寺院と指定石材店制度

Q 当寺では、墓地内における墓石の建立や修繕工事について、施工の安全性や墓地の景観を維持するため、寺院が指定した石材店に限定して工事を行ってもらう制度、いわゆる「指定石材店制度」を導入しています。このような指定石材店制度を寺院墓地で設けることは法律上問題ないのでしょうか。また、墓地使用者から「知り合いの石材店に頼みたい」、「指定石材店は料金が高い」と言われた場合には、寺院としてどのように対応すればよいでしょうか。

寺院と指定石材店制度

1 「指定石材店制度」とは

 「指定石材店制度」とは、寺院墓地や民営霊園において、墓石の建立、修繕その他の工事を行う石材店を墓地経営者があらかじめ指定し、原則として指定された石材店に工事を行わせる仕組みをいいます。

 これは、墓地、埋葬等に関する法律などの法律で定められた制度ではありません。墓地経営者たる寺院において、利便性等の観点から、墓地の管理方法や墓地使用条件の一つとして設けている仕組みです。

 墓地では、墓石の建立に際して基礎工事や重機の搬入が必要となるほか、その作業のやり方によっては隣接墓所や参道を損傷する可能性もあります。また、建立後も墓石の補修、納骨、墓じまい等が長期間にわたって行われます。そのため、寺院にとって、墓地の構造や管理方法を熟知した一定の石材店に工事を行わせることには、安全管理、施工品質、景観維持、事故発生時の責任関係の明確化等の合理的な理由があります。

 実際、寺院墓地や民営霊園において指定石材店制度が採用されている例は少なくありません。墓地使用契約に関する実務上のガイドラインでも、墓地経営者が施工業者を指定する制度が広く行われていることを前提として、その適切な運用方法が検討されています。

 もっとも、指定石材店制度が認められるとしても、寺院がどのような条件でも自由に石材店を限定できるということではありません。制度を設ける目的と実際の運用との間に合理的な関係があることが重要です。

2 墓地使用契約・墓地使用規則への明記が重要

 指定石材店制度を導入する場合に最も重要なのは、墓地使用者に対して、その制度を墓地使用契約の締結前に明確に説明することです。

 例えば、墓地使用者が数百万円の永代使用料等を支払って墓地使用契約を締結した後になって、初めて「墓石は当寺指定の一社から購入しなければならない」と知らされた場合には、使用者との間で大きなトラブルとなる可能性があります。東京都の消費生活相談でも、指定石材店の価格が高く、他の業者を利用したいという相談が取り上げられています。

 したがって、指定石材店制度を採用するのであれば、墓地使用契約書又は墓地使用規則に、「墓石の建立その他の工事は寺院の指定する石材店によって行う」旨を明記するとともに、契約締結前にその内容を説明しておくことが重要です。

 また、「指定石材店がある」というだけではなく、どのような工事が指定の対象になるのかも明確にしておく必要があります。墓地使用契約については、利用者との権利義務関係を契約書等によって明確化することが厚生労働省の「墓地経営・管理の指針」でも重視されています。

 なお、墓地使用契約自体の基本的な考え方については、別記事「墓地使用契約とは」において詳しく解説していますので、併せてご参照ください。

3 独占禁止法との関係

 指定石材店制度については、墓地を使用するためには特定の石材店から墓石の購入・施工を受けなければならないという仕組みであるため、独占禁止法との関係が問題となることがあります。

 独占禁止法第19条は「不公正な取引方法」を禁止しており、公正取引委員会の一般指定第10項は、商品又は役務の供給に併せて、他の商品又は役務を自己又は自己が指定する事業者から購入させることなどを、不当な「抱き合わせ販売等」として規制しています。

 もっとも、指定石材店制度であれば当然に独占禁止法違反となるわけではありません。「不当」であるか否かについては、制度を設ける合理的理由、利用者に対する拘束の程度、石材店間の競争への影響等を具体的に検討する必要があります。

 墓地使用契約に関するガイドラインでも、墓石の建立は墓地の長期的な管理・保守と密接に関係するという特殊性から、指定石材店制度自体は許容されるものと考えられてきたとの整理を示したうえで、墓地使用契約の締結時に指定制度を明示し、指定施工業者を複数とするなど最低限の競争を確保することが望ましいとしています。

 したがって、寺院が一社だけを指定し、その一社が競争のない状態で著しく高額な工事代金を設定するような運用は、利用者との紛争だけでなく、独占禁止法上の問題を検討する必要が生じる可能性があります。可能であれば複数の指定石材店から墓地使用者が選択できる仕組みとすることは、指定石材店制度の合理性と透明性を高める一つの方法です。

4 既存の墓地使用者に後から指定制度を適用できるか

 新規の墓地使用者について、契約締結前に指定石材店制度を説明し、それを墓地使用条件として合意する場合については上記のとおりです。

他方で、既に何十年も墓地を使用している者に対して新たに指定制度を導入する場合においては別途の検討が必要となります。

 従来の墓地使用契約や墓地使用規則に石材店の指定に関する定めがなく、これまで墓地使用者が自由に石材店を選択していたにもかかわらず、寺院が一方的に「今後はこの石材店以外の工事を一切認めない」と変更すれば、既存の墓地使用者から、そのような制限は従来の墓地使用権の内容に含まれていないとの異議が出る可能性があります。

