死後事務委任とは

Q 弊寺にはご高齢の檀家が多くおりますが、最近「身寄りがなく、自分が亡くなった後のことをお願いしたい」、「葬儀や納骨などをお願いできないか」と相談を受けることが増えてきました。このような場合、お寺として死後の手続きを引き受けることはできるのでしょうか。「死後事務委任」というのを聞いたのですが、これはどのような制度なのでしょうか。

1 「死後事務委任」とは

近年、高齢化や少子化、未婚率の上昇などを背景として、配偶者や子どもなどの近親者がいない、いわゆる「おひとりさま」の増加が社会問題となっています。

従来、亡くなった後の葬儀や火葬、納骨、役所への届出、賃貸住宅の明渡し、公共料金の解約などの手続は、亡くなった方のご家族や親族が行うことが一般的でした。

しかし、身寄りのない方や、親族との交流が途絶えている方については、これらの死後の手続を誰が行うのかが大きな問題となっています。

そこで、近年利用が増えている制度が「死後事務委任」と言われるものです。

「死後事務委任」とは、生前の本人が信頼できる第三者との間で委任契約を締結し、自らが死亡した後に必要となる各種事務について、その第三者に依頼しておく契約をいいます。

具体的には、

・葬儀・火葬の手配
・納骨や永代供養の手続
・死亡届提出など行政手続への対応
・病院や介護施設への支払い
・賃貸住宅の明渡し手続
・公共料金・携帯電話等の解約
・家財道具の整理

などが代表的な死後事務委任契約における業務として挙げられます。

もっとも、これらはあくまで契約によって委任できる事務であり、相続手続そのものや遺産分割を受任者が代行する制度ではありません。

なお、死後事務委任契約の法的性質は一般的には準委任契約(民法第656条)と解されており、民法における委任契約の規定(第643条~)が適用されることになります。

2 遺言との違い

死後事務委任契約と混同されやすい制度として「遺言」があります。

遺言は、預貯金や土地建物といった不動産などの自分の「財産」を誰に承継させるかを定める制度であり、民法に定められた厳格な方式に従って作成しなければ効力を生じません。

一方、死後事務委任契約は、葬儀や納骨など、財産の承継以外の死後の事務処理を依頼する契約です。

例えば、「長男に自宅を相続させたい」という内容は遺言書によって定めるべき事項です。

これに対し、「葬儀を家族葬で行ってほしい」、「納骨は菩提寺にお願いしたい」、「寺への永代供養料を支払ってほしい」といった内容は死後事務委任契約によって実現を図ることになります。

したがって、遺言と死後事務委任は互いに代替する制度ではなく、目的の異なる制度として併用されることが少なくありません。

実務上は遺言だけでは葬儀や納骨等の死後事務まで十分に対応できない場合も少なくありません。そのため、遺言書と死後事務委任契約を組み合わせて利用することにより、財産の承継と死後事務の双方について本人の意思を実現するケースが増えています。

3 寺院が死後事務委任を受けるメリット

寺院は檀信徒と長年にわたり信頼関係を築いてきた存在です。

そのため、「子どもには迷惑をかけたくない」、「身寄りがないので最後までお寺にお願いしたい」と考える檀信徒が住職へ相談を持ち掛けることは、今後ますます増加するものと考えられます。

寺院が死後事務委任を受けることができれば、

  • 本人の希望に沿った葬儀・供養を実現できること
  • 永代供養や納骨まで一貫して対応できること
  • 本人が安心して終末期を迎えられること
  • 長年築いてきた寺檀関係を最後まで大切にできること

など大きな意義があります。

また、寺院にとっても、単なる葬儀の執行にとどまらず、地域における終活支援の基点として、檀信徒の人生を生前から最終段階まで一貫して支えるという宗教者本来の役割を果たすことに繋がるものといえるでしょう。

4 死後事務委任を利用する際の留意点

もっとも、死後事務委任は委託する檀信徒や受託する寺院側の双方に便利な制度である一方、その内容や範囲を十分理解しないまま引き受けることは望ましくありません。

例えば、

  • 相続手続まで依頼できると誤解していた
  • 亡くなった方の親族との意見が対立した
  • 委任された範囲が曖昧であったため、寺院側が想定以上の事務を求められた
  • 費用負担について親族と紛争になった

など、死後事務委任を巡るトラブルは少なくありません。

また、寺院が死後事務を受任する場合には、通常の葬儀や供養とは異なり、法律上の準委任契約に基づく受任者として一定の責任を負うことになります。

そのため、寺院が死後事務委任を受ける場合には、委託者たる檀信徒との間で、契約内容や委任範囲を明確に定めることが極めて重要です。

なお、寺院が受任する場合の具体的な法的リスクや注意点については、別途「寺院が死後事務委任を受任する場合のリスクと注意点」の記事において詳しく説明しておりますので、併せてご参照ください。

5 本件ケースにおける対応

近年、「終活」支援の一環として寺院に対して死後事務委任に関する相談が寄せられるケースは着実に増加しています。そして、死後事務委任は、身寄りのない方が増加する現代社会において今後ますます利用が広がることが予想されます。

しかし、住職がその制度内容を十分理解しないままに、長年の信頼関係のみを理由として安易に死後事務を引き受けてしまうと、後に親族との紛争や契約内容を巡る法的トラブルに巻き込まれる危険があります。

そのため、寺院としては、まず死後事務委任契約によってどこまで依頼を受けることができるのかを正しく理解した上で、必要に応じて遺言書、任意後見契約、財産管理委託契約等との役割分担も検討しながら対応することが望ましいといえます。

死後事務委任契約の具体的な内容や、寺院が受任する場合の契約書の作成、委任範囲の整理その他死後事務委任に関する法的問題については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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