寺社と守秘義務

Q お寺の住職が檀信徒から聞いた話や悩み事を他人に漏らした場合、何か問題はありますでしょうか。住職にも弁護士や医者のような「守秘義務」はあるのでしょうか。

1  寺社と守秘義務

  お寺には日々多くの人々が訪れており、お寺の住職には檀信徒はもちろんのこと、近隣住民なども含め様々な方からの悩みごと相談が寄せられています。

 その内容はまちまちであり、病気のこと、水子供養、相続・離婚など家族内のいざこざ、自らが犯した過ちなどその範囲は日常生活の非常に多岐にわたるものです。

 檀信徒らがそのような悩みごとを住職に話すのは、住職が秘密を守ったうえで自分の相談に乗ってくれるものと信頼してのことですから、住職が知り得たことがらなどをむやみに外部に漏らすことは、檀信徒らの心からの信頼を裏切るものであり、宗教者としての職業倫理に照らし到底許されることではありません。

 この点は、お寺も医者も弁護士も同じであり、住職や医者、弁護士が悩みごとをペラペラと外に漏らすようなことがあっては、世間のお寺や医者、弁護士に対する信頼はあっという間に失墜してしまい、宗教法人や医療、司法といった制度そのものの崩壊に直結するものです。それゆえ、その職務上の立場に基づき知り得た秘密については絶対に外部に漏らさないという「守秘義務」はお寺にとっても医師、弁護士にとっても最も根本的な職業倫理のひとつと位置付けられているのです。

2 守秘義務の法律上の規制

 お寺に対する守秘義務は、単なる倫理的なものだけでなく、法律上においても厳しく規律されています。

  刑法は第134条2項において「宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときも、前項(6月以下の懲役又は10万円以下の罰金)と同様とする。」として宗教者の守秘義務違反を厳しく罰しています。

 また、宗教者の守秘義務を通じた信教の自由に基づく檀信徒らとの信頼関係維持の観点から、警察その他国家権力から檀信徒にかかる秘密の開示を求められた場合であっても、宗教者は、押収拒絶権(刑事訴訟法第105条)や証言拒絶権(同法第149条、民事訴訟法第197条)を行使してこれを正面から拒否することができます。

 もし仮に、お寺が警察署から檀信徒の個人情報に関する資料を提出するよう求められた場合や、檀信徒にかかる事件につき裁判に証人として出頭のうえ証言するよう求められた場合、警察や裁判所などの国家権力からの要請であるからといって何も考えず安易に檀信徒の秘密を漏洩してしまうことは、状況によっては守秘義務違反になる危険性がありますので十分にご注意ください。

3 本件ケースにおける対応

 上述のとおり、お寺の住職が業務上知り得た檀信徒の秘密を不用意に第三者にペラペラと話してしまうことは守秘義務違反に該当する可能性があります。また、それが警察や裁判所などの国家権力からの要請であるからといって当然に宗教者としての守秘義務が免除されるわけではありません。警察や裁判所から求められている情報の内容によっては押収拒絶権や証言拒絶権により宗教者としてその情報開示を積極的に拒絶すべきケースもあり得ることを覚えておいてください。

 この場合においては事前に弁護士に相談のうえ、守秘義務違反とならないよう宗教者として檀信徒にかかる秘密を守るよう適切な対応をとる必要があります。

  寺社と守秘義務違反トラブルの具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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