お寺における建物の無断増改築

Q 弊寺で貸している借地には、賃借人が自分で建てた建物が存在しているのですが、この度賃借人の方から「建物について増改築したい」旨の申し入れがありました。借地契約上、賃借人は無断増改築できないこととしているため、このような申入れをしてきたものと理解していますが、お寺としてはどのように対応すればいいでしょうか。また、仮に無断で増改築してきた場合には、お寺としては無断増改築を理由に賃貸借契約を解除することはできますか。

 賃貸借契約上の特約として、借地上の建物に関する増改築について貸主の承諾を必要としている場合、通常であれば、貸主にとっての影響度合い(増改築に伴う原状回復の困難性など)を考慮し、具体的な承諾料の額を協議した上で対応することとなります。なお、仮に無断増改築があった場合、それが当事者間の信頼関係を破壊するに至っていると判断された場合には貸主としては賃貸借契約を解除できる場合があります。

1 増改築禁止特約について

 民法では、無断で行う転貸借や賃借権の譲渡は明文で禁止していますが(民法612条)、増改築について当然には禁止されていません。また、借地上において借主が自ら建築した建物については借主にその所有権がある以上、その建物に増改築等の変更を加えることは借主の自由であることが建前といえます。

 しかしながら、借地上の建物といえども、変更の程度によっては、地代の相当性、原状回復や建物買取請求権等への影響なども考えられることから、建物賃貸借契約に限らず、一般的に賃貸借契約においては貸主の承諾を得ることなく増改築を禁止する条項を設定することは許容されています。一般的な賃貸借契約書であれば、無断増改築について禁止する旨の特約が設定されていることがほとんどでしょう。

2 賃借人からの申し入れ対応

 上記の増改築禁止特約の存在を前提に、借主から増改築承諾の申し入れがあった場合はどうなるでしょうか。通常の流れであれば、貸主と借主との間で協議が行われ、増改築の程度、借地契約への影響などに鑑みた承諾料を借主が貸主に対して支払う形になります。承諾料の金額については、明確に相場があるわけではないですが、増改築の程度によって更地価格の3%から5%程度とする例が散見されます。

 仮に任意で協議が調わない場合には、申立てがあれば、裁判所は貸主に代わって増改築の許可を与えることがあります(借地借家法17条2項)。許可を与えるか否かは、増改築に至る理由や、それに伴う貸主への影響などを総合的に考慮した上で「土地の通常の利用上相当とすべき増改築」にあたるか否かを考慮することとなります。なお、許可を与えるにあたって、裁判所は必要があれば財産上の給付(承諾料)の命令等必要な処分を決めることができます(借地借家法17条3項)。

 そのため、貸主の側からすると、不必要に借主からの申入れを拒絶してしまうと、紛争が法的手続きへ移行するリスクがあるため、その対応には十分留意する必要があります。将来における長期かつ円満で良好な関係性の維持を考慮すれば、客観的に相当な金額での承諾料を借主と協議する方向で進めるのが望ましい対応といえます。

3 無断増改築について

 増改築禁止の特約があるにも関わらず、無断で増改築が行われた場合、形式的には契約上の債務不履行があるといえます。しかしながら、一口に増改築といっても、その程度は様々であるとともに、賃貸借契約のような継続的契約において、程度によらず一回の違反を理由に契約の解除を行うことは当事者にとって酷な場合があります。

 そのため、実際には契約違反があったとしてもその程度が当事者間の信頼関係を破壊したと認められない場合には契約の解除は認められないことになっています。

 とはいえ、なし崩し的に現状に変更を加えられてしまうことを避けるため、貸主の立場からすれば、賃貸借契約締結後においても、きちんと借主が義務を遵守しているかについて借主の使用収益の状況についても適宜気を配っていく必要があるといえるでしょう。

4 小括

 上記のとおり、増改築禁止の特約を設けたとしても、全ての場合について、増改築出来ないというわけではなく、必要に応じて承諾料の協議など特別に対応する必要があります。これに加え、上記の特約違反をもって当然に契約の解除が可能かについては慎重な検討を要するといえるでしょう。これらについて全て自力で対応することは負担が大きいことから、早期に専門家のアドバイスを受けることが重要です。

 弊所では、本件で扱った事例を含め、借主による建物の無断増改築についても、迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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