お寺における借地契約の更新料

Q  弊寺は敷地の一部を居住用として第三者に貸しております。その方との借地契約が30年の期間満了により近く終了する予定なのですが、更新の際には弊寺は更新料の支払いを借地人に請求することはできるのでしょうか。その場合に具体的にいくら請求すればよいのでしょうか。

1.借地契約における更新料

 寺社がその所有地を檀家または近隣住民に貸した場合、借地契約を締結することになりますが、その契約の契約期間が満了した場合、契約を終了させるのか、契約を更新してそのまま借地状態を継続させるのかを検討することになります。

 借地契約を更新させる場合において、借地人が地主である寺社に対して契約更新の対価として支払う金銭のことを「更新料」といいます。

 更新料には、毎月支払われる地代を補充するという意味のほかに、借地契約を円満に更新することができる利益(地主からの更新拒絶による立退きトラブルを回避できる利益)についての対価という意味も広く包含されています。

 一般的な事実として、借地契約を更新する多くの場合において借地人から地主に対して更新料の支払いがなされています。それゆえ、寺社側としては、商慣習ないし事実たる慣習として、地主なのだから当然に更新料を受け取れるものと考えているかもしれません。

 しかし、借地契約における更新料は当然に借地人に請求できるわけではありませんのでこの点は十分に注意が必要です。

 この点については、最高裁も「宅地の賃貸借契約の賃貸期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払い義務が生じるとの商慣習ないし事実たる慣習が存在するものと認めるに足りない」(最判昭和51年10月1日 判時835号63頁)と指摘しており、更新料の支払いに関する商慣習ないし事実たる慣習の存在を明確に否定しています。

 したがって、借地契約書の条項中に更新料支払いの特約を盛り込んでおかない限り、借地人に地主に対する更新料の支払い義務は当然には発生しません。寺社としては、将来借地人に対して更新料の支払いを求めたいと考えているのであれば、借地契約締結の時点において、借地契約書中に更新料の記載を盛り込んでおく必要があるのです。

    

2.法定更新と更新料

 なお、借地契約中に更新料支払いの特約が明記されていても、地主と借地人菅での更新の合意がなされなかったことを理由に法定更新が成立した場合であっても、更新料の支払いを当然に請求できるのかについては別途注意する必要があります。

 この点について、東京高裁昭和56年7月15日判決は借地ではなく建物賃貸借についてではありますが「法定更新の場合、賃借人は、何らの金銭的負担なくして更新の効果を享受することができるとするのが借家法の趣旨であると解すべきものであるから、たとえ建物の賃貸借契約に更新料支払いの約定があっても、その約定は、法定更新の場合には適用の余地がないと解するのが相当である」と判示しており、法定更新の場合の更新料の支払いを否定しています。

 それゆえ、地主側としてはこれを踏まえたうえで、借地契約上の更新条項の記載内容については合意更新を擬制するなどその文言に留意しなければなりません。

3.適正な更新料の金額

 上記のとおり寺社として借地人に対して更新料の請求ができるとなった場合、具体的にいくらを請求するのが妥当なのでしょうか。

 これについては個々の契約ごとにそれぞれ事情が異なりますので、一義的にいくらと明確な定額を示すことは難しいところです。

 一般的には、契約締結に至った経緯事情、地代の金額などを含む契約内容、従前の地代の改訂状況、対象地の更地価格、公租公課の推移、過去数年間の地価上昇率などを踏まえて総合的に算定することになります。また、都心部と地方などの地域的な事情も更新料額に影響を与えます。

 東京など都心部においては借地権価格の5%から7%の範囲内で合意していることも多いようですので、これもひとつの相場基準として参考になるところです。

 

4.本件ケースにおける対応

 本件においては、まずは借地契約書の内容をチェックして、借地人に対して更新料を請求できるような条項内容になっているか否かを確認してください。

 そのうえで、更新料の請求ができるような内容になっているのであれば不動産業者その他専門家に相談したうえで適切な更新料額を算定してもらい、寺社と借地人間で具体的な話し合いを進めていくことになります。

 借地契約の更新トラブルの具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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