正な財産保全の観点から宗教法人法第23条に基づく厳格な手続を踏むことが法律上求められています。これを無視することは、契約上の効果が無効とされることのみならず、過料処分や懲戒処分に加え、寺院の財産を私的に費消したとして住職の適格性に問題があるとして重大な解任トラブルにまで発展する可能性があるものですので、対応に迷った場合には早めに専門家にご相談されることをお勧めいたします。

寺院が財産処分をする際の手続については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて、それぞれの寺院規則や宗教法人法に則って迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

03-3519-3880 メールでのご相談はこちら