Q 最近、身寄りのない高齢のお檀家から「亡くなった後の葬儀や納骨などをお願いしたい」との相談を受けることが増えてきました。寺院として檀信徒の最後を支えてあげたいという思いはありますが、住職がお寺として死後事務委任契約を引き受ける場合、どのような法的リスクがあるのでしょうか。また、トラブルを避けるためにはどのような点に注意すべきでしょうか。

目次
1 死後事務委任は「善意」だけでは引き受けてはいけない
「死後事務委任」とは、生前の本人が信頼できる第三者との間で委任契約を締結し、自らが死亡した後に必要となる各種事務について、その第三者に依頼しておく契約をいいます。
寺院は檀信徒との信頼関係が厚いため、「最後は住職にお願いしたい」と相談を受けることも少なくありません。
しかし、このような相談を受けた住職が、「長年のお付き合いだから引き受けましょう」と安易に口約束だけで受任してしまうことは極めて危険です。
死後事務委任は、宗教的な供養とは異なり、法律上の契約に基づく委任事務です。その法的性質は一般的には準委任契約(民法第656条)と解されており、民法における委任契約の規定(第643条~)が適用されることになります。
そのため、寺院は宗教者としてだけではなく、「契約上の受任者」として、契約内容に従い、善良な管理者として通常期待される注意義務(善管注意義務)を負うことになります。
死後事務委任契約として受任した以上、寺院には契約内容に従って適切に事務を処理する義務が生じ、これを怠った場合には親族等から損害賠償請求を受ける可能性もあります。
なお、死後事務委任の具体的内容については、別途の「死後事務委任とは」の記事も併せてご覧ください。
2 委任する範囲を明確にしておくことが重要
死後事務委任契約において最も多いトラブルは、「どこまで依頼したのか」が曖昧であることです。
例えば、
・葬儀のみ依頼されたと思っていた
・納骨までお願いしたつもりだった
・遺品整理まで頼んだ認識だった
・永代供養料の支払いまでお願いしたつもりだった
など、本人と受任者との認識が一致していないケースは少なくありません。
また、親族が後から現れ「そこまで住職に頼んだはずはない」と主張してくることも十分考えられます。
そのため、死後事務委任契約を締結する場合には、
・葬儀・火葬の手配
・納骨や永代供養の手続
・死亡届提出など行政手続への対応
・病院や介護施設への支払い
・賃貸住宅の明渡し
・公共料金・携帯電話等の解約
・家財道具の整理
など委任する内容を契約書に具体的に記載しておくことが極めて重要です。
3 「金銭管理」は最も慎重に対応すべき事項である
寺院が死後事務委任を受任する場合、最も注意しなければならないのがお金の管理に関するものです。
例えば、死後事務委任の依頼に伴って、「葬儀代として現金を預かってほしい」、「永代供養料を預かってほしい。」、「死後の費用として数百万円預かってほしい」と依頼されることがあります。
しかし、このような現金の預かりは、後日において、「使途が不明である」、「金額が不足している」、「関係ないものに勝手に使われた」などとして親族との紛争に発展する危険があります。
また、本人の死亡後は銀行の預金口座が凍結されるため、誰の費用として、どのような根拠で支出したのかについて厳格な説明が求められます。
寺院としては、安易に多額の金銭を預かることは避け、預かる場合でも契約書、預り証、出納記録等を整備して透明性を確保することが不可欠です。
また、寺院名義の口座と預託金を混在させないこと、出納状況を帳簿等で明確に管理することも重要です。
4 親族との紛争に巻き込まれる危険がある
本人が寺院に死後事務を委任していたとしても、その事実を知らない親族が後から現れて文句を言われることは珍しくありません。
例えば、「勝手に火葬した」、「家族葬ではなく一般葬にすべきだった」、「遺骨を返してほしい」、「なぜ住職が勝手に遺品を処分したのか」など、親族との間で意見が対立するケースがあります。
寺院としては、本人の意思を尊重することはもちろん重要ですが、それと同時に、本人の意思や個人情報保護にも十分配慮しつつ、可能であれば親族にも契約内容を説明し、あらかじめ理解を得ておくことが望ましいといえます。
また、親族間で争いが顕在化している場合には、寺院のみで対応しようとせずに弁護士等の専門家へ速やかに相談すべきでしょう。
5 寺院だけで全てを引き受けようとしないこと
死後事務委任契約は寺院だけで完結するものではありません。
実際には、
・遺言書
・任意後見契約
・財産管理委託契約
など、他の制度と組み合わせて利用されることが少なくありません。
また、相続に伴う遺産分割手続や不動産の名義変更、相続税申告などは寺院が行うべき業務ではありません。
そのため、寺院は、「葬儀・供養・納骨」など宗教活動と親和性の高い部分を中心に担当し、法律問題については弁護士、登記については司法書士、税務については税理士といった専門家と連携して対応することが、安全かつ円滑な死後事務の実現につながります。
6 本件ケースにおける対応
寺院が死後事務委任契約を受任することは、身寄りのない檀信徒や高齢者にとって大きな安心につながる一方、契約内容が不明確なまま受任した場合には、寺院自身が親族との紛争や損害賠償請求に巻き込まれる危険があります。
そのため、寺院としては、死後事務委任契約を締結する場合には、委任範囲を具体的かつ明確に定めた契約書を作成するとともに、多額の金銭の預託については慎重に対応し、必要に応じて弁護士、司法書士、税理士等の専門家と連携しながら進めることが望ましいといえます。
また、寺院が宗教的役割を超えて相続手続や財産管理まで広く引き受けることは、法的責任の拡大にもつながりかねません。寺院がすべての終活支援を担うのではなく、寺院として受任すべき業務と専門家へ委ねるべき業務とを適切に区分することが、檀信徒の安心と寺院自身のリスク管理の双方にとって極めて重要です。
寺院による死後事務委任契約の作成、委任範囲の整理、親族対応、契約締結時の法的リスクの検討その他死後事務委任に関する法的問題については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。
関連記事:死後事務委任とは





