お寺における立退料と正当事由

Q  弊寺は敷地の一部を第三者に貸しておりましたが、墓地の拡張計画が持ち上がっており、借地契約の更新を拒絶して退去してもらう方向で借地人と話し合いを進めてきました。ところが、先日、借地人から「立退料を払ってもらいたい」と言われたのですが、「立退料」とはどういうものなのでしょうか。また地主としてどのくらいの金額を支払わねばならないのでしょうか。

1.立退料と正当事由

 既にQ7にて説明したとおり、地主側としては、借地人からの更新要求について一定の「正当事由」がある場合には、地主は当該更新を拒絶することができ、その場合、借地契約は契約期間の満了と同時に終了することになります(借地借家法第5条、第6条)。

 ここにいう「正当事由」を地主側が備えているか否かについては、①地主側及び借地人側それぞれの土地の使用を必要とする事情、②借地についての従前の経過、③土地の使用状況、④地主側からの財産上の給付(立退料)の提示の有無とその金額などの諸要素を総合的に勘案して判断することになります。詳細についてはQ7をご参照ください。

 

2.立退料の算定要素

  正当事由の諸要素のなかでもっとも問題になり易いのが「立退料」の問題です。

 「立退料」は地主が借地人に交付する金銭的な給付ですが、立退料はあくまでも正当事由を補完するための要素に過ぎません。それゆえ、正当事由を裏付ける他の諸要素が何もない状況においては、たとえ多額の立退料を提供したとしても、それだけでは正当事由が認められるわけではありません。

 それでは、立退料については具体的に一体いくら支払えばいいのか?

 寺社として一番気になるところではありますが、これについては一概に答えることはできません。

 

 立退料額の具体的算定のためには以下の諸要素を考慮する必要があります。

① 借地権価格補償(建物価格も含む)

 借地権価格とは借地権に基づき土地を使用収益することにより借地人に帰属する経済的利益をいいます。借地契約を解消させて立ち退くということは借地人にとってはこれによる経済的利益を放棄するということに他なりませんから、これにつき借地人に補償するということです。

 借地権価格の算定方法については、「取引事例比較法」「割合方式」「収益還元法」「差額地代還元法」など様々な方法がありますが、最終的には不動産鑑定士による鑑定評価によることになります。  

② 移転に伴う諸経費(引越費用など)

 借地契約を解消して立ち退く場合には、借地人には引越し費用以外にも多くの費用がかかります。

 新しい転居先にかかる際の礼金、一部敷金、仲介手数料、移転先物件との賃料差額補償のほか役所等の手続にかかる実費費用などもこれに含まれます。

③ 店舗についての営業補償

 借地人が借地上の建物にて店舗等を開いて営業をしていた場合、移転により固定顧客を失うリスクや移転期間中に休業して営業できないことによる補償など借地人たる店舗に与える悪影響も小さくないため、これについての補償が必要となります。

④ 慰謝料、迷惑料

 地主たる寺社の都合により長年親しんだ土地を離れて生活をしなければならなくなる借地人の生活の負担に対する補償です。

 

 借地契約における立退料の金額は、正当事由の他の諸要素の充足程度によるのでケースバイケースとしかいえませんが、正当事由の他の諸要素の充足度が高ければ立退料の金額は低額で済む一方、正当事由の諸要素がそれほど充足していないということになればその反面で立退料の金額は高額になりがちといえます。 

 

3.本件ケースにおける対応

 寺社としては立退料の金額交渉に際し、更新拒絶に関する正当事由を裏付ける他の諸要素として借地人側の継続使用の必要性の状況等についても詳しく確認したうえで、正当事由の充足具合を踏まえながら、上記①~④の各項目ごとの金額をひとつひとつ算定して立退料の合計金額を確定することになります。

 

 借地契約終了による立退きトラブルの具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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