お寺における借地上建物の老朽化と建替え

Q  弊寺は敷地の一部を第三者に貸しておりますが、借地上に建てた住居も築50年を超えて相当老朽化してきたとのことで、先日、借地人が訪ねてきて建物を新たに建て替えて一部アパートにしたいと弊寺に相談してきました。このような借地人の要望について、地主としてどのように対応したらよいのでしょうか。

1.借地権の建物増改築

 借地権は建物の所有を目的とするものですから、借地人が古くなった既存の建物を増改築したり、これを取り壊して新しい建物を建築することは、借地契約の基本的部分ですから借地人としては地主の承諾なくこれを自由に行うことができるというのが本来的なところです。

 しかし、地主の立場からしてみれば、借地上の建物を勝手に増改築されてしまうことは借地契約の期間が長期化することにつながりかねません。

 そこで、通常の借地契約書においては「賃借人は、その所有建物を改築または増築する場合は、賃貸人の承諾を得なければならない」との「増改築制限特約」が明記されているのが一般的です。

 借地契約に増改築制限特約が付いている場合、借地人が地主である寺社に無断で建物の改築(建替え)または増築をした場合、借地人としては契約違反の債務不履行事由に該当するものとして借地契約を解除されてしまうおそれがあります。

 

2.地主の増改築承諾

 そこで、借地契約に増改築制限特約が付いている場合においては、借地人としては、まずは地主側と話し合いを重ね、増改築の程度の応じた「承諾料」を支払ったうえで増改築工事に着手することになるのが一般的です。

 この際に、地主である寺社としては、現在の建物の老朽化具合を含む建替えの必要性、具体的な増改築工事の内容や期間、寺社や近隣住民への影響の程度などについてきちんと借地人から説明を受けておかなければなりません。

 そのうえで、増改築にかかる承諾料の金額で折り合いがつかない場合、借地人としては、裁判所に対して代諾許可の申立て(借地借家法第17条2項)を行うことができます。これにより、借地人としては、地主に代わって裁判所から建物増改築の承諾を得ることができます(ただし、裁判所としては増改築を許可する条件として地代の増額変更と一定の増改築承諾料を地主に支払うよう命ずるのが通常です。)。

 

3.適切な増改築承諾料

 「増改築承諾料」とは、借地上の建物を増改築することに承諾するための対価として借地人から地主に支払われる金銭をいいます。

 それでは、寺社として借地人に対して建物の増改築を承諾せざるを得ないとなった場合、具体的にいくらの増改築承諾料とするのが妥当なのでしょうか。

 これについては上述のような現建物の老朽化具合を含む建替えの必要性、具体的な増改築工事の内容(木造か鉄筋コンクリートか等)や期間、寺社や近隣住民への影響の程度などそれぞれの事情によりますので一義的にいくらと明確な定額を示すことは難しいところです。

 東京など都心部においては、当該対象地の更地価格の10%の範囲内で合意していることも多いようですので、これがひとつの相場基準として参考になります。

 

4.親族等への借地権譲渡

 なお、今回のようなご相談では、借地人が息子などに借地権を譲渡したうえで息子にて新築のための住宅ローンを組むことが多いと思いますが、親族等への借地権譲渡についてはQ5をご参照ください。

 

5.本件ケースにおける対応

 本件においては、まずは借地契約書において増改築制限特約が付いているかを確認したうえで、借地人がどのような事情に基づいて借地権上の建物の増改築を希望しているのか、増改築する建物の種類(木造か鉄筋コンクリートか等)と工事にかかる期間、日照その他寺社や近隣住民への影響の程度などの詳しい状況について借地人に確認をしてください。

 そのうえで、借地人による増改築を承諾するかについて寺社として検討することになります。

 増改築承諾料の金額等の条件で話がつかない場合は借地人から代諾許可申立てをなされる可能性がありますので、徒に承諾を拒否するのではなく、裁判所が具体的にいくら程度にて譲渡承諾料の算定をしそうなのかも視野に入れながら協議を進めるのがポイントです。

 代諾許可申立ての借地非訟手続となった場合には相当に専門的な知識経験が必要となりますので少なくともこの段階においては弁護士等の専門家にご相談されることを強くお勧めいたします。

 

 借地上建物の増改築トラブルの具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。

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