 墓地使用関係は長期間継続する契約関係ですので、新しい規則を制定すれば既存使用者に対してどのような制限でも当然に適用できるわけではありません。

 既存墓地に指定制度を導入する必要がある場合には、制度導入の必要性、従前の契約・規則、これまでの運用等を確認し、既存使用者への説明や経過措置を含めて慎重に制度設計する必要があります。

5 墓石の価格や石材店とのトラブルにも寺院は無関係ではない

 指定石材店制度では、墓地使用者から「指定石材店の見積りが高い」、「工事内容に納得できない」、「他の石材店ならもっと安い」といった苦情が寺院に寄せられることがあります。

 墓石の売買・工事契約自体は墓地使用者と石材店との間で締結されるものであり、寺院は契約上の直接の当事者ではありません。したがって、墓石の施工不良等について、当然に寺院が契約責任を負うものではありません。

 しかしながら、寺院自身が「この石材店以外は使用できない」と指定している以上、墓地使用者に対して単に「石材店との問題なので寺院は関係ありません」とすることは適切とはいえません。特に、寺院が一社のみを指定している場合には、使用者に石材店を変更する選択肢がありません。

 寺院としては、指定制度を適切に運用する観点から、指定石材店の施工品質、価格の透明性、利用者への説明、苦情対応等を継続的に確認しておくことが望ましく、重大な問題が繰り返される業者については指定の見直しを検討すべきでしょう。

 指定石材店制度は石材店に顧客を独占的に与える制度ではなく、あくまで寺院が墓地を適正に管理するための仕組みとして運用することが重要です。

6 石材店との契約と「名義貸し」への注意

 指定石材店制度を採用するのであれば、寺院と石材店との関係についても契約書を作成しておくことが重要です。

 例えば、指定の期間、対象となる工事、施工基準、工事前の寺院への申請、事故・損傷時の責任、賠償責任保険、再委託、利用者への営業方法、個人情報、苦情処理、保証、指定解除事由等を定めておくことが考えられます。

 特に注意すべきなのは、墓地経営そのものを石材店等の営利企業に委ねてしまわないということです。厚生労働省の「墓地経営・管理の指針」は、宗教法人が形式だけの墓地経営者となり、石材店等の営利企業が実質的に墓地経営の実権を握っている、いわゆる「名義貸し」の状態を明確に問題視しています。墓地の管理業務を外部に委託する場合であっても、最終的な経営責任はあくまで墓地経営者である寺院が果たせる体制を維持することが必要とされています。

 したがって、石材店に墓所の案内、墓石販売、工事等を担わせる場合であっても、誰に墓地使用を認めるか、墓地使用契約を締結するか、墓地使用規則をどう定めるかといった墓地経営の重要事項については、寺院自身が主体的に判断しなければなりません。

 指定石材店との関係が長期間継続すると、寺院側でも「昔からこの石材店に全部任せている」という状態になりがちです。しかし、墓地経営の主体はあくまで寺院であるという点を失わないことが極めて重要です。

7 本件ケースにおける対応

 本件のように、施工の安全性、墓地の景観、工事後の責任体制等を確保するために指定石材店制度を導入すること自体は、合理的な墓地管理の方法として十分考えられます。

 もっとも、制度を導入するのであれば、まず寺院が指定石材店を必要とする理由を明確にし、施工技術、信用、価格、保険加入、アフターサービス等の客観的な基準に基づいて業者を選定することが重要です。可能であれば複数の業者を指定し、墓地使用者がその中から選択できるようにすることも検討すべきでしょう。

 次に、墓地使用契約書及び墓地使用規則を整備し、指定石材店制度が存在すること、対象となる工事の範囲、指定業者の選択方法等を明確にした上で、新規の墓地使用者には契約締結前に十分説明しておく必要があります。

 既存の墓地使用者については、従前の契約や墓地使用規則、これまでの運用を確認し、新たな制度を一方的に適用するのではなく、必要性や経過措置を含めて慎重に検討すべきです。

 また、寺院と指定石材店との間でも契約書を作成し、施工基準、事故責任、価格・営業方法、苦情対応、指定解除等のルールを明確にしておく必要があります。そして、石材店に墓地の募集・販売等を任せる場合であっても、墓地経営の主体及び最終的な責任者は寺院自身であることを明確にしておかなければなりません。

 指定石材店制度は、適切に運用すれば寺院墓地の安全性と管理の質を維持する有効な仕組みとなります。他方、寺院や石材店の利益確保だけを目的として利用者の選択を過度に制限する制度となれば、利用者との紛争や独占禁止法上の問題を生じさせる可能性があります。寺院、石材店、墓地使用者の三者にとって合理的で透明性のある制度とすることが重要です。

 指定石材店制度の導入・見直し、墓地使用契約書・墓地使用規則の作成、石材店との業務提携契約、墓石工事・墓じまいに関するトラブルその他寺院墓地の管理運営に関する法律問題については、弁護士法人 永 総合法律事務所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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