Q 弊寺は敷地の一部を第三者に貸そうと思っているのですが、今後に新規墓地の拡張やペット霊園の新設などで使う可能性もありますので、将来にはきちんと返してもらいたいと思います。何人かの知り合いのお寺では借地を返してもらうのに借地人とトラブルになり大事になっていると聞いており、そのようなトラブルにはならないよう円満に返してもらいたいのですが、どうしたらよいのでしょうか。
借地について確実に返還を受けたい場合や将来的な活用を見込んでいる場合、通常の賃貸借契約ではなく、定期借地権の設定を活用することにより、賃貸人の負担を軽減することが可能です。
1 定期借地権制度について
通常の賃貸借契約では、貸主と借主の間で交渉力に差があるため、民法や借地借家法に定める賃貸借契約では借主保護の要請が働く場面が多々見受けられます。特に建物所有目的の土地賃貸借契約(借地契約)の場合、更新拒絶には貸主側に正当の事由を具備することが要求され(借地借家法6条)、賃貸人の意向で自由に更新拒絶ができるわけではありません。法定更新の制度により(借地借家法5条2項参照)、当事者間で合意が定まらなくても借地契約が更新されてしまうこともあるため、このような場合には、賃貸人にとって最終的な契約の終了や土地の返還についての見込みは不透明になりやすいといえます。
建物所有目的がない場合であっても、賃貸借契約のように継続的な関係を前提とする契約の場合、契約の解除などには信頼関係の破壊が認められなければいけないなど、一定の配慮が必要な場面も多く、対応には慎重さが要求されます。ときには、土地の返還を受けるべく、高額の立退料を支払わなければいけないなどの状況も考えられるため、漫然と借地契約を締結してしまうと、土地を貸す寺社にとってはリスクになってしまうことがあります。
他方で、保有財産の適切な管理、活用の観点で見ると、上記のリスクを嫌い、土地を漫然と放置し続けるというのも、寺社の適切な財産管理として妥当とはいえません。そこで、貸主にとっても将来的にきちんと決まったタイミングで、安心して土地を貸せる制度として、借地借家法では定期借地制度が認められています。定期借地制度には存続期間の長短や目的の違いに応じて①「一般定期借地権」、②「事業用定期借地権」、③「建物譲渡特約付借地権」の3種類の定期借地権があります。
2 ①「一般定期借地権」とは
一般定期借地権(①)は、借地借家法22条で認められているもので、50年以上の存続期間を定めて、書面で借地契約を交わす場合には、特約として、契約更新の排除、建物再築による存続期間の延長及び建物買取請求権の排除を定めることができるとするものです。一般定期借地権(①)の設定契約は、法文上「公正証書による等書面によってしなければならない」と定められていますが、同23条に定める事業用定期借地権(②)は「公正証書によってしなければならない」と規定されており文言が異なるため、一般定期借地権(①)は必ずしも公正証書による必要はなく、通常の契約書などの書面で締結することも可能です。一般定期借地権(①)は50年以上の期間設定が要求されるため、期間は長期になりますが、建物用途を問わないことから広く活用することが可能です。
3 ②「事業用定期借地権」とは
事業用定期借地権(②)とは、借地借家法23条1項、2項で定められており、1項では「専ら事業の要に供する建物…の所有を目的とし、かつ、存続期間を30年以上50年未満として借地権を設定する場合」には、一般定期借地権と同様に、契約更新の排除、建物再築による存続期間の延長及び建物買取請求権の排除を定めることができるとするものです。2項では、「専ら事業のように供する建物の所有を目的とし、かつ、存続期間を10年以上30年未満として借地権を設定する場合」については、特約として合意するまでもなく、契約の更新、建物再築による存続期間の延長、建物買取請求権が排除されるというものです。事業用定期借地権(②)については、期間の設定についてある程度柔軟に検討可能となりますが、1項、2項いずれの場合でも、「公正証書」によって借地権設定契約を締結しなければ効力が認められない点には注意が必要です(借地借家法23条3項)。
4 ③「建物譲渡特約付借地権」とは
建物譲渡特約付借地権(③)は、借地借家法24条で定めがあり、「借地権を消滅させるため、その設定後30年以上を経過した日に借地権の目的である土地の上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する旨」を定めた場合については、借地権者がその建物を買取ることによって借地権が消滅するというものです。法律上では特段書面の要求などについての規定はありません。
本条に基づけば、建物が事業用であるか否かを問わず、最低30年の期間設定により借地契約の終了が見込まれますが、借地権者の建物買取が条件になるため、建物買取の費用が見込まれる点に加え、そもそも買取予定建物が滅失していたような場合、再築建物に当然に特約の効力が及ぶとは限らず、普通借地権、一般定期借地権(①)、事業用定期借地権(②)として扱われるリスクがあります。この意味で、一般定期借地権(①)や事業用定期借地権(②)より、借地契約の終了が不透明になるリスクは残り得るといえるでしょう。
5 小括
上記のとおり、土地を賃貸借などによって活用するにあたっては、その契約形態、期間、特約内容など細かく検討を重ね、その目的に見合った選択を行い、リスクを回避する必要がございます。これらの点については、早期に専門家のアドバイスを受けることにより、あらかじめ対処しておくことが重要です。
定期借地権設定を含む不動産のご相談に関しては、弊所で迅速かつ適切なアドバイスが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。