Q 近年、檀信徒の高齢化や単身世帯の増加を背景に、葬儀や永代供養だけではなく、死後事務委任や遺言、任意後見などを含めた「終活支援」を寺院が行う例も増えてきています。寺院がこのような終活支援サービスを提供することに法的な問題はないのでしょうか。また、寺院としてどのような点に注意しながら終活支援を進めるべきでしょうか。

目次
1 寺院による終活支援の役割
近年、高齢化、少子化及び未婚率の上昇に伴い、「自分が亡くなった後のことを誰に任せればよいか」という不安を抱える方が急速に増えています。
その結果、従来の葬儀や法要、納骨といった宗教的活動にとどまらず、
・生前相談
・遺言書に関する相談
・任意後見
・死後事務委任
・永代供養
・墓じまい
などを含めた総合的な「終活支援」に対する社会的ニーズが高まっています。
寺院は長年にわたり檀信徒の人生に寄り添ってきた存在であり、こうした終活に関する相談を最初に受ける立場となることも少なくありません。
人生の終末期において宗教者が精神的な支えとなることは寺院の重要な役割の一つであり、その意味では終活支援は寺院活動とも高い親和性を有するといえるでしょう。
なお、死後事務委任の具体的内容、法的リスクと注意点については、別途の「死後事務委任とは」、「寺院が死後事務委任を受任する場合の法的リスクと注意点」の各記事も併せてご覧ください。
2 寺院が行うべき業務と専門家に委ねるべき業務
もっとも、「終活」と一口にいっても、その内容は多岐にわたります。
例えば、
・葬儀
・法要
・納骨
・永代供養
は宗教活動そのものです。
これに対し、
・遺産分割
・相続登記
・遺言執行
・相続税申告
・成年後見開始の申立て
・各種訴訟
などは法律・税務の専門業務となります。
寺院が檀信徒から厚い信頼を得ているからといって、これら全てを自ら引き受けることは適切ではありません。
寺院としては、自ら対応できる宗教的・祭祀的な部分と、弁護士、司法書士、税理士、社会福祉士等の専門家へ引き継ぐべき部分とを明確に区別しておくことが重要です。
寺院は終活支援の「窓口」となり、必要に応じて専門家へ橋渡しを行うという役割を担うことが、檀信徒にとっても寺院にとっても最も望ましい形といえます。
3 終活支援を継続的に行う場合の留意点
終活支援を継続的に実施する場合には、個別相談とは異なる視点からの検討も必要になります。
例えば、
・終活相談会の開催
・死後事務委任契約の紹介
・弁護士など専門家との共同セミナー
・エンディングノート作成支援
・永代供養説明会
などは、多くの寺院でも取り組みやすい活動です。
しかし、その一方で、「契約内容を十分説明しないまま契約締結を勧める」、「特定の契約を強く勧誘する」、「檀信徒の判断能力が低下しているにもかかわらず契約を締結させる」などの対応は、後日大きな紛争を招く危険があります。
終活支援は、本人の自由な意思決定を尊重しながら進めることが何より重要であり、寺院は宗教者として中立性と公正性を維持しながら相談対応を行うことが求められます。
4 契約と金銭の管理は透明性を確保する
寺院が終活支援を行う場合、特に慎重な対応が求められるのが契約及び金銭管理です。
例えば、
・死後事務委任契約
・永代供養契約
・墓地使用契約
・納骨堂使用契約
などについては、その内容を書面で明確にしておく必要があります。
また、「葬儀費用を事前に預かってほしい」、「死後事務の費用を預託したい」との相談を受けることもあります。
このような場合には、
・預かった金額
・管理方法
・使用目的
・精算方法
などを書面により明確にしておかなければ、後日親族との間で紛争になる危険があります。
終活支援は信頼関係の上に成り立つものですが、その信頼を維持するためにも契約内容及び金銭管理については可能な限り透明性を確保することが重要です。
5 地域社会における寺院の新たな役割
近年では、自治体や地域包括支援センター、社会福祉協議会なども終活支援へ積極的に取り組んでいます。
そのような中で寺院は、
・宗教的ケア
・グリーフケア(大切な人やものを亡くした深い悲しみ(グリーフ)を抱えている人に寄り添い、その気持ちを受け止めて支えること)
・永代供養
・墓地相談
・人生会議(ACP:Advance Care Planning)に関する相談
・死後事務委任に関する一般的な相談
など、宗教者ならではの役割を果たすことが期待されています。
単に葬儀を執り行うだけではなく、人生の最終段階に寄り添い、不安を抱える地域住民を支えることは、現代社会における寺院の新たな社会的役割の一つといえるでしょう。
今後、少子高齢化がさらに進展する中で、終活支援は寺院の公益的役割の一つとして、その重要性がますます高まるものと考えられます。
6 本件ケースにおける対応
終活支援は、寺院が地域社会との結び付きを深め、檀信徒との信頼関係をより一層強固なものとする重要な活動となり得ます。
もっとも、その内容には宗教的活動だけではなく、法律、税務、福祉など多様な専門分野が含まれることから、寺院のみですべてを完結させようとすることは適切ではありません。
寺院としては、自らが担うべき宗教的・祭祀的役割を明確にしつつ、死後事務委任、遺言、任意後見その他の法的制度については、それぞれの専門家と連携しながら対応する体制を整備することが重要です。
また、終活支援を継続的な寺院活動として実施する場合には、相談体制、契約書式、個人情報管理、費用の取扱い等についてあらかじめルールを整備し、透明性の高い運営を行うことが、檀信徒からの信頼維持と将来的な紛争予防につながるものといえるでしょう。
寺院による終活支援体制の構築、死後事務委任契約、永代供養契約、各種終活サービスに関する法的リスクの検討その他寺院における終活支援全般については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。
関連記事:死後事務委任とは





