Q 弊寺は敷地の一部を第三者に貸しておりましたが、来年に借地契約の期間が満了する予定です。借地人からは引き続き土地を貸して欲しいと契約の更新を希望されておりますが、弊寺としては今後新たな納骨堂やペット霊園を建設したいなとも考えており、これ以上長い期間貸したくはありません。地主として契約の更新を拒否して退去してもらうことはできるのでしょうか。
1.借地契約の更新と更新拒絶
借地契約で定めた存続期間が満了した場合、建物を建築して長期間にわたって借地を使用し続けてきた借地人を保護するという観点から、借地人は借地契約の存続期間を更新するよう地主に請求することができます。
しかし、地主としても借地契約の存続期間が満了した後に自らその土地を利用すべき必要性があるにもかかわらず自身の土地を有効活用できないとなると、一方的な契約更新により大きな損害を被ることになりかねません。
そこで、借地人からの更新要求について、地主側に一定の「正当事由」がある場合には、地主は当該更新を拒絶することができ、その場合、借地契約は契約期間の満了と同時に終了することになります(借地借家法第5条、第6条)。
その意味において、地主側及び借地人側の双方にとって、この「正当事由」が認められるか否かが極めて重要なポイントとなってきます。
2.正当事由の具体的内容
借地人が更新を拒絶することができる「正当事由」を備えているか否かについては、地主側の自己使用の必要性だけではなく、①地主側及び借地人側それぞれの土地の使用を必要とする事情、②借地についての従前の経過、③土地の使用状況、④地主側からの財産上の給付(立退料)の提示の有無とその金額などの諸要素を総合的に勘案して判断することになります。
①双方当事者の土地使用を必要とする事情
正当事由の有無を判断するうえで最も重要なポイントです。地主側の自己使用の必要性だけではなく、借地人側の使用継続の必要性も合わせて総合的に考慮されます。
ここでは、現時点または地主自身での土地使用の必要性だけではなく、近い将来に住居として使用する必要性であるとか、地主の息子や親族が家を建てて住むなどといった要素も正当事由の有無を判断するうえでの材料になります。
②借地に関する従前の経過事情
設定された借地契約に関する経過として以下のような要素が問題になります。
ⅰそもそも土地を貸すに至ったきっかけについて(地主の厚意など心情的な理由であったのか、地代獲得という単なる金銭的な理由によるものだったのか)
ⅱ借地契約の具体的条件(地代の設定金額、権利金、更新料支払いの有無とその金額、契約期間の長短など)
ⅲ借地人としての義務の履行状況(地代の支払いにつき未払いや遅延がないか、借地の使用態様に問題がないかなど)
③土地の利用状況
借地人が具体的に借地をどのように使用しているのかについて、以下のような要素が問題になります。
ⅰ借地上に経っている建物の種類(木造か鉄筋コンクリート造かなど)、規模、築年数
ⅱ借地上の建物の用途(自宅目的かアパートなど収益目的か)
ⅲ借地の利用者が誰か(借地人自身か、転借人たる第三者か)
ⅳ借地の近隣など周辺状況の変化(再開発など)
④財産上の給付の申出
地主が借地人に交付する金銭的な給付、いわゆる「立退料」の交付です。
ただし立退料はあくまで正当事由を補完するための要素に過ぎません。
それゆえ、上記①~③の諸事情がない状況で、多額の立退料を提供したとしても、それだけでは正当事由が認められるわけではない点に注意する必要があります。
なお、具体的な立退料の金額の算定方法などについては、Q8にて詳しく説明していますのでご参照ください。
3.本件ケースにおける対応
本件においては、寺社側にも納骨堂やペット霊園の建設などの将来における自己使用の必要性があるとのことですので、これら寺社側の自己使用の必要性について借地人側に説明したうえで、借地人側の継続使用の必要性の状況等についても詳しく確認してください。
そのうえで、寺社側としては借地契約につき更新拒絶の通知をしたうえで、借地人側に期間満了をもって退去を求めていくことになります。その際には、上記①~④の諸要素を踏まえた「正当事由」の有無が争点となりますので、これら諸要素をひとつひとつ踏まえた話し合いを借地人側と進めていくことがポイントです。
借地契約の更新トラブルの具体的な解決については、弊所にて迅速かつ適切なアドバイスを申し上げることが可能ですので、いつでもお気軽にご相談ください。