近隣住民との騒音トラブル

Q 当寺では毎週末に法要を行っておりその際に読経などもするのですが、近所に引っ越してきた近隣住民から「お経の声がうるさいから止めろ」と苦情を言われてしまいました。お寺ゆえ読経なしで法要するわけにもいきませんので困っています。読経の音を下げなければならないのでしょうか。

1 法律や条例による規制

  檀信徒が集まっての宗教活動の実施においては、読経や梵鐘などある程度の「音」が発生することは避けられないところです。とはいえ、宗教活動のためなのだからといって深夜早朝に大音量で騒いでご近所に迷惑をかけても良いということではもちろんありません。

  一般的に、社会生活や企業活動において許される「騒音」の程度については、法律や条例などにより規制されています。

  例えば、環境基本法に基づき「騒音に係る環境上の条件について生活環境を保全し、人の健康の保護に資する上で維持されることが望ましい基準(環境基準)」が環境省告示として定められています。

 また、騒音規制法は、工事や事業場における事業活動、建設工事に伴って発生する相当範囲にわたる騒音や自動車騒音について必要な規制を定めています。

 自治体ごとの条例としても、例えば東京都は、都民の健康と安全を確保する環境に関する条例において地域の性質と時間の区分ごとに規制基準を定めています。

 

2 受忍限度論

  法律や条例以外にも、生活環境をめぐるトラブルにおいては、宗教活動による権利行使をしているものと、それにより迷惑・被害を被っているものとの利害関係調整の考え方として、「受忍限度論」の考え方が一般的に用いられています。

  「受忍限度論」とは、騒音、振動、悪臭などの生活環境に関する被害が主張された場合において、被害さえあれば全て違法であると考えるのではなく、各種事情を考慮したうえで、その被害が「社会生活上受忍すべき限度」を超えていると判断される場合においてはじめて違法となるとの考え方をいいます。

  受忍限度論の考え方については、最高裁平成6年3月24日判決が「工場等の操業に伴う騒音、粉じんによる被害が、第三者に対する関係において、違法な権利侵害ないし利益侵害になるかどうかは、侵害行為の態様、侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、当該工場等の所在地の地域環境、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の諸般の事情を総合的に考察して、被害が一般社会生活上受忍すべき程度を超えるものかどうかによって決すべきである」と積極的に判示しています。

  受忍限度論の考え方は、騒音トラブルだけではなく、ばい煙や粉じん、日照権侵害などの公害全般において、不法行為に該当するか否かの判断基準として用いられるものです。

3 民事調停、裁判外紛争解決手続の活用

 よほど大きなスピーカーを使っている場合や深夜早朝に梵鐘を何度も鳴らしているといった特別な場合でもない限り、法要時の読経の声の大きさなどは、法律や条例、受忍限度論に照らし、違法とまでは言えない程度であるケースがほとんどかと思います。

 それでも近隣住人とお寺との関係はその後も長年にわたって続いていくことにもなりますので、近隣の方が騒音で悩んでいるとの苦情の声が現実にあるのであれば、これに対しては法律論のみを振り回して形式的に対応を拒絶するというのは望ましくありません。

  お寺としては法要の意味や重要性などについてきちんと近隣住民に説明して理解して頂けるよう誠実に話し合いを積み重ねていき、また実際に発生している音の大きさや対応策などについて近隣の方の意見に耳を傾けるべきケースも多々あるでしょう。

 その場合には、当事者のみで直接話し合うという方法が難しければ、簡易裁判所による民事調停手続や、弁護士会の仲裁・あっせん手続といったADR手続を利用し、公平かつ中立的な第三者に間に入ってもらって双方の利害をひとつひとつ調整しながら協議を進めていくというのも良い方法です。

4 本件ケースにおける対応

 本件においては、お寺が法要の際に発している読経の声などの騒音が社会生活上受忍限度の範囲内に止まっているのか、あるいはそれを超えているのかについては、騒音の大きさ、騒音発生の時間帯、その地域エリア、苦情を申し入れてくる近隣住民の人数と苦情回数、改善策の有無や程度などによってその判断が大きく異なってくるところです。

 また、近隣住民との将来にわたる円満な関係を維持していくためにもそのやり取りにおいては客観的な数値等を踏まえたうえでのデリケートな対応が求められますので十分ご注意ください。 近隣との騒音トラブルの具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